野球

特集:2022年 大学球界のドラフト候補たち

大阪商業大・伊原陵人 勝負の秋へ プロ注目の左腕が初の長期離脱で得たもの

「細かいコントロールなど、突き詰めていくべき部分はある」と現状に満足はしない(撮影・沢井史)

9月22日、わかさスタジアム京都。大阪商業大学の伊原陵人(4年、智弁学園)にとって、約3カ月ぶりの実戦登板だった。大阪経済大学を相手に先発して5回を投げ、5安打1失点。二回に2本の長打で1点を失ったものの、以降はスピンの利いたストレート、カットボールなどを駆使してあと1本を許さず、無四球のまま65球を投げ切った。

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勤続疲労に配慮した夏

「勤続疲労が溜まっていて肩甲骨裏の筋肉が硬くなっていたので、2カ月ほどマウンドから離れていました。オープン戦も投げさせていませんので、今日はかなり久しぶりの実戦登板です。軌道修正がしっかりできていた」と富山陽一監督が称える好投を見せた。

今春のリーグ戦、全日本大学選手権、その直後の関西圏で行われた5リーグ対抗戦と立て続けに大舞台で投げたことで、疲労がなかなか抜けきれなかった。そのため6週間のノースロー期間を設け、疲労を取ることを夏場は優先した。その後、秋のリーグ戦に向けて徐々にピッチングを開始。体の状態を見ながら、この日のマウンドに備えた。

久々の実戦登板でも高い制球力は健在だった(撮影・沢井史)

復帰戦で見せた経験値の高さ

とはいえ、自身はまだベストの状態ではなかったという。「力加減は7~8割だったんですけれど、伸びのある球を投げることを意識しました。監督さんから楽しんで投げろと言われていたのですが、先制点をとられたところは反省点です」と本人は振り返るが、実戦から離れていたことを感じさせないピッチングだった。

伊原の最大の武器は「球の回転数」だ。伊原が投じる直球の回転数の平均値はおよそ2500回転(1分間あたり)を誇る。最速147㌔の球威だけでなく球のキレで勝負ができ、スライダー、ツーシーム、カーブ、フォークなど変化球は実に多彩で、厳しいコースを攻められる制球力も持ち味だ。「対バッターで投げるのは久しぶりだったので、今日は細かいコントロールや2ストライクからの変化球の精度など、突き詰めていくべき部分はありますが、感覚自体は悪くはなかったです」と汗をぬぐった。

高校時代は智弁学園のエースとして躍動した。当時も140㌔半ばのストレートを武器にする左腕として名をはせ、3年生になると主にリリーフで登板することが多かった。大商大でも公式戦デビューした1年春はリリーフとしてマウンドに立った。2年秋から先発に転向すると、3勝を挙げて最優秀投手賞、新人賞にあたる平古場賞を受賞するまでに成長。3年春は5勝をマークしてベストナインに選出されるなど、リーグ戦では常に20イニング以上を投げ、投手陣の柱を担ってきた。

智弁学園時代に出場した第90回記念選抜高校野球大会で、力投した(撮影・朝日新聞社)

プロ志望届を提出して迎えた今秋のリーグ戦。この日のマウンドに11球団のスカウトが熱視線を送っていた。久々の実戦登板のうえに緊張感のある空気の中でのピッチングだったが、そこは高い経験値でカバー。四回、五回と三者凡退で切り抜け、マウンドを降りた。

スカウトが見守るなか、好投を見せた(撮影・沢井史)

離脱で考えた「気を遣っていなかった部分」

大学に入り、初めて長期間にわたって実戦から離れたが、「体のケアだとか、インナーを使ったトレーニングだとか、今まであまり気を遣っていなかった部分を見つめることができたので、その点は良かったです」と、前向きに捉えている。これからリーグ戦は中盤、そして終盤を迎えていく。優勝争いが本格化すれば伊原の力は必要になってくる。

「大学最後のシーズンなので、何としてもチームの勝利に貢献できるように、これからさらに状態を上げていきたいです」。

頼もしいエースが帰ってきたことで、上田大河(3年、大阪商業大高)、高太一(3年、広陵)の剛腕コンビを擁する投手陣がさらに分厚くなった。このマウンドを機に、学生野球のラストシーズンは全力疾走する。もちろん、最後まで負けるつもりはない。

「大学最後のシーズン。何としてもチームの勝利に」と力を込める(撮影・沢井史)

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