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特集:2022年 大学球界のドラフト候補たち

京都大学・愛澤祐亮 「挑戦が好きで」普段は正捕手、マウンドでは下手投げ右腕

京都大学の正捕手・愛澤祐亮は、マウンドに上がると下手投げになる(京大での写真はすべて撮影・沢井史)

関西学生野球春季リーグ戦、第6節2回戦

5月6日@南港中央野球場(大阪)

京都大学 3-0 立命館大学

京都大学はエースの水江日々生(3年、洛星)が、8安打を浴びながらも要所を締め、今季のリーグ最多となる3勝目を挙げた。京大の投手が完封勝利を飾ったのは、2019年秋の近畿大学戦以来。快投を支えたのは間違いなく、捕手の愛澤祐亮(4年、宇都宮)だった。

正捕手が先発マウンドに上がり、勝ち点獲得

「前の試合で立命大打線が水江の武器であるカットボールを見切って攻めてきたので、四球が増えてしまったんです。相手打線は変化球を待っているように見えたので、序盤はカットボールを使わず、ストレートを多めにして打たせました。中盤以降、徐々にカットボールを増やして打たせるようにしました」

飛球でのアウトは、実に14を数えた。連打はなく、思惑通りの展開に持ち込んだ。

今春の開幕節だった関西大学戦。1勝1敗で迎えた3回戦で、愛澤は先発マウンドに上がった。下手投げから相手打者を翻弄(ほんろう)し、4回を無失点に抑えると、その後はマスクをかぶり、勝ち点獲得に貢献した。

エースの水江と言葉を交わす愛澤(10)

高校時代は、投手と二塁手の兼任だった。京大には内野手として入学したが、当時は外野が手薄で、夏の前には外野手に転向した。3年になると捕手を務めることになった。

「チームの勝利のためなら、捕手でもピッチャーでも、何でもやれることはやりたいと思っていますし、勝てたら(その苦労も)報われます。それに、自分は色んな事に挑戦することが好きで。内野手のとき、スナップスローをしたこともあって、ピッチャーとしてアンダースローで投げてみたらどうなるかなと思って挑戦したんです」と笑う。

アンダースローは、すぐに習得したわけではなかった。それでもチームに貢献できる道があるのなら、と練習を重ねた。身長169センチで、体は大きい方ではないが、挑戦できることには、まず手を付ける。「捕手として視野を広く、勝利のために黒子に徹するというか、自分を犠牲にしながらやれていると思います」と、どんな役目でもやりがいを感じながらグラウンドに立っている。

「周りと同じなのは嫌だな」と京大へ

高校の同級生たちは、多くが東大進学を志した。だが、愛澤がくぐった門は西の雄・京大だった。

宇都宮高校時代の愛澤(撮影・朝日新聞社)

「東大も野球は強いですが、京大も野球が強いですし、周りと同じなのは嫌だなと思ったのもあります」と京大を志した理由を明かした。不慣れな地、関西での生活は抵抗があったのではと思いきや、新たな発見が多かったという。「色んな価値観を学ぶいい機会だと思っています。関東の人と関西の人は、性格が違うので一緒にいると面白いですよ」

京大も全国から精鋭たちが集うが、東大に比べると関西色が濃い。ただ、新鮮さを満喫し、京都での暮らしにもすっかり馴染んだ。さらに福岡ソフトバンクホークスの元投手で、兵庫・報徳学園高校では甲子園に出場した近田玲王監督が就任したことで、視野がずいぶん広がった。

「近田さんは双方向からのやり取りを大事にされているんです。プロという、僕からすると考えられないくらい高いレベルの世界で野球をやられた方が、僕たちと対等に、作戦や技術面の話をしてくださるんです。素晴らしい指導者の方と巡り合えました。『こんな野球をしろ』と押さえつけるのではなく、自分たちにもちゃんと考えさせてくれるんです」

経験豊富な指揮官の言葉ひとつも、愛澤にとっては生きた教科書だ。

全員でボールを見つめ、全員で空気を分かち合う

京大のベンチはとにかくにぎやかだ。試合展開を全員で見つめながら、アウトを取れば喜び、ミスをした仲間がいても大きな声で励ます。これまではリードをしていても、終盤で逆転されて敗れる試合が多かったため、練習では一つのアウトをしっかり取る野球を全員で突き詰めてきた。全員でボールを見つめ、全員で空気を分かち合う。そんなベンチの一体感が、京大の大きな武器でもある。

明るいベンチの雰囲気を象徴するように、笑顔でプレーする

前回勝ち点を獲得した19年秋、京大は4位。当時を知るのは今の4年生だけとなった。6日の勝利で当時と同じ3勝に並んだ。ただ愛澤自身には、チームの結果と同じぐらい、引き継いでいきたいものがある。

「1年生のとき、京大でも勝ち点を取れることを証明していただきました。ですので今年は、リーグ戦優勝という高い目標を掲げられています。僕も最上級生として、今の下級生にも何かを残していきたいです」

どんなポジションでも、最後まで全うする。二刀流…いや、それ以上の「刀」を持つ背番号10は、状況によって姿を変えながら、チームに強いメッセージを送り続けている。

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