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富士大・佐藤柳之介 来秋ドラフト見据える左腕は頼ること辞め、「考える力」を鍛えた

富士大学の快進撃に大きく貢献した佐藤柳之介。来年のドラフトにも絡みたい(撮影・川浪康太郎)

今年の全日本大学野球選手権で14年ぶりに4強入りを果たした富士大学。快進撃に大きく貢献したのが、最速147キロ左腕の佐藤柳之介(3年、東陵)だ。初戦の創価大学戦で逆転勝利を呼び込む6回無失点の好救援を披露すると、準々決勝の大阪商業大学戦では先発し5回無失点。全国大会でアピールし、来秋のドラフト戦線に名乗りを上げた。11月15日に開幕する明治神宮野球大会で再び、大舞台のマウンドに臨む。

「気付いたら終わっていた」ほろ苦い全国デビュー

佐藤が全国大会のマウンドを踏むのは、今年が初めてではない。全国デビューは2年前にさかのぼる。本人にとっては苦い記憶だ。2021年の全日本大学野球選手権、舞台は東京ドーム。初戦の岐阜聖徳学園大学戦で、1年生ながら先発の大役を託された。

「東京ドームの雰囲気にのまれて、気付いたら終わっていた。自分の弱さというか、力のなさを感じました」。一回、先頭打者に四球を与えると、自らの暴投などで走者を三塁に進め、3番打者に先制打を浴びた。その後もピンチを広げ、わずか2死しか取れずに降板した。チームは逆転勝利を収めたが、悔しさばかりが募った。

1年で全国デビューを果たしたが、当時は悔しさばかりが募った(撮影・川浪康太郎)

1年春のリーグ戦から登板機会を得ていたとはいえ、当時は「先輩たちについていこうと、がむしゃらにやっていただけで、手応えはなかった」。ここからいかにして手応えをつかみ、そして結果につなげたのか。

同期2人に「頼り切り」だった高校3年間

宮城県七ヶ浜町出身の佐藤は、小学3年生の頃から本格的に野球を始めた。小、中と硬式野球をプレーしたが、「中学時代は一度も1桁背番号をもらったことがない」というほど目立った実績は残せず。高校で東陵に進んでから急成長を遂げた。

高校入学当初の球速は最速120キロほど。3年間で体重が20kg近く増えたこともあり、卒業時には最速142キロまで球速がアップした。高校3年夏の宮城独自大会では、2回戦から準決勝の途中まで33回連続無失点。「背番号1」を背負い、チームを宮城大会4強に導いた。

東陵高時代に急成長を遂げエースとして活躍した(撮影・近藤咲子)

成長を後押ししたのが、全幅の信頼を置いていた2人の同期だ。佐々木諒太(現・宮崎サンシャインズ)と小野寺優介(現・札幌大学)。この2人が、動物の動きをまねる「アニマルフロー」や短時間で心肺機能を向上させる「HIIT(ヒット)」など、あらゆるトレーニングを採り入れた投手陣の練習メニューを考案してくれた。

「高校生の頃は2人に頼り切りで、自分で考えて練習したことがなかった」。大学経由でのプロ入りを目指す上では、「自主性」を磨くことが欠かせないと考え、あえて投手コーチのいない富士大を進学先に選んだ。

投げられない時期が、のちの飛躍に

ほろ苦い全国デビューの直後、肩を痛め、しばらくは練習でも投げられない時期が続いた。1年秋と2年春はリーグ戦登板なし。東京ドームで味わった屈辱を払拭(ふっしょく)できないもどかしさを感じながらも、結果的にはこの期間がのちの飛躍へとつながった。

先輩や医師に積極的に話を聞いて知識を増やし、連動性を高めたり、体幹を鍛えたりするトレーニングに重点的に取り組むようになった。投球フォームはテイクバックをコンパクトにする「ショートアーム」に変え、投げられるようになってからは自身の投球動画を繰り返し見て改良を重ねた。

「きれいな真っすぐで強く押せる」左投手の今永昇太や松井裕樹の投球動画を見て研究することもあった。最大の強みだと自負している「スピード表示より速く感じさせる真っすぐ」を進化させるためだ。

故障を経て自身の投球を研究・改良し続けた(撮影・川浪康太郎)

「大学1年生の頃と比べて何が一番変わったか」と尋ねると、佐藤はきっぱりと「考える力です」と答えた。入学時からの球速アップは5キロほどで、変化球はカーブ、スライダー、カットボール、チェンジアップ、スプリットの5種類で高校3年時から増えていない。ただ、故障期間を経て自ら考え、意図を持って練習に取り組めるようになったことで、ボールの質やキレ、投手としての総合力は格段にレベルアップした。

反省と収穫の秋を経て、いざ3度目の全国へ

「完璧を追い求めすぎてしまった」という今秋のリーグ戦は、自身初タイトルとなる最優秀防御率賞を獲得したが、優勝がかかった八戸学院大学戦では四回途中3失点と先発の役割を果たせず、悔いを残した。

それでもリーグ戦終了後に今秋の課題だった制球力を修正し、明治神宮大会出場を決めた東北地区大学野球代表決定戦では2試合、10回を投げ17奪三振無四球無失点。ほぼ完璧な投球で打者を圧倒し、最優秀選手賞と最優秀投手賞に輝いた。神宮には万全の状態で臨む。

神宮大会を前にポーズを決める佐藤柳之介(撮影・川浪康太郎)

高校3年時、プロ志望届を提出するか迷った末、「支配下指名は厳しい。その時は育成からはい上がる自信はなかった」と提出を見送った。大学でも2年生の頃までプロへの思いは「漠然としていた」が、「全国で結果を出したことで(思いが)強まって、現実的になってきた」。来秋のドラフトまで1年を切ったが焦りはない。「考える力」を身につけ、生かせるようになった今は、揺るぎない自信がある。

「(神宮は)今年のドラフトが終わって初めての大きな大会。自分の進路にも関わってくるし、ここでアピールできればプラスになる」。エース左腕として「チームを勝たせる」ことは大前提。その上で持ち味を存分に発揮し、もう一度、佐藤柳之介の名を高らかにとどろかせる。

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