野球

関西学院大・石井雄也 正念場で思い出す恩師・西谷浩一監督の言葉「しぶとく戦う」

今年は正捕手・主将としてチームを引っ張る関西学院大の石井(高校時代の写真以外はすべて撮影・沢井史)

2年春の関西学生リーグ戦からスターティングメンバーで出場し続けている関西学院大学の石井雄也(4年、大阪桐蔭)。2年の春と秋は三塁手、3年になるとそれに加え左翼手としても出場していた。最上級生となった今年は、正捕手としてマスクをかぶっている。高校時代も下級生の頃は内野手だったが、3年生になってから正捕手になった。

野球人生で初めてのキャプテン就任

石井のセールスポイントはパワフルなバッティングだ。身長180cm、体重90kgと恵まれた体格から、鋭いスイングで左右広角に長打が打てる。これまでも上級生顔負けの打球を飛ばし、早くから中軸を担ってきた。

そして最上級生となった今年は、キャプテンにも就任した。これまでの野球人生で初めてだという。

「250人くらいの部員がいて、Bチームで名前を知らない選手も多かったんです。下級生の時から学年のまとめ役をやっていたので(キャプテン就任には)そこまで抵抗はありませんでしたが、実際は自分のことになかなか集中できないですね(苦笑)。忙しい毎日ですけれど、そんな中でも練習メニューを作っていくのは面白いですし、自分ではやりがいを感じています」

打力を買われ、下級生の頃から試合に出場してきた

それでもチームのスタート当初は大変さの方が勝り、試行錯誤の日々だったと振り返る。

「自分の練習もやらないといけない中で、チームのことも見ないといけない。そのあたりは最初の頃は大変でしたが、だんだん周りもチームのことを考えてくれるようになって、(同学年の選手を中心に)役割分担をしてくれるので、とてもありがたいです」

感銘を受けた青地斗舞の姿勢

昨年、同じリーグで大阪桐蔭の1学年先輩にあたる同志社大学の青地斗舞が、主将として奔走する姿を目に焼きつけていた。青地が必死にチームメートと向き合う姿勢には、ライバルチームに所属しながら何度も感銘を受けてきたという。

「青地さんは高校の時から(甲子園で春夏連覇を果たして)注目をされてきて、さらにキャプテンになってプレッシャーもあったと思います。それでも最後までチームをうまくまとめていたので、さすがだなと思いました」

大学では「大阪桐蔭出身」というだけで、どうしても周りからの目線が上がって見られてしまう。球場では試合前や試合中に名前と出身校をコールされると「この選手も大阪桐蔭なのか」という、ちょっとしたざわつきが起きることもある。

「とは言っても、自分たちは甲子園に行っていない代なので……(苦笑)」

大阪桐蔭の1学年先輩で同志社大の主将を務めた青地の姿に感銘を受けてきた

石井の1学年先輩は、第100回全国高校野球選手権大会が行われた世代で、当時の大阪桐蔭は根尾昂(現・中日ドラゴンズ)や藤原恭大(現・千葉ロッテマリーンズ)、横川凱(現・読売ジャイアンツ)らを擁して「最強世代」とも言われていた。その先輩たちが抜けた石井らの世代は、秋の近畿大会でベスト8まで進んだが、翌春の選抜高校野球大会への出場を逃した。夏の大阪大会も準々決勝で金光大阪高校に延長14回、タイブレークの末に敗れた。インターネット上では、谷間の世代と、揶揄(やゆ)されることもあった。

近年、甲子園出場だけでなく、全国での上位進出も当たり前となっている大阪桐蔭の中では稀(まれ)な年だったかもしれない。強かった世代と1学年下の世代が比較されることは高校野球ではよくあるが、そんな現実も石井は正面から受け入れた。不遇だとも思わない。だが、この先、野球でもっと何らかの足跡を残したいと強く思った。

大阪桐蔭時代の石井。自分たちの世代での甲子園出場はかなわなかった(撮影・朝日新聞社)

黒原拓未のボールに衝撃

そんな志を胸に大学野球の世界に飛び込んだが、入学直後は新型コロナウイルス感染拡大の影響でリーグ戦だけでなく、練習も制限される日々を過ごした。

石井が1年の時、チームにはエース左腕の黒原拓未(現・広島東洋カープ)がいた。後に2021年のプロ野球ドラフト会議で、広島から1位指名を受けたエース。石井は大学トップクラスのボールを目の当たりにし「こういった投手の球に対処できないと、はい上がれない」と、1年生ながらこれから目指す方向性をある程度感じることができた。

ただ今のチームには、黒原のようなスター選手はいない。「だから自分たちでつないでいくしかない。試合ではそういう意識を常に持っています」と石井は言う。

関西学院大は第1節で同志社大から勝ち点を挙げ、幸先のいいスタートを切ったが、続く関西大学との「関関戦」、1勝1敗で第3戦までもつれ込んだ近畿大学戦は負け越し、勝ち点を奪えなかった。

正念場の戦いが続く中、石井は高校時代の恩師・西谷浩一監督が常々言っていた言葉を思い出すという。

「『スターがいないから、しぶとく戦っていく』。自分たちの高校時代がまさにそうだったので」。大学ラストイヤーの今春のリーグ戦も残り少なくなった。粘っこく、泥臭く。あの頃の気持ちを胸に刻み、全力で駆け抜けていく。

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