野球

東北学院大・金刃憲人コーチ「40人いれば40通りのピッチャーを作る」指導法と背景

今年から外部コーチの立場で東北学院大の選手たちを指導する金刃憲人氏(2枚目を除きすべて撮影・川浪康太郎)

プロ野球の読売ジャイアンツや東北楽天ゴールデンイーグルスでプレーした金刃憲人さんが、今年から東北学院大学の「ピッチングコーディネーター」を務めている。チームを率いる星孝典監督は巨人時代の同僚。楽天でも星監督が2軍バッテリーコーチ、金刃コーチがデータコーチとして同じ時期に在籍していた縁があり、両者のタッグが実現した。金刃コーチの役割は「40人いれば40通りのピッチャーを作る」こと。現役引退後に培った指導経験を大学野球の舞台で発揮する。

東北学院大・堀川大成 遅咲きのエース、涙を流せなかった高校最後の試合が開花の布石

星孝典監督が声をかけ実現「レベルアップにつながる」

2月下旬、東北学院大が練習する「楽天イーグルス利府球場」を訪ねると、元プロ野球選手の2人が真剣な表情で、身ぶり手ぶりを交えながら選手たちに助言を送っていた。2023年から母校を率いる星監督は、「女子や小中学生を教えていて、新しい知識や考えを持つ彼が加われば、チームのレベルアップにつながると考えました」と金刃コーチに声をかけた意図を明かす。

金刃コーチは立命館大学から2006年の大学生・社会人ドラフト希望枠で巨人に入団。楽天に移籍した2013年は39試合に登板して日本一に貢献し、2016年には自己最多54試合の登板で防御率2.38をマークするなど、主に中継ぎ左腕として活躍した。

立命館大学時代には関西学生リーグでノーヒットノーランを達成(撮影・上山浩也)

2017年に現役を引退した後は楽天のチーム戦略室にデータコーチとして残り、並行して女子野球のクラーク記念国際高仙台のコーチに就任して技術指導の経験も積んだ。2023年にアマチュア指導資格を回復し、独立してからは、小中学生を対象とした野球塾を開くなど、幅広く活動している。女子や小中学生の指導は継続したまま、東北学院大の練習には外部コーチという形で不定期に参加する。

現役時代のサイドスロー転向が原体験に

東北学院大では「ピッチングコーディネーター」という肩書の通り、「ピッチングにつながるすべて」を教える。技術、メンタル、トレーニング、ストレッチ……。練習メニューをリニューアルして、「金刃流」を浸透させている最中だ。その前提として欠かせないのが選手とのコミュニケーション。金刃コーチは次のように話す。

「コロナの時代ということもあって、今は自分の思いを口にできる子が少ない。『ああしたい、こうしたい』というのがなく、小さい枠の中で自分で完結してしまう。星さんからもそこの部分が課題だと言われていたので、まずは選手の顔と名前を覚えて、待つのではなくこちらから声をかけるところから始めました」

女子野球や小中学生向けの野球塾で教えているからこそのコミュニケーション術がある

ほかのカテゴリーの指導経験があるからこそ、距離の縮め方は知っている。たわいもない話で選手の緊張を解き、徐々に「どんな投手になりたいか」という本音を聞き出す。「大学生は個人差があって、自分の芯を持っている選手もいれば、悩んでいる選手や野球どころではない選手もいる」。大学生特有の傾向も理解しつつ、一人ひとりと信頼関係を築いていく。

その上で目指すのが、「監督の選択肢を増やす」ことだ。金刃コーチは「監督が試合中に『ゴロが欲しい』、『三振が欲しい』となった時に、ピッチャーのバリエーションが必要。同じ140キロでも、浮き上がる140キロと下に動く140キロでは違う。球質や腕の角度、足の上げ方を変えて、同じようなピッチャーがいない状態を作りたいんです」と力説する。

金刃コーチ自身、楽天への移籍直後に当時の星野仙一監督から勧められ、サイドスローに転向した。それを機に伸び悩む時期を脱却した過去がある。だからこそ、「勝つことはもちろん、40人の将来もある。試合に出られなかったら4年間終わり、ではなく、出られない子のアプローチを考える」とも力を込める。教え子に長く野球を続けてもらう意味でも、バリエーションを増やすことに重きを置く。

星孝典監督(右)から声をかけられ、タッグが実現した

「勝つためのデータの見方」や野手にも伝授

楽天でデータコーチを務めた経験も生かしていく。星監督が「データを駆使した野球も採り入れ始めている。そういう面でも新たな風を吹かしてくれるのではないかと期待しています」と話すように、「勝つためのデータの見方」は野手も含めて金刃コーチが伝授する。

近年の仙台六大学野球リーグは仙台大学と東北福祉大学の「2強」状態が続いている。ただ東北学院大は昨秋、いずれもリーグ2位のチーム打率3割7厘、チーム防御率1.19をマークするなど奮闘。「2強」との対戦は4戦全敗だったものの、内訳は1点差ゲームと2点差ゲームが2試合ずつと肉薄した。

「さまざまな視点で気づかせたい。例えば、打者は遠くに飛ばすことがフォーカスされがちですが、当てて前に飛ばすという本質や投手との駆け引きも大切。データを用いた『気づく野球』ができるようになれば、1点差、2点差で負ける試合が1点差、2点差で勝つ試合になる可能性が出てくる」と金刃コーチ。「これは僕にしか教えられないので」と不敵な笑みを浮かべる。

楽天でデータコーチを務めた経験も還元する

東北でかなえたい「二つ目の夢」

「プロ野球選手になる」という夢をかなえた金刃コーチは、「二つ目の夢」の実現に向けて走っている。

「仙台を拠点とした複合施設を作りたい。東北各地から親子で来て、子どもには野球をする場、親にはトレーニングできる環境などを提供する。さらに現役を引退したプロ野球選手を受け入れるアカデミーのようなものも作れればと考えています」

兵庫県出身の金刃コーチが現役引退後、地元に戻らず仙台に残ったのは、東北の野球人口と野球をする施設の少なさを目の当たりにしたからだ。大学野球の指導はその夢に直結しないかもしれないが、あらゆるカテゴリーの選手を指導する経験は必ずや血となり肉となる。

「元プロ野球選手が何で残るかというと、野球しかない。プロでスキルを極めた者にしかできないことはあると思っています。とはいえプロ野球選手は教えるプロではないので、『元プロ』というのが先行しないよう日々勉強して、中身のある指導を目指しています」。日々の努力の先に夢の実現があることは、現役時代に立証済み。仙台でもう一度、夢をかなえる。

現役引退後も地元には戻らず、仙台の地から二つ目の夢を追う

in Additionあわせて読みたい