大商大・上田大河 地下足袋を履いた投げ込みで、増した球威「どんな立場でも抑える」
関西六大学野球 春季リーグ戦
5月16日@マイネットスタジアム皇子山(滋賀)
大阪商業大学 2-0 大阪経済大学
(大商大は3季連続24回目の優勝)
負けられない一戦。だからこそ、気合は十分だった。
勝ち点を取れば3季連続24回目の関西六大学リーグの優勝が決まる大阪経済大学との1回戦に、大阪商業大学の上田大河(4年、大阪商業大高)が満を持して先発のマウンドに立った。背番号「1」の右腕がうなりを上げ、立ち上がりから140キロ台後半のストレートを打者の内角に食い込ませる。力が入りすぎるあまり、球が上ずり、一回はいきなり2死一、二塁のピンチを招いた。後続を断ち、決戦は幕を開けた。
ピンチでこそ、本領を発揮
だが2点を先行した直後の二回、エースにアクシデントが襲った。2死一、二塁と再び迎えたピンチで、相手の1番打者・藤本成翔(3年、高田商業)の打球が、投球動作を終えた上田の左内ももを直撃。満塁となった。続く2番打者の武山元輝(3年、三本松)を空振り三振に仕留め、ピンチを再び脱した。
ベンチに戻ると、富山陽一監督が患部をもんでくれたという。「冷やしたら筋肉が固まってしまうからと。自分はこれくらいしかできないから、とも言われました(苦笑)」
立ち上がりから高ぶる感情を抑えられず、なかなか平常心に戻れなかった。「大事な試合なので興奮していました。でも、この試合のためにずっと(調整を)やってきたので。勝ち点を取ったら優勝と分かっていましたが、『今日勝って連勝しないと全国では勝てない』と思いながら投げました」
三回は1死後に三塁線を破られる二塁打を許し、一回から3イニング連続で得点圏に走者を背負った。だが、この日の上田はピンチでこそ本領を発揮。後続を遊飛、左飛に打ち取って、この回もスコアボードにゼロを並べた。ベンチで富山監督から接してもらった影響か「少しずつ力みが消えていったんです。それからは余計な力が入らずに投げることができました」。
交代の打診を断り、完封
四回以降、打たれたヒットはわずか2本。八回を終え、疲れを考慮した富山監督から交代を打診されたという。だが、エースは首を横に振った。「27個のアウトを自分がしっかり取り切るつもりだったので、簡単にマウンドを降りたくなかったんです。絶対に自分が九回を投げ切るつもりでした」。この日は7安打を浴びながらも完封し、今季6勝目。その通り、しっかりと責務は果たした。
試合前、上田は監督からこんな言葉を掛けられていた。
「『お前で負けたら仕方ない。お前のチームやから』と言われました。今日も『お前で負けても悔いはない』と言われたんです。それが強みにもなりました」
一方で投球内容に反省も忘れなかった。
「球数が多かった分、ピンチも多かったです。それに暑かったので、後半は投げていてバテている感じはありました。抑えることが自分の仕事なので、打たれない配球、チームを勝たせるピッチングをすることだけを考えました。リーグ戦は常に大事な試合ばかり。でも、興奮してああいう風に(球が)散らばるのは、まだメンタルが弱い証拠だと思います」
「自分だけ方向性が違うと、チームに迷惑」
昨秋までリーグ通算13勝。2年春にリーグ戦で初勝利を挙げてから、150キロに迫る剛球を武器に、少しずつ注目を集めるようになった。今季は龍谷大学戦で自己最速を更新する球速154キロをマークした。
「冬を越えて、球の勢いがさらについたと感じています。冬場にウェートトレーニングはやってきましたが、ウェートだけでは速くならないので、投げ込みも並行してきました。ただの投げ込みではなく、地下足袋を履いて体に負荷を与えながら投げました。地下足袋は滑るので、滑らないように下半身に重心をかけることで内転筋が鍛えられるんです。シーズンが始まっても、そういった練習は継続してやっています」
高い意識を持って臨んだラストイヤーの春は、今秋のドラフト候補として注目度の高さもうかがえた。大経大との一戦はNPB11球団のスカウトが、スタンドのあちこちで球速を測るためにスピードガンを構えていた。
だが、そんな状況をエースは冷静に受け止めていた。
「もちろんプロには行きたいですが、今は『プロが……』という時期ではないのかなと思います。目の前の試合を一つひとつ勝っていくだけです。その積み重ねで、指名してもらえればと思っています。自分だけ方向性が違ってしまうと、チームに迷惑をかけてしまう。『日本一になるため、チームを勝たせることを優先しろ』と監督さんからも言われました。自分もそのつもりでしたし、そういう気持ちで戦ったおかげで、今季は6勝を挙げることができました。それは周りのチームメートのおかげでもあると思っています」
後輩にいい思いをさせてあげたい
何より、この春に懸ける理由はもう一つあった。
「今までは先輩に全国大会へ連れて行ってもらっていましたが、今度は自分たちが後輩たちを連れて行く立場だと思っていました。自分もいい思いをしたように、後輩にもいい思いをさせてあげたかったので」
主将としての強いプライドも見て取れた。これで全国大会の舞台は自身4度目。上田が目指すのは、チームを勝たせられるピッチャーだ。
「先発はもちろん、リリーフでもどんな立場でも抑えられる準備はしていくつもりです。全員で日本一を目指します」
語気をさらに強め、全国の舞台に立ち向かっていく。