野球

特集:New Leaders2023

京都大・水江日々生 昨年6月には決まっていた主将の座 エース兼任で優勝にこだわる

優勝へのこだわりはチーム1。強い決意で投げ込む(撮影・小中翔太)

もはや金星ではなくなった。関西学生春季リーグの開幕戦で、京都大学が昨秋王者の関西大学にサヨナラ勝ち。京大は長年最下位が定位置だったが、2019年秋に史上初の4位となり、昨春も5位ながら最終戦に勝っていれば3位だった。今や勝利どころか、勝ち点奪取も珍しくない。その立役者でもあるエースの水江日々生(ひびき、4年、洛星)が今季から主将に就任した。「優勝というところに一番こだわりがあると自分でも思っていたので、そこを絶対にぶらさないようにという思いでいます」。高い目標を掲げてチームを引っ張っている。

勝ち点2の躍進、原点は選手と約束した「当たり前」 京都大学・近田怜王監督(上)
JR三ノ宮駅で培った「コミュ力」を指導に生かす 京都大学・近田怜王監督(下)

中学では京都府優勝、高校ではベスト8入り

水江が野球を始めたのは、亀岡市立安詳小学校1年の6月から。習い事は他にも書道やサッカー、空手をやっていたが、野球が一番楽しかった。ポジションは小学校からずっと投手。洛星中学校の軟式野球部では、2年秋に京都府大会で優勝し、洛星高校でも1年秋に京都府ベスト8入りを果たした実績がある。

洛星高校は京都府でもトップクラスの進学校。当時のスケジュールは朝7時から8時まで朝練で、8時から16時までが授業。16時から18時半まで部活動をして帰宅後は宿題をして寝るという毎日だった。練習時間が限られるだけでなく受験勉強優先のため、部活動を離れる選手も少なくない。ベスト8入りした時の部員数はわずか10人だった。文武両道の点が評価され近畿地区の21世紀枠候補にも選ばれたが、水江は「ポンポンとたまたま勝った感じでした。(甲子園に)行けなかった時はがっかりしたんですけど、当時の取り組みを考えると甲子園行ってもボコボコにやられていたんだろうなと正直思ってます」と冷静に振り返る。

洛星高校時代の水江(撮影・本多由佳)

自身の人生に与えた影響は、甲子園に出られなかったことよりも、京大のスクールカラー「ダークブルー」に身を包んだ選手たちの活躍の方が大きかったようだ。学力は平均点ぐらいだったと話すが「東大か京大に行く」ということに関しては強い決意を持っていた。どちらにするかを決めかねていた浪人中の2019年秋に、京大が4位と躍進。「地元の京都で強くなってきてるなら京大やろ」。志望校は偏差値ではなく野球の強さで決まった。

生命線はカットボール

浪人中は勉強に集中し、野球の練習はほとんどしていなかったが、大学入学後すぐに覚えたカットボールが生命線となった。水江は抜群の制球力を武器に低めとインコースを突いて打たせて取るピッチングを得意としている。ファウルでカウントを稼ぐにしても、窮屈なスイングで内野ゴロを打たせるにしても、この球種は欠かせない。

得意のカットボール以外にもカーブ、スライダー、フォーク、チェンジアップを操る

下級生の頃からリーグ戦のマウンドに立ち、3年秋までに通算5勝。高校まで主将経験はなかったが、昨年6月の時点で早くも新チームの主将となることが選手間で決まっていた。もちろんそれは実績だけでなく姿勢も加味してのことだ。近田怜王監督から見た水江は「下級生の時からずっと投げてる、チームを勝利に導いてくれた立役者なので、勝つというところに一番意識があるので、簡単に勝てない厳しさも日々の練習で話をしてくれてる。野球に関しては真面目。勝利に対して一番貪欲(どんよく)な選手」だという。

そんな選手が主将を示す「背番号1」をつけて開幕戦のマウンドに立つとなれば、ふがいないピッチングは許されない。「絶対勝たないと。金丸投手より先に降りてはいけないと思ってました。3点ぐらいは取られうる打線なので、ピンチを作った時に最少失点で帰ってくることに注力してました」。相手の関西大学は昨秋の優勝メンバーがほとんど残り、先発の金丸夢斗(3年、神港橘)は来年のドラフト上位候補に挙げられる好投手。水江はリーグ屈指の打線を抑え、ナンバーワンサウスポーに投げ勝つつもりでマウンドに上がった。この気概がなければ「優勝」という言葉を口にする資格はない。

打席でも食らいつく姿勢で勝利への執念を見せる

意気込み動画で「バットを折る」と宣言

京都大学硬式野球部のTwitterでは、選手が意気込みを語る動画を紹介している。その中で水江は何度も「バットを折る」と宣言してきた。「自分としても強気でいかないとと思っているので負けないぞというところをアピールしてます」。甲子園常連校の主力打者にも、ひるむことなく開幕戦は7回3失点。先発投手として試合を作り、チームのサヨナラ勝ちを呼び込んだ。3回戦でも先発マウンドに上がり、中4日で迎えた同志社大学との1回戦でも7回を自責点2に抑えた。

チームの課題は水江に次ぐ2番手投手の確立だ。第2節を終えた時点でまだ勝ち点を挙げられていないが、勝利に貪欲な主将はファイティングポーズを崩さない。「チームとしては優勝をぶらさずやっていきたい。個人としては勝てるピッチャーを目指してきたので、勝ち数でリーグトップになれるよう頑張っていきたいと思います。春でこのチームが完成するとは思ってないので経験積むところは積んで、リーグ戦で課題がいっぱい出てそれを秋につなげてもらえたらいい。今まで京大が優勝したことはないので、そこを全員で目指せるように。主将としてもチームが上を目指せるような環境を作っていかないといけないと思っているので、意識高いチームを作りたいと思ってます」

エース兼主将、二つの重積を背負う水江が歴史を変えるキーマンとなる。

主将を経験することで「視野も広がりピッチングにもつながる」

in Additionあわせて読みたい