岩手大・菅龍太朗 「打倒・私立」で団結、国公立大学の大会を発案した学生監督兼投手
7月13~15日、岩手県内で「東北地区国公立大学野球強化交流大会」が初開催される。弘前大学(青森)、青森公立大学(青森)、岩手大学(岩手)、秋田大学(秋田)、東北大学(宮城)、宮城教育大学(宮城)、福島大学(福島)の国公立7大学が一堂に会し、トーナメント方式で戦う。発起人は岩手大で学生監督兼投手を務める菅龍太朗(3年、盛岡一)。「打倒・私立」の野球人生を歩んできた菅に、開催の経緯や目的を聞いた。
国公立大同士で「切磋琢磨」の場を設けようと企画
2019年、東北の国立7大学で競う「東北地区国立七大学野球選手権」が宮城県内で初開催された。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で翌年からは開催が困難になり、大会は一度きりで幕を閉じた。
5年前の大会で優勝したのが岩手大だった。菅は硬式野球部へ入部後、部室に当時の優勝カップが置いてあるのを目にして興味を抱いていた。「面白そう。もう一度開催するなら、コロナも収まってきたこのタイミングがベスト」。そう考えた菅は昨年末、各大学に声をかけた。賛同を得て実行委員会を立ち上げると、年明けには参加校間でオンライン会議を実施し、大会の方針を固めた。
「全国の大学野球リーグの試合をよく見るんですけど、国公立大の活躍は特に気にかけています。自分は高校生の頃から『私立に勝ちたい』という思いで野球をやってきた。同じ思いを持った国公立大の選手が集まって切磋琢磨(せっさたくま)する取り組みができればいいと考え、企画しました」
自ら球場を確保し、日程が正式に決定。各大学から参加費を集めるほか、企業・個人に協賛を募って予算面の課題もクリアした。
公立進学校で成し遂げた快挙を大学でも再現
県内屈指の公立進学校である盛岡一高時代から「打倒・私立」に燃え、高校2年秋の地区予選では強豪・盛岡大付高を破る試合を経験した。自身は先発登板して好投し、勝利に貢献。強敵を倒すだいご味を知った。
「チャレンジャーの気持ちで強い私立大と戦う方が自分の性格に合っている」と感じ、国公立大で野球を継続するため岩手大に進学。投手として活躍する傍ら、昨年の新チーム発足時には学生監督に就任した。岩手大は10年ほど前から4年生が監督を務めるのが慣例だが、教育学部所属で将来指導者を志している菅が立候補したところ、現チームに4年生が少なかったこともあり認められたという。
硬式野球部が使用できるグラウンドは学内にあるものの、準硬式野球部、軟式野球部と共用のため、全体練習を行えるのは平日週4日の午前6時~午前8時。限られた時間の中、「1年ごとに監督が代わるのでチームの色を統一しづらい」という難しさを痛感しながらも、それを対戦相手にとっての「やりづらさ」に変えようと試行錯誤してきた。
意識しているのは「何かに特化する」こと。「(強豪私立大に)フィジカル面ではかなわない。どこかの分野で絶対に勝る部分をつくることが大切」との考えをチーム内に浸透させ、各選手は日々、個性を伸ばしている。
今春の北東北大学野球1部リーグ戦は最下位に沈み、入れ替え戦も負け越して2部降格が決まった。それでも、今秋のドラフト候補を多数擁する富士大学との2回戦では2点を追う九回に3点を奪い逆転勝利。采配を振るいながら好救援も披露した菅は「結局あの試合しか勝てなかった」と悔しさをにじませた一方、「全国常連のチームと戦って勝つのはやっぱり楽しい。早く1部に上がりたいです」とモチベーションを高く保っている。
「大学野球」の存在を知ってもらうことも目的の一つ
東北地区国公立大学野球強化交流大会を開催する目的は、参加校同士で交流を深めて高め合うこと以外にもある。それは大学野球自体の認知度向上だ。
「小学生、中学生、高校生にも試合を見てもらいたい。小中高の頃から身近にレベルの高い大学野球という環境があると知っている人が増えれば、大学まで野球を続けることを選ぶ人も増えるのではないかと思うんです」
そう話す菅自身、岩手県二戸市出身で岩手に住み続けているが、高校生の頃までは岩手を含む北東北各地で開催されている北東北大学野球リーグの存在を知る機会はなかった。だからこそ「お金の問題などはありますが、大学までは自分がやりたいと言えば続けられる環境がある。国公立大ならではの楽しみもあるので、大会を見て『国公立大の野球も楽しそうだな、やってみたいな』と思う人が1人でも増えたらうれしいです」と期待を込める。
見どころは「各大学の個性や良さ、明るい雰囲気」
大会はベスト×G-SHOCKスタジアム(西和賀町)、千厩野球場(一関市)、前沢いきいきスポーツランド野球場(奥州市)の3会場で3日間にわたって開催される。入場料は無料。Xなどの各種SNSでは、参加校のチーム紹介といった情報発信を積極的に行っている。
「どこの大学も個性がある。各大学の個性や良さ、学生ならではの明るい雰囲気を見てもらいたい。野球は楽しいということを知ってもらいたいです」と菅。学生主体の新たな大会が、東北の地でスタートする。