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特集:2023年 大学球界のドラフト候補たち

東北福祉大・和田康平 “スラッガーの手本”ソフトバンク生海の背中を追って抱く覚悟

社会人チームからの誘いをすべて断り「プロ一本」で挑む和田(すべて撮影・川浪康太郎)

これまでに計60人のNPB選手を輩出してきた東北の名門・東北福祉大学。津森宥紀が福岡ソフトバンクホークスからドラフト3位指名を受けた2019年からは4年連続で指名されており、ここ3年はいずれも複数人が名前を呼ばれている。今年は4人がプロ志望届を提出。そのうちの一人である右のスラッガー・和田康平(4年、埼玉栄)は、社会人チームからの誘いをすべて断り「プロ一本」でドラフトに臨む。

【特集】2023年 大学球界のドラフト候補たち

埼玉栄の元監督・若生正廣氏にも認められた長打力

身長187cm、体重102kg。恵まれた体格を生かした長打力が最大の武器で、バットに当たった時の飛距離には目を見張るものがある。リーグ戦の通算成績は打率2割5分、1本塁打、11打点とやや物足りないが、オープン戦や紅白戦ではたびたび、特大の一発を放っている。

群馬県出身で、小学2年生の頃に野球を始めた。幼少期から高身長だったこともあり、小中では投手がメイン。埼玉栄高に進学後、高校1年の夏に肩を手術して以降は野手に専念し、打撃を磨いた。

高校時代に師事していたのが、宮城・東北高、福岡・九州国際大付高を率いて甲子園に春夏計11回出場した若生正廣監督(当時)だ。逆方向に打つ「つなぎの打撃」を徹底するよう各打者に指導していた若生監督から、和田は「お前は自由に打っていいぞ」と伝えられていたという。それだけ、和田の持つ天性の長打力は魅力的だった。高校通算11本塁打と思うように数字は伸びなかったものの、大学経由でのプロ入りを目指し、東北地方にゆかりの深い恩師の勧めで東北福祉大に進学した。

天性の長打力を生かし、大学からプロをめざすため東北福祉大に進んだ

「イメージ通り」に打てるスラッガーへの変貌

和田はどんな球にでも手を出して一発を狙う、いわゆるフリースインガーではない。今年8月中旬のオープン戦。社会人投手から左翼席に飛び込む特大の3点本塁打を放った和田に感触を尋ねると、「今日の朝、意識を変えたんです。そのイメージ通りに打てました」と笑みを浮かべた。

「この体格なのでホームランを期待されますけど、まずは率を残さないと試合に出られない。昨日までは率を残すことを意識していました」。実際、この日の前日まで、今夏のオープン戦での本塁打はゼロ。安打を重ねたことで熾烈(しれつ)なスタメン争いは一歩リードしていたが、「やっぱり自分の魅力は単打ではない」ともどかしさも感じていた。

「自分は振り終わりに体が開いてしまう癖があるので、顔を残して(顔の位置を動かさないで)逆方向に強い打球を飛ばすイメージで打撃練習をしています。今日はそれに加えて、打球を上げるイメージで練習してきました。『ホームランの打ち損じがヒット』の考えです」。結果的に打球の方向は左翼方向だったものの、大きく意識を変えたからこそ大飛球になった。

今春の仙台大戦で決勝本塁打を放ち、ダイヤモンドを1周

同じような話は、今春リーグ戦最終節の仙台大学戦で決勝本塁打を放った試合後の取材でも口にしていた。不調で春の開幕節はベンチを外れたが、翌節から3割を超える打率をマークしスタメンの座を再奪取。そして、接戦となり、一発が求められる最終節では「打球を上げるイメージ」を持って打席に入り、左翼席へアーチを描いた。ある意味したたかで緻密(ちみつ)なスラッガーなのだ。

自信の源は、尊敬する先輩から受けた金言

練習時のイメージの大切さを教えてくれたのは、東北福祉大の1学年先輩である生海(本名・甲斐生海、現・ソフトバンク)だ。左右は違えど似たタイプの打者ということもあって馬が合い、現在も頻繁に連絡を取り合う仲だという。

生海は大学時代、試合では「全球フルスイング」をしていた一方、練習では逆方向に強い打球を飛ばす打撃を繰り返していた。和田がその真意を聞くと、「練習では気持ちよく引っ張って打っても自己満足にしかならない。試合で厳しい攻めをされて、窮屈な形になっても打てるようにした方がいい」との答えが返ってきた。それ以来、和田も常に試合での打席を想定した練習を心がけ、その上でフルスイングをするようになった。生海はいわば、和田にとってのスラッガーの手本だ。

昨年、尊敬する生海がドラフト指名を受けたことで、野球を始めた頃から抱いていたプロへの憧れはさらに強まった。大学4年目を迎える前のオフシーズンには、選手としての幅を広げるため、本職の一塁に加えて三塁の守備にも挑戦した。

「『育成で行くくらいなら社会人(野球)の方がいいだろう』という声はたくさんある。でも、たとえ育成指名でもプロにいきたい。人一倍努力して、はい上がる自信があるので」

オフシーズンには幅を広げるために三塁の守備練習にも励んでいた

小学生以来のプロ野球観戦、揺るがない自信

自身がプロ野球選手としてプレーする姿をイメージするため、9月中旬には楽天モバイルパーク宮城で、生海も1軍に同行していたソフトバンク対東北楽天ゴールデンイーグルスの試合を観戦した。プロ野球観戦は小学生の頃以来。実際に日本最高峰の舞台で戦う選手たちを目の当たりにしても、自信は揺るがなかった。そう思えるほど、4年間、正しく努力を重ねてきた。

和田は今秋、チームが3季ぶり76度目の優勝を成し遂げる中、リーグ戦後半は出場機会を得られないという悔しい大学ラストシーズンを送った。それでも、ドラフトに向けては「指名されなかった時のことは考えていないです。信じて待つしかない」ときっぱり。「運命の日」まで、諦めることなくアピールを続ける。

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