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特集:あの夏があったから2022~甲子園の記憶

中央大学・繁永晟 大阪桐蔭を引退後、仲間と誓った「それぞれの道で日本一を」

春季リーグ戦の途中から「1番・セカンド」に座る(撮影・井上翔太)

第104回全国高校野球選手権大会はベスト8が決まり、大会も終盤に入りました。4years.では昨年2年ぶりに開催された舞台に立ち、その後、大学野球の道に進んだ1年生の選手たちに、高校時代のことや今の野球につながっていることを聞きました。「あの夏があったから2022~甲子園の記憶」と題して、大会の期間中にお届けしています。今回は中央大学の繁永晟(しげなが・あきら、大阪桐蔭)に、桐蔭野球の強みや日本一をめざす意義を語ってもらいました。

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名物練習「サーキット」とランメニュー

福岡県出身の繁永。大阪桐蔭には、3学年上の先輩たちに憧れて入部した。根尾昂(中日ドラゴンズ)、藤原恭大(千葉ロッテマリーンズ)、柿木蓮(北海道日本ハムファイターズ)、横川凱(読売ジャイアンツ)らを擁し、春夏の甲子園連覇を果たした「最強世代」の呼び声も高い世代だ。「最初に入ったときは、周りのレベルが違いすぎて、驚きました。中学時代に比べて、練習もきつかったです」

特に体力的にきつかった練習メニューは、主に冬の期間中に行う「サーキット」と呼ばれるトレーニングだったという。アームカールや腕立て伏せ、バックプレス、バトルロープなど、上半身を鍛えるトレーニングメニューを30秒ほどで次々に回し、これを5セット繰り返す。繁永は「1、2セットで限界が来ますよ」

大阪桐蔭の冬場の練習風景(2013年、撮影・山口史朗)

夏の大会前に行うランニングメニューも大阪桐蔭の名物だ。ジャンパーを羽織り、マスクを付けてライトとレフトのポール間や、本塁から球場を1周するメニューがある。「だいたい走るときは、どちらかが5本とかなんですけど。ウォーミングアップのときからその格好なんで、自分は夏の方がきつかったです」

焦りからか、山田陽翔の前に無安打

大阪桐蔭は「甲子園に出場すれば優勝候補に挙がる」というほど、毎年レベルの高さが際立つが、昨夏は2回戦で近江に屈した。二回までに4点を先行しながら、じわじわと点差を縮められ、八回に勝ち越しを許した。繁永は、この試合のことをよく覚えている。

「うちが4点リードなのに、相手が1点目をセーフティー(スクイズ)で返してきたんです。打ってくるだろうなと思ったんですけど。4-1になって『まだ3点差ある』という余裕は、まだありました。ただそこから打撃面で点が取れなくて、相手も1点ずつ(返して)きてたんで、焦りが出てきました」

龍谷大学・岩佐直哉 現エース山田陽翔と高め合った近江時代 今も燃やす対抗心

相手の先発投手は現在高校3年で、今春の選抜高校野球大会で準優勝した山田陽翔(はると)。繁永は無安打に抑え込まれた。「アウトコース低めのカットボールが良かったです。前半は、全員がそれを見極められていたんですけど、後半からじわじわと焦りが出てきて、ボール球に手を出すようになってしまった。やっかいなボールでした」。チームは4-6で敗れ、試合後に戻った宿舎で同学年の選手たちと話し合った。「これからは大学であったり、プロであったり、それぞれが別々の道で日本一をめざしていこう」。その思いは、今の野球生活にもつながっている。

甲子園で成し遂げられなかった「日本一」を大学でめざす(撮影・朝日新聞社)

入れ替え戦が見えてきたときの「重み」

「高校野球は一発勝負。でも大学野球は簡単に言ったら、1戦目を落としても後があります。ただリーグ戦が後半になるにつれて、入れ替え戦が見えてきたときに、その重みを感じました」。繁永は、初めて体感した東都1部をそう振り返る。

気持ちの上では重圧を感じていなくても、実際のプレーに現れた場面があった。5月20日のリーグ戦最終戦。勝てば入れ替え戦を回避できる可能性もあったが、同点の五回1死一、二塁で自身が守るセカンドにゴロがきた。処理して二塁でアウトを一つ取ろうとしたところ、「ちょっと(打球が)はねて。捕った後に(二塁へ)トスするか、上から投げるか際どいところで、投げたら暴投したんです。ゲッツー(併殺)は無理だったんですけど、最低アウトを1個取ったらいいところで、急いでしまった」。足が動いていなかったことを反省。このプレーで勝ち越しを許し、チームは5-6で惜敗した。

中軸打線が強力なだけに、自身の出塁が得点のカギを握る(撮影・井上翔太)

1部の最下位となり、「1番・セカンド」で臨んだ東洋大学との入れ替え戦では、劇的な逆転サヨナラ勝ちで1部残留を決めたものの、個人的には大学レベルで通用する手応えをつかんでいないという。「3、4番に森下(翔太)さん(4年、東海大相模)、北村(恵吾)さん(4年、近江)といいバッターがいるんで、初回に自分が出塁してバントで送ったら、確実に1点が入るっていう気持ちなんですけど、まだなかなか出塁できていないです」

小さなチャンスをつかみ、離さない

とはいえ、名門大学の先頭打者を任されているのだから、きらりと光る何かがあるはずだ。そもそもどうして大事なポジションを任されるまでに至ったのか。本人に尋ねると「小さなチャンスをつかめたのかな」という言葉が返ってきた。

入部直後はまだ環境に慣れず、自分の思ったようなプレーができていなかったという。そこからオープン戦を何試合か繰り返すうちに「高校のときからそうだったけど、チャンスがあったらつかまないといけない」と思い返した。代打の1打席に代走と、試合に出られるチャンスではアピールを試みた。「9番セカンドで試合に出たときに、打つことができて。次のオープン戦で打順が上がって、そこでもチャンスを生かすことができました。少しはアピールできたかなと」

取材の日は紅白戦に出場していた。今も競争の渦中にいる(撮影・井上翔太)

自分が1年から試合に出るということは、それまで試合に出ていた上級生が出られなくなるということでもある。ただ繁永は「そういう気持ちもあるけど、持っていたら戦えないと思うので」。外見からはあまり見えないが、内面はかなりの負けず嫌いのようだ。今ももちろん、ポジション争いの渦中にいる。

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