大阪体育大・江口喬太郎 主将・主務・リベロの3役 「泣いてしまった」後輩の言葉
第75回 全日本バレーボール大学男子選手権大会
11月29日@武蔵の森総合スポーツプラザ(東京)
中京大学3(25-18.25-18.25-23)0大阪体育大学
中京大学にマッチポイントを取られてから、4連続得点で23-24まで迫った。相手に対して「三度目の正直」で勝利を目指した大阪体育大学にとって、その4点はまさに「執念」と「意地」だった。
昨年の全日本インカレ初戦はフルセットの末、明治大学に勝利した。勢いそのままに、ベスト8進出を目指した3回戦で敗れた相手が中京大。今季の西日本インカレでも、ベスト16進出を阻まれた。3度目の対戦が巡ってくる奇縁も「リベンジの機会」ととらえて臨み、競り合う場面もあった。だが試合はセットカウント3-0で敗れ、またも同じ壁の前に屈する結果となった。
一般入試からバレーボール部へ
新チームが始まった春、チームは期待感より不安の方が上回っていた。江口喬太郎主将(4年、福岡・城南)はそう明かす。
「一つ上にはすごい先輩がいて、一つ下も高校時代から実績のある選手が入ってきたのに対して、自分たちは実力も経験も足りない。『キャプテンをどうするか』と話し合う時点で、そもそも自分たちが全カレまで続けるのか。入学した頃から考えても『俺らの代、マズいやろ』という世代でした」
江口は一般入試を経てバレーボール部に入部し、そもそも「大学に入ったばかりの頃はバレー部に入るかも迷っていた」と振り返る。3年になると選手と主務を兼ね、昨年のインカレはユニフォームを着てではなく、スタンド席から応援した。最上級生となる際には「自分たちは引退して、キャプテンも下級生に任せたほうがいいのではないか」という声もあったが、「このまま春で辞めるのは悔しい」と自ら引き受け、主将と主務、コートの中ではリベロとして守備の要を担った。
レギュラーは3年生以下がメインで、コートにレギュラーとして立つ4年生は自分1人しかいない。ましてやリベロで自ら得点を取ることもできず、「何ができるか、ずっと考えてきた」と模索する日々を送った。だが、直接自らのサーブやスパイクで得点を取ることはできなくても、つなぐ1本のレシーブや声かけで点を取らせることはできる。最後のインカレでも、まさにそんな場面があった。
中京大が2セット先取で迎えた第3セット終盤、19-23の場面で、中京大はエースの加藤幹也(4年、県岐阜商)にボールを集める。その強打を見事なレシーブで上げたのが江口だ。
「実力は相手の方が勝っているのは、わかっていました。自分たちが勝つためには勢いで上回るしかないと思っていたので、とにかく攻める。レシーブも『攻め気』で行くことだけ考えていたので、必死でした」
だが得点にはつながらずマッチポイントとされ、1点を取られれば、その時点で試合が終わる。しかもサーブ順がミドルブロッカーの榮温輝(3年、鎮西)に回ってきたため、リベロの江口はコートを離れ、代わって前衛にミドルブロッカーの小川永遠(3年、開智)が入った。
頼む。1点でも多く取ってくれ。祈るようにコートを離れる江口に、小川が言った。
「任せて下さい。必ずつないで回しますから」
そして怒涛の4連続得点。試合には敗れたが、江口はその言葉を聞いた時点で「すでに泣いてしまった」。真っ赤になった目から、またあふれる涙をぬぐった。「本当に頼もしい後輩だな、と思って。3回生たちの粘りや思いを目の前にしたら、試合中なのに泣いていました」
最後まで笑顔だったリリーフサーバー
この試合がラストゲームになる4年生にとっては、悔しさと寂しさ。さまざまな思いが交錯する中、最後まで笑顔だったのが第3セット中盤にリリーフサーバーとして送り出された福井裕貴(4年、京都学園)だ。
福井がコートに入ると盛り上がるのは、ベンチだけではなく、スタンドも同じ。応援する思いが届け、とばかりに大きく手をたたき、サーブを打つ瞬間に合わせ、大げさではなく全員がスマートフォンを構えて動画や写真を撮影する。結果的にはエンドラインを大きく割るアウトとなったが、劣勢でも出るだけで盛り上げ、笑顔を呼び込んだ。
「めちゃくちゃ緊張した」と苦笑いを浮かべ、「リリーフサーバーは難しい」と福井は繰り返す。大学生活最後の公式戦となったこの試合では大きくアウトとなったが、昨年の全日本インカレでは同じ中京大を相手に、サービスエースを取った経験もある。
たった1本で結果が求められる難しい役割。だが「やることはやった」と福井は胸を張る。「自分ができることを全部やりきったら、いいこともある。後輩たちもそう思える土台になれていたらうれしいし、ちょっとぐらいはそう思わせることもできたんじゃないかな」
4年生や浅井監督が築いた土台、次の世代へ
笑顔と涙で「やりきった」と語る4年生を送り出し、築いた土台に上乗せしていくのはこれからを担う後輩たちだ。第2セットからアウトサイドヒッターとして投入された篠森勇希(3年、松山工)は悔しさをにじませながらも、これからを見据え表情を引き締めた。
「どんな形でもコートにいて、どんな状況でもボールをつなぐ。次の人にボールと一緒に思いをつなげられるのがバレーボールなので、狙われても、止められても、とにかく楽しむことだけ意識してきました。でも、勢いだけでは勝てないと思うので、これからはもっとチーム全体のアベレージを引き上げられるように、心は熱く、でも冷静に。来シーズンは自分たちの代が中心になるので、チームの士気やレベルをもっと高めていきたいです」
そしてこの大会が最後になるのは4年生だけでなく、コーチ時代から含め43年チームを指揮した浅井正仁監督も同じだ。試合直後は「中京大とは攻撃、レシーブ、すべてのプレーにおいて差があった」と完敗を認めながらも、「大学生の4年間は技術やパワー、身体の成長も大事だけれど、精神面、メンタルの成長や人間力をつけるための教育が求められる時期」と述べる。
関東1部や関西1部上位のチームとは異なり、大阪体育大には高校時代から全国大会の経験が豊富な選手ばかりでなく、さまざまな面々が集う。上級生がそろう学年ならばある程度メンバーを定めることもできるが、今季のように下級生主体となる場合は「常にメンバーを固定したまま戦うこともできない」と述べ、だからこそ、どれだけ競争意識を高めることができるかが大事になる。
「たとえば3回生のセッターに『来年は1人で上げるのは厳しいよな』『でも1人で上げる覚悟を持って、もっとミドルの速攻が使えるように』と話す。でも、本心では同じことを隣にいる1年生のセッターにも伝えたい。野村(克也)監督みたいなやり方ですよ。勝ち負けだけじゃなく、選手がいかに成長志向を持ってできるか。大学、というのはそういうことを育む場所ですから」
三度目の正直を果たすことはできなかった。だが区切りの大会で育まれたもの、これからへつなげ、つながっていくもの。ここからまた新たなスタートへ、第一歩となるはずだ。