東日本国際大・黒田義信 元U18戦士が窮地に逆転満塁弾、監督は称賛「センスの塊」
第73回全日本大学野球選手権大会2日目、3年連続17回目出場の東日本国際大学は、吉備国際大学を5-1で下し初戦を突破した。初回に先制を許し、打線は相手の好左腕・桑嶋洋輔(4年、津田)に苦戦。七回2死まで走者を一人も出すことができず、終盤まで藤木豊監督が「ノーヒットノーランを食らうと覚悟した」と振り返るほど劣勢が続いた。重苦しいムードを切り裂いたのは、元U18日本代表戦士・黒田義信(2年、九州国際大付)の一振りだった。
めぐってきた好機、「お願い」に応える
三回途中から登板した2番手右腕・藤井優矢(4年、角館)が好投を続ける中、打線は桑嶋の変化球を打ちあぐね六回まで沈黙。七回にようやく初安打が飛び出すも、得点にはつながらなかった。
1点を追う八回は、2死から途中出場の大徳岳登(2年、霞ヶ浦)が四球で出塁。さらに8番・三井颯大(2年、聖望学園)の安打と、代打・山本迅斗(1年、鳥取城北)の四球で満塁の好機をつくった。
「なんとかしてくれ」。藤木監督は、打席に向かう1番・黒田にそう声をかけた。応援スタンドのボルテージは最高潮に達していた。1ボール2ストライクからの4球目、外角寄りのカットボールを捉えた。打球はぐんぐん伸び、右翼席へ。逆転満塁本塁打を放った黒田は、雄たけびを上げながらダイヤモンドを1周した。
指揮官の期待と仲間の声援に応えたヒーローは、「大会前にデータ班が相手投手を分析してくれていたので、ずっと狙っているボールがあった。それを信じて打って、チームが勝ててよかったです」と笑顔。指揮官は「お願いに応えてくれて『ありがとう』です」と感謝した。
指揮官がほれた才能と期待以上の成長
試合後、藤木監督は黒田へ最大限の賛辞を贈った。
「2年生ですけど、うちの看板。大舞台でああいう場面にめぐりあって、めぐりあうだけでなく結果を出すのはすごいですよね。(大学入学後の成長は)とどまることを知らない。止まらないですね。打つにしても、投げるにしても、守るにしても、走るにしても、『センスの塊』というのかな。まだまだ上を目指せると思うので、その成長を止めないようにしないといけない」
絶大な信頼を寄せるからこそ、プレッシャーのかかる場面で「お願い」をした。黒田は以前の取材で、東日本国際大に進学した理由について「監督さんが『(高卒で)プロにいけなかったらうちに来ないか』と熱心に誘ってくれた。すごい選手を育てている監督なので、ここで4年間みっちりやろうと決めた」と明かした。八戸大学(現・八戸学院大学)監督時代に秋山翔吾(現・広島東洋カープ)らを育てた実績を持つ藤木監督は、当時高校生だった黒田の才能にほれていた。
NPB入りを見据えて下した異例の決断
黒田は九州国際大付高校時代、1年秋からレギュラーの座をつかみ、3年時は春夏連続で甲子園に出場。U18日本代表にも選出され、国際大会では浅野翔吾(現・読売ジャイアンツ)、松尾汐恩(現・横浜DeNAベイスターズ)とともに上位打線を任された。
プロ志望届を提出するも、ドラフトで名前を呼ばれることはなかった。U18日本代表選手は、NPBのほか、東京六大学野球や東都大学野球、強豪社会人など「中央球界」に進む選手がほとんど。U18日本代表選手が地元から遠く離れた地方リーグの東日本国際大に進学するのは、異例と言っても過言ではない。それでも、黒田は藤木監督のもとで成長する道を選んだ。
進学直後からレギュラーを獲得するも、1年春のリーグ戦はひじを痛めていた影響もあり打率2割3分5厘、0本塁打、0盗塁と本領を発揮することができなかった。大学での初の全国大会となった昨年の全日本大学野球選手権も5打数無安打。「自分が目指しているのはプロ(NPB)。どうしたら高いレベルに少しでも近づけるかを考えながら過ごしてきました」。1年春の結果に危機感を覚え、意識改革に取り組んだ。
長打力向上を狙って体重を高校時代から7、8キロほど増やし、「手先だけで振っていた」打撃を「体全体を使って振る」打撃に改造。一方で50メートル5秒9の俊足はキープした。1年秋は打率3割6分1厘、2本塁打、5盗塁、2年春は打率4割6分9厘、2本塁打、10盗塁をマーク。今春は優秀選手賞、首位打者、盗塁王、ベストナインの個人4冠に輝き、全国大会初戦でも大仕事をやってのけた。
昨冬から三塁転向、これからも続く挑戦
昨冬は、選手としての可能性を広げるため外野手から三塁手に転向した。藤木監督は「来年あたりはセカンドをやっているのではないか。それくらいの能力があります」とニヤリ。黒田自身も「サードで使ってくれる監督の思いを背負ってプレーしています。プロに入れるならどこを守ってもいいので、これからセカンドであったり、いろんなポジションに挑戦したい」と意欲をのぞかせた。
進学して間もない頃、「4年間長いわけではないけど、自分のペースで打撃、走塁、守備のすべてを底上げしたい」と意気込んでいた黒田。早々にぶち当たった壁を乗り越え、当初の想定以上に急速な成長を遂げている。「この一本で満足せずに、さらに高いレベルでプレーできるよう頑張る」。黒田の快進撃はまだまだ止まらない。