野球

富士大・坂本達也 日本ハム金村尚真の助言受け、たどり着いた「信頼される」捕手の姿

投手陣からの信頼も厚い富士大の坂本(すべて撮影・川浪康太郎)

「キャッチャーはバッターと駆け引きをしながら、相手ベンチやランナーの動きなど、いろいろなことに気を配らなければいけない。次々と状況が変わっていく中で、自分で主導権を握って試合を動かすことができる。それが楽しいです」。富士大学の坂本達也(3年、博多工)は、キャッチャーというポジションの虜(とりこ)になっている。二塁送球タイム1.8~1.9秒の強肩と勝負強い打撃が売り。ただ大学で最も伸び、今も伸び続けているのは、ある投手との出会いを経て磨かれた「リード力」だ。

コロナ禍で「やり足りなさ」感じ、故郷を離れて野球継続

福岡県那珂川町(現・那珂川市)出身。小学2年生の頃に兄の影響で野球を始めた。当初は遊撃での出場が中心で、捕手がメインになったのは中学生の頃から。高校は県外私立への進学を志望していたが断念し、福岡市の公立校である博多工に進んだ。「野球をやるつもりはなくて、やるとしても『少しやれればいいかな』くらいだった」と振り返るように野球熱は薄れかけていたが、兄が在籍していたこともあって野球部へ。1年秋からレギュラーの座をつかんだ。

高校では捕手と投手を兼任。正捕手を務める傍ら、終盤はマウンドに上がり試合を締めることも多々あった。球速を正式に計測する機会こそなかったものの、強肩を生かして「140キロくらいは出ていた」という。

目標とする選手の一人、ソフトバンクの甲斐拓也と同じ「背番号19」を背負う

順調に成長を続ける一方で、坂本は「野球は高校まで」と考えて就職活動を進めていた。しかし、高校3年時に新型コロナウイルスの影響で甲子園を含む大会が次々と中止になったことを受け、「やり足りなさ」を感じるようになる。そんな折、富士大の安田慎太郎監督から声をかけられ、遠く離れた東北の地で野球を続けることを決断した。

「内心焦っている」大エースが明かした投手心理

大学では捕手一本。投手としてのプレーも楽しかったが、「キャッチャーに投げ、バッターと勝負するのが基本」の投手より、どのポジションと比べても広い視野を持たなければならない捕手の方が性に合っていた。そして2学年上の先輩・金村尚真(現・北海道日本ハムファイターズ)とバッテリーを組んだことで、捕手のだいご味をより深く知ることとなる。

2年春から正捕手の座を勝ち取った坂本は、当時4年生で絶対的エースだった金村を何度もリードした。と言っても、「自分が引っ張るというよりは、金村さんに教えてもらいながら試合の組み立て方を学んだ」。後にドラフト2位でプロの世界へ進むこととなる右腕との出会いは、捕手・坂本の野球観を大きく変えた。

中でも忘れられない試合がある。2022年6月6日。坂本にとって初の全国大会となった、全日本大学野球選手権1回戦の大阪商業大学戦だ。先発の金村が好投したが、打線も相手の2投手を打ちあぐね、1-1のままタイブレークに突入。無死一、二塁でスタートした十回、先頭打者に犠打を決められピンチが広がると、次打者に適時打を浴び1点を失った。これが決勝点となり、富士大は初戦敗退を喫した。

大会後のある日、責任を感じて落ち込む坂本に、金村が「ピッチャー心理」を教えてくれた。「ピンチの場面では、どんなピッチャーでも冷静に見えて内心焦っている。そういう時にキャッチャーがどう組み立てるか、どう声をかけるかが大事なんだ」。その言葉にはっとさせられた。

日本ハムに進んだ金村からの言葉が「捕手・坂本」を突き動かす

「金村さんほどのピッチャーでも、ピンチの場面ではキャッチャーが出したサインに首を振る余裕がなくなってしまう。ピッチャーの余裕がなくなる時に、いかにキャッチャーが余裕を持って、冷静に試合状況を読んで配球できるかが、勝敗を決める」。坂本はこの日以降、金村の助言を肝に銘じ「ピッチャーを引っ張る」自覚をより強く持ってマスクをかぶるようになった。

「リード力」の源は投手との密なコミュニケーション

余裕を持ち、冷静でいるために欠かせないのが、投手とのコミュニケーションだ。試合前は登板予定の投手とその日の状態について綿密に話し合い、ブルペンで実際に球を受けた上でどの変化球の割合を多くするかなど、投球の組み立てを考える。試合が始まればイニングが終わるごとにバッテリー間で会話をし、配球を見直す。投手のことを誰よりも知って理解しているからこそ、ピンチでも動じない。文字通りの「リード」ができるようになってきた。

大学3年目の今年は結果もついてきた。全日本大学野球選手権はあらゆるタイプの投手陣を好リードし、4強入りに貢献。準々決勝では1年前に敗れた大阪商業大を破った。今秋のリーグ戦は腰を痛めた影響で途中から欠場が続いたが、明治神宮大会出場をかけた東北地区大学野球代表決定戦では復帰し攻守にわたって活躍した。

勝負強い打撃も持ち合わせる

富士大への進学を決めた頃から抱いていたプロへの思いは、6月の大学日本代表候補合宿に参加したことでより強まった。合宿中に行われた紅白戦では、同郷の西舘昂汰(専修大学4年、東京ヤクルトスワローズから1位指名)ら初めてバッテリーを組む投手ともいつも通り、事前に配球について話し合った上で試合に臨み、打者を封じた。「守備面では結構やれるんじゃないか」と自信を手にした一方、進藤勇也(上武大学4年、日本ハムから2位指名)らのプレーを間近で目にして「フィジカルと打力はまだまだ劣る」と今後の課題も見つけた。

「肩や打撃が良いのはもちろん、ピッチャーに信頼してもらえるキャッチャーが一番の理想」。左腕エースの佐藤柳之介(3年、東陵)が「坂本のミットめがけて思い切り投げれば抑えられる」と話すように、すでに富士大投手陣からの信頼は絶大だ。捕手として成長するきっかけを与えてくれた金村と再び同じ舞台に立つため、プロの世界でも信頼されるほどのリード力を追求する。

金村と再び同じ舞台で野球をするため、坂本の挑戦は続く
富士大・佐藤柳之介 来秋ドラフト見据える左腕は頼ること辞め、「考える力」を鍛えた

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