野球

特集:あの夏があったから2022~甲子園の記憶

神奈川大学・金子京介 甲子園で1試合4三振も、うれしかった「金子に回そう」

昨夏の甲子園で本塁打は出なかったが、悔いはない(撮影・朝日新聞社)

第104回全国高校野球選手権大会が阪神甲子園球場で行われています。4years.では昨年2年ぶりに開催された舞台に立ち、その後、大学野球の道に進んだ1年生の選手たちに、高校時代のこと、入場制限や度重なる順延に悩まされたあの夏のこと、今の野球につながっていることを聞きました。「あの夏があったから2022~甲子園の記憶」と題して、大会の期間中にお届けします。第9回は神奈川大学の金子京介(盛岡大付)に、甲子園で戦った3試合について語ってもらいました。

特集「あの夏があったから2022~甲子園の記憶」はこちら

岩手大会、5試合連続本塁打の衝撃

昨夏の岩手大会、金子は初戦から決勝まで5試合連続本塁打の大会新記録を打ち立て、一気にその名を全国に広めた。5試合で20打数9安打、11打点、打率4割5分と絶好調。高校通算本塁打を58本に伸ばし、自身初の甲子園に乗り込んだ。

盛岡大付には金子の他にも、高校通算本塁打64本の松本龍哉(現・青山学院大)、同48本の小針遼梧(現・桐蔭横浜大)、同37本の平内純平(現・桜美林大)、同40本の新井流星(現・東海大)らホームランバッターが打線に並び、大会屈指の強力打線と称された。その中でも当時、身長187cm、体重93kgだった金子の体は、ひときわ目を引いた。

天候不良により、予定より4日遅れて初戦の日がやってきた。鹿島学園(茨城)との1回戦、金子は初回の第1打席で甲子園初ヒットを放ち、3安打1得点の活躍だった。チームも7-0で快勝。初めての甲子園について、金子はこう振り返る。

「そんなに緊張せず、冷静に試合に入って、試合を楽しむことができました。無観客だったのは残念でしたけど、甲子園は大きくてすごい球場だなぁと思いました」

昨夏の岩手大会では5試合連続本塁打を放った(撮影・中山直樹)

沖縄尚学との2回戦は先発の渡邊翔真(現・東北福祉大)が八回2死までパーフェクトピッチングを続け、1安打で見事に完封。打線も14安打を放ち4-0で勝った。味方投手が終盤まで完全試合を続けていれば、野手は硬くなってしまうもの。ところが盛岡大付の野手陣は緊張なく試合を楽しめたという。

「あの日の渡辺は打たれる感じがしなかったので、安心して守っていられました。八回に初めてヒットを打たれて『これが初ヒット?』って気づいた感じでした(笑)」

近江に阻まれた「日本一」への挑戦

103回に及ぶ夏の甲子園の歴史で、まだ達成されていない「東北から日本一」を狙って甲子園に乗り込み、2連勝。しかしその夢は3回戦で近江(滋賀)に阻まれた。初回に2点を先制された後、中盤、終盤にも得点を加点された。盛岡大付も諦めることなく最後まで粘りを見せたが、追い上げも届かず。安打数では近江を上回りながら、スコアは4-7。ベスト16で甲子園を去ることになった。

金子はこの試合、山田陽翔(現・近江高3年)、岩佐直哉(現・龍谷大)の2投手に対し、5打数無安打4三振だった。三回の第2打席は1死二塁、七回の第4打席は2死一、二塁のチャンスで打席が回ってきたが、いずれも走者をかえせなかった。

「二つ三振したあたりから『やばいなぁ』と思って、力が入り過ぎてしまいました。山田投手、岩佐投手、2人ともコントロールがよくて、変化球のキレもあって、真っすぐが速くて、素晴らしいピッチャーだなと思いました。相手の方が強かったということです」

龍谷大学・岩佐直哉 現エース山田陽翔と高め合った近江時代 今も燃やす対抗心

1試合4三振は野球を始めて以来、初めてのことだという。それでもチームメートは、ここまで打線を引っ張ってきた金子の一発に期待し、大きな声で声援を送り続けた。

「自分、打ててなかったんですけど、それでも自分の打順が近づくと『金子に回そう』『金子、打ってくれ』みたいにみんなが言ってくれたんです。いいチームメートだなぁって思いました。野球をやってて、感極まったのも初めてでした」

打順が近づくと「金子に回そう」と仲間が言い合ってくれたことがうれしかった(撮影・西晃奈)

甲子園では、初戦で平内が3ラン、2回戦では小針と新井がソロ本塁打を放ったが、金子はホームランを打つことができなかった。「狙い過ぎたというか、力が入り過ぎてしまいました」と反省する。それでも悔し涙は出なかった。期待された本塁打を打つことはできなかったが、最高の仲間と甲子園で3試合を戦えた喜びの方が大きかったからだ。

打って勝つ野球に憧れ盛岡大付へ

東京都多摩市出身の金子は、和田中学校時代に町田ボーイズでプレーし、中2の夏には全国大会にも出場している。盛岡大付の打って勝つ野球をテレビで見て、高校ではこういうチームでやりたいと思い、進学を決意した。ボーイズの先輩が数人、同校へ進学していたことも金子の背中を押した。

高校入学後、毎日の厳しい練習、慣れない寮生活は、身体的にもメンタル的にもきつく、野球をやめたいと思ったこともあった。それでも仲間と刺激し合い、励まし合いながら約2年半の高校野球をやり切った。

2年の春にはコロナ禍で練習もままならない日々が続いた。1学年上の先輩たちが、甲子園という目標を失いながらも、岩手県の独自大会を戦う姿に感銘を受けた。

「強い気持ちを持った偉大な先輩たちでした。自分もたとえ目標がなくなっても頑張れる人間になりたいと思って、先輩たちに憧れました」

新チームからレギュラーに定着。先輩たちの思いも背負った最後の夏は、「3番・ファースト」で打線の中心に座り、甲子園出場に大きく貢献した。

高校時代から豪快なスイングが持ち味だった(撮影・西晃奈)

神大から4年後のプロ入りを目指す

最後の夏を終え、高校からプロ入りを果たしたい気持ちもあったが、4年間大学で鍛えてからのプロ入りに切り替え、熱心に誘ってくれた神奈川大への進学を選んだ。神奈川大は2003年の明治神宮大会準優勝、2014年の全日本大学選手権準優勝などの実績を持つ神奈川大学リーグの強豪だ。

昨秋の明治神宮大会でも4強進出を果たし、中心打者だった梶原昂希は横浜DeNAベイスターズに進んだ。指揮を執る岸川雄二監督は、西武ライオンズの内野手として5年間プレーした経験がある。金子は今春、リーグ戦デビューを果たし、15打数3安打3打点などの成績を残した。

「まだまだ全部ダメだと思います。木製バットへの対応もまだまだです。練習をもっともっとたくさんしないといけない。努力しないと追いつけないです。大学生の投手はレベルが高いので、対応力が今の課題です」

高校での3年間で「努力の大切さを学んだ」と金子は言う。寮生活を経験し、力のある仲間と毎日過ごすことで刺激を受け、自分もうまくなりたいと真剣にバットを振り込むようになった。同期の中でも、1番を打った松本は、金子にとって常に先を走る存在だった。

「松本は1年生のときから試合に出ていて、ライバルというより『憧れ』の存在です。松本が頑張っているのはすごく刺激になります。自分ももっともっと努力しないといけないです」

他の大学に進んだ盛岡大付のチームメートに刺激を受けながら、日々練習している(提供・神奈川大学硬式野球部)

松本は東都大学野球リーグの強豪・青山学院大へ進学した。春のリーグ戦こそ出場はなかったが、夏のオープン戦では持ち前の打撃力を発揮しており、秋に向け期待されている。

かつてのチームメートの活躍を励みに、金子は黙々とバットを振る。

in Additionあわせて読みたい