東北学院大・小野涼介 アンダースロー転向から約3カ月後の甲子園で「驚き」の好投
2年前の夏の甲子園で、アンダースロー転向からわずか約3カ月の右腕が、堂々たる投球を披露した。当時2年生ながら全2試合で先発を託された東北学院大学の小野涼介（1年、一関学院）だ。初戦の京都国際（京都）戦で九回途中5失点と粘投してサヨナラ勝ちに貢献すると、続く明豊（大分）戦は四回途中2失点（自責0）と奮闘。聖地のマウンドで自らの武器を確立した経験は、間違いなく大学生になった今に生きている。
高校1年時は「通用している感覚はなかった」
小野は仙台市出身。小、中では投手と内野手を兼任し、小学生の頃はオーバースロー、中学生の頃はサイドスローで投げていた。指導者の勧めでサイドスローに転向した中学時代は、スライダーなど横の変化球を駆使する器用なタイプの投手として活路を見いだしたが、在籍していた硬式野球チームでは投手陣の2番手だったという。
「甲子園を目指せて、自分も頑張れば試合に出場できる」を基準に、隣県・岩手の一関学院に進学。しかし入学当初、チーム内に速球派のオーバースロー投手が多数いたこともあり、「試合に出るのは厳しいかな」と出ばなをくじかれた。
1年秋から登板機会を得たが、安定感を欠き「通用している感覚はなかった」。転機が訪れたのは2年生になったばかりの5月だった。
プロ野球のアンダースロー投手を参考にフォーム確立
春の地区予選でメンバー入りできずに悩んでいた際、一関学院の高橋滋監督から「腕を下げてみたら？」と声をかけられた。もともと「アンダーという選択肢もあるかもしれない」と考えていた小野は即決。監督の言葉が背中を押した。
転向を決めた当初、参考にしたのがプロ野球選手の投球動画だった。渡辺俊介（元・千葉ロッテマリーンズなど）、牧田和久（元・埼玉西武ライオンズなど）、與座海人（西武）らNPBで結果を残しているアンダースロー投手の動画を見比べた。中でも「サイドに近い」ことからマネしやすかった牧田の投球動画を見ながらシャドーピッチングを繰り返し、フォームを固めた。
「サイドとアンダーでは全然違う。サイドよりも角度が深くなるので、下半身を使えるようにしないといけない」と考え、下半身の強化にも努めた一方、実戦ではサイドスローと同じイメージで投げることを心がけた。練習試合ですぐに順応ぶりを発揮し、転向から1カ月も経たない春の県大会で再びメンバー入り。強豪・花巻東を相手に好投し、当時2年の佐々木麟太郎（スタンフォード大学）を無安打に抑えるなど、着実に手応えをつかんだ。
夏の岩手大会はノーシードから勝ち上がり、齋藤響介（現・オリックス・バファローズ）がエースだった盛岡中央を退けて優勝。小野は先発の柱を担い、甲子園への切符獲得に大きく貢献した。
最速120キロ未満、奪三振0でも
アンダースロー転向から約3カ月で、初めて臨んだ甲子園。初戦の試合直前に先発登板を告げられると、緊張に襲われた。初回にいきなり先制打を浴び、「やっぱりレベルが高い」と感じながらも、「コントロールできていないわけではないし調子も悪くないから、このまま投げよう」と冷静さは失わなかった。
打線が逆転してくれた後の二回から七回までは凡打の山を築き無失点。八、九回と失点し、リードを守り切ることはできなかったが、小野の力投がサヨナラ勝利を呼び込んだ。2回戦の明豊戦と合わせて計11回3分の2を投げ、奪三振は0。120キロに満たない直球とスライダーを武器に、持ち前の打たせて取る投球を貫いた。
「対戦相手の動画やデータを見て自信はあったんですけど、実際に甲子園で投げてみて抑えられたのがうれしいというより驚きだった。球が遅くても、三振を取れなくても、しっかりコントロールできれば試合は作れるんだと感じました」
甲子園で体感した「驚き」を自信に変え、一方で強打者と対戦して明らかになった「苦手な左打者のインコースに投げ切れていない」といった課題を克服すべく、試行錯誤を重ねた。3年時は甲子園にこそ届かなかったものの、成長を続けて「仙台六大学で仙台大や東北福祉大を倒そう」と地元の東北学院大に進学した。
まだまだ発展途上、球速アップをめざして
大学では「大学野球で勝つためには球速も必要」と考え、まずは最速125キロを目指して球速アップにも取り組んでいる。1年春からリーグ戦で3試合に登板。中でも初登板初先発となった東北工業大学との3回戦では、八回途中2安打1失点と好投した。計10回3分の2を投げ10四死球と制球面に課題を残したが、小野のアンダースローはまだまだ発展途上だ。
「サイドのままだったら、チームは甲子園に行けたかもしれないけど、自分は投げられていなかったかもしれない。高校を卒業した後も高いレベルで硬式野球を続けることはできていなかったと思うので、アンダーにしてよかったです」
アンダースローに転向したからこそ甲子園のマウンドに立ち、甲子園で自信を得たからこそ今がある。そしてこれからも、小野にしか出せない色をより濃くしていく。
は全力で学生スポーツを応援します。
