野球

特集:2023年 大学球界のドラフト候補たち

仙台大学・辻本倫太郎 全国で躍動したプロ注目の遊撃手が示し続ける「勝ちたい」姿勢

全国の舞台で2勝を挙げた仙台大の攻守の中心・辻本(すべて撮影・川浪康太郎)

第72回全日本大学野球選手権大会 準々決勝

6月8日@明治神宮野球場(東京)
仙台大学 0-5 明治大学

第72回全日本大学野球選手権大会は終盤に入った。8年ぶり出場の仙台大学は6月8日の準々決勝で優勝候補・明治大学に0-5で敗れ、初の4強入りは果たせず。それでも、全員野球で手にした2勝とスタンドのメンバーも含めた一体感は大きなインパクトを与えた。そして今大会も、チームの中心にいたのは辻本倫太郎(4年、北海)だった。

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優勝候補に完敗、痛感した力の差

「今はぼんやりとしか考えられないですけど、『全部負けた』という感じです。明治大学さんには勝てているところが一つもなかったと思っているので、厳しいですけど、完敗をすべてに生かさないといけない」

明治大に敗れた直後、辻本はそう言葉を絞り出した。先発したルーキーの佐藤幻瑛(1年、柏木農)の力投もあり投手陣は五回以外無失点に抑えたものの、打線は2安打無得点と沈黙。辻本自身も相手先発のドラフト候補右腕・蒔田稔(4年、九州学院)に3打数無安打1三振と封じ込まれた。

前日の試合後「歴史に残るようなチームにしたい」と話していた辻本にとっては、悔しさの募る敗戦となった。その一方、「日本一という目標は見えやすくなった。春の2勝が自分たちの自信になって、新たな課題も見つけられたという意味では、貴重な時間だった」とも振り返った。それだけ価値のある2勝だったことは、揺るぎない事実だ。

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証明した「世代ナンバーワン遊撃手」の実力

昨年から大学日本代表で活躍し、「世代ナンバーワン遊撃手」との呼び声高い辻本。多くのプロ野球スカウトが駆けつけた今大会も今秋ドラフト候補の一人として注目される中、攻守にわたって実力を存分に発揮した。

打撃面では、持ち前のパンチ力と勝負強さが際立った。1回戦の桐蔭横浜大学戦はタイブレークの十回にダメ押しの2点適時打を放つなど2安打をマーク。2回戦の東日本国際大学戦は同点に追いつかれた直後の七回、1死一、二塁の好機で決勝3ランを左翼席に運び、この試合も2安打3出塁と快音を響かせた。

今大会は勝負強い打撃が随所で光った

辻本は常々、「チームが苦しい時に勢いを与えて、『倫太郎が打ったから勝てた』と思われる活躍をしたい」と口にする。その言葉を体現するように、リーグ戦ではライバルである東北福祉大との試合で通算打率3割6分2厘(47打数17安打)、2本塁打、13打点と好成績を残している。全国大会でも本塁打を放った昨年の明治神宮大会に続き、大舞台での強さを証明した。

最大の長所である遊撃の守備も光り、ダイナミックかつ堅実なプレーで何度も球場を沸かせた。また、観客を魅了しチームメートを鼓舞するプレースタイルは、今やアマチュア野球ファンの誰もが知るところ。全力疾走、前向きな声かけ、喜びを表現する雄たけび……。本人が掲げる「常に強く、常に先頭を走る。一番声を出して、一番喜んで、一番悔しがる」とのモットーを、主将になって初めて臨む全国の舞台でも貫き通した。

ダイナミックかつ堅実な守備が最大の長所だ

監督に伝えたガッツポーズの真意

今年はドラフトイヤーだが、取材のたびに、自身のことよりもチームのことを優先して考える姿が強く印象に残る。今春に向けたオフシーズンも技術面はほとんど変えていない。ただ、約250人の部員全員を同じ方向に向かわせることだけに注力してきた。だからこそ、リーグ優勝を決めた瞬間はプレッシャーから解放され、大粒の涙を流した。

そしてもう一つ、辻本らしさが伝わるエピソードがある。リーグ優勝を決めた試合後の取材中、辻本は「チームが勝てなくて苦しんでいたオープン戦期間中、監督(森本吉謙監督)が常に自分の言うことを理解してくれて、常に味方でいてくれた」と話した後に、「一度(監督に)怒られたんですけど…」と付け加えた。

オープン戦期間中のある一戦。0-10と大量リードを許す展開の中、左翼線へ長打を放った辻本はガッツポーズをつくりながら二塁に到達した。「プロのスカウトがタイムを測っている。まず全力で二塁に向かうことが大事なんじゃないのか」。ベンチに戻ると、森本監督から苦言を呈された。辻本は監督の指摘の意味を理解した上で、「自分としては、主将として0-10でも『勝ちたい』という姿勢を見せたかったのでやりました」と伝えた。それはおそらく、紛れもない本音だ。

感情を素直に表に出し、約250人の部員を引っ張る

目指す場所はもちろんプロ野球。昨年の明治神宮大会での活躍を経て、「夢だったのが目標に変わった。死にものぐるいでやれば、本気でプロに行けるんじゃないか」と考えるようになった。プロに行くための近道は、スカウトに自身の技術をアピールすることかもしれない。しかしそれ以前に、勝利を求めること、野球を楽しむことが、辻本の良さを最大限に引き出している。

日本一、そしてプロ入りへ――。大学野球のラストスパート、辻本らしく駆け抜ける。

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