野球

東北大・植木祐樹 硬式野球部とボディビル部を〝兼部〟 筋トレ突き詰め首位打者獲得

塁上でポーズを取る東北大の植木(提供写真以外すべて撮影・川浪康太郎)

今春の仙台六大学野球リーグ戦で、東北大学の植木祐樹(4年、長野吉田)が打率4割4分1厘(34打数15安打)をマークして首位打者に輝いた。東北大の選手が首位打者を獲得するのは10年ぶり。主に3番に座り、打線の中軸を担う左打ち外野手が快挙を成し遂げた。植木は硬式野球部とボディビル部を兼部しており、2、3年時には全日本学生パワーリフティング選手権大会(インカレ)に出場している。〝二刀流〟の真意と飛躍の要因に迫った。

高校時代はコロナ禍で勉強に熱中し「学年1位」に

植木は長野県出身。小学2年生の頃に野球を始め、小、中で軟式野球をプレーしたのち、長野市の公立進学校・長野吉田高に進学した。

「1年生の時からずっと野球ばかりを頑張っていて、勉強はまったくしていませんでした」。野球部では早い段階から頭角を現し、1年秋からは4番を任されるようになった一方、勉強はおろそかになっていた。2年秋ごろには「学年最下位くらい」の成績まで落ち込んだという。

そんな植木が「勉強にハマった」のは、3年生になる直前の時期。コロナ禍で自宅待機を強いられる中、勉強に精を出す友人の姿を見て「自分も頑張ろう」と思い立ち、学校のない日は1日12、3時間勉強するほどひたすら机に向かった。

3年春には「学年1位」におどり出るまで成績が急上昇し、旧帝大の一つである東北大経済学部に現役合格。野球も独自大会となった最後の夏は2回戦で大敗したものの、3年間やり切った。

野球も勉強も筋トレも。一つのことに没頭できることが強みだ

「ノリ」で2年春からボディビル部と兼部、週5でジム通い

コロナ禍も相まって高校野球が「不完全燃焼」で終わったことから、大学でも硬式野球部に入部。「高校と大学では球速帯が全然違っていて、仙六では普通のピッチャーが140キロを超える球を投げていて驚いた。自分の実力では話にならないと思いました」。1年時は大学野球のレベルの高さを目の当たりにした。

「このままでは通用しない」と焦りを感じたタイミングで着手したのが「筋トレ」だ。「勉強と同じように筋トレも楽しめた。コツコツやるのが好きで、どハマりしてしまうタイプなんです」と植木。みるみるうちに肉体改造が進んだ。2年春からはボディビル部に入部。植木は「最初は『野球部とボディビル部、どっちも入っていたら面白くない?』というノリでした」と笑う。

ボディビル部にはスクワット、ベンチプレス、デッドリフトの3種目の最大拳上重量の合計を競う「パワーリフティング」と筋肉の大きさやバランスを競う「ボディビルディング」があり、植木はパワーリフティングに取り組んでいる。筋トレを始めた当初は野球で使う脚や胸の筋肉を限定的に鍛えていたが、ボディビル部に入部してからはより細かく部位を分けて鍛える「5分割法」と呼ばれるトレーニングを採り入れ、背中や腕にも筋肉をつけた。

ボディビル部としての全体練習はなく、個人でトレーニングを行う。野球の練習、大学の授業、アルバイトの合間を縫って週5日、1日2時間はジムで筋トレに励んでいる。

バットを振ると、バランスの取れた上半身の筋肉があらわになる

長打力と脚力が進化、証明した筋トレ効果

パワーリフティングを始めたばかりの頃は3種目の合計が350kgほどだったが、現在はスクワット185kg、ベンチプレス120kg、デットリフト200kgと数値が上昇。ノリで始めた競技にいつしか本気で向き合うようになり、2年連続でインカレ出場を果たした。

筋トレは野球にも生きている。まず効果として現れたのが、スイングスピードの向上だ。それに伴って長打力が増した。以前は練習拠点である東北大富沢グラウンドのネットに打球を当てるのが精いっぱいだったのが、芯でとらえればネットをゆうに越えるようになるほど、目に見えて飛距離が伸びた。

長打力を武器に徐々に出場機会を増やし、3年秋の仙台大学1回戦では右翼席へ運ぶ特大のリーグ戦初本塁打をマーク。このシーズンは規定打席未到達ながら打率も3割を超え、飛躍のきっかけをつかんだ。

さらに脚の筋肉を鍛えたことで、格段に足が速くなった。今春は15安打中7安打が内野安打。本塁打こそ出なかったものの、「どんな打球でも全力で走ること」の徹底が安打量産につながった。「(野球に)筋トレがいらないわけがない。投手、野手関係なく、出力を上げるには筋肉が一番大事」と断言する植木の言葉には説得力がある。

ボディビル部員としては2年連続でインカレに出場している(提供・東北大学硬式野球部)

秋の目標は本塁打王「自分が打って、勝ちます」

植木は決して筋肉頼りの打者ではない。打撃面で意識しているのは「頭を使うこと」。普段の打撃練習から対戦相手のデータを頭に入れ、「直球を張って変化球を打つ」「2ストライクから打つ」など、あらゆるケースを想定しながら打席に立つようにしている。勉強と筋トレに「ハマった」男だからこそ、導き出せる答えがある。

春の首位打者獲得については「長打を打つタイプの自分からは一番遠いタイトルだと思っていたので、まさか取れるとは思っていなかった。まだ実感が湧いていないです」と率直な思いを口にする。ベストナインにも選出され、充実のシーズンだったことは間違いないが、本人は「タイトルは取れたけど、チームの勝利につながっている感覚はなかった」と現状に満足していない。

今春、チームは2勝8敗で5位。勝利に直結しやすい長打を増やそうと、秋に向けては「スイングの研究」に没頭している。「秋はホームラン王を取りたい。自分が打って、勝ちます」。己の道を突き進んできた大学4年間の集大成、最後にもうひと暴れしてみせる。

集大成となる秋季リーグは「ホームラン王を取りたい」

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