野球

仙台大・ジャクソン海 夢を抱いてオーストラリアから日本へ、WBCを経て夢は目標に

オーストラリアを離れて日本で夢を追うジャクソン(仙台大の写真はすべて撮影・川浪康太郎)

日本の野球にほれ込み、母国のオーストラリアを離れて日本で夢を追う投手がいる。仙台大学のジャクソン海(4年、エピングボーイズ)。150キロ近い力のある直球と鋭く落ちる変化球を武器に、リリーフエースとして活躍しており、今秋のドラフト候補にも挙がる右腕だ。U12、U15、U23でオーストラリア代表に選ばれた男は現在、「日本を背負ってプレーしたい」との思いを強くしている。ジャクソンはなぜ日本の野球を愛し、日本で野球を極めたいと思うのか。

仙台大学・辻本倫太郎 全国で躍動したプロ注目の遊撃手が示し続ける「勝ちたい」姿勢

ほれ込んだ選手の「真剣さ、泥臭さ」と観客の熱狂ぶり

オーストラリア人の父と日本人の母を持つジャクソン。オーストラリアで生まれ、小学2年生からの約3年間は日本で生活した。小学3年生の頃に日本で野球を始め、オーストラリアに帰国後も競技を継続。高校卒業のタイミングで再び海を渡った。

日本で野球をする道を選んだ理由は、幼少期に抱いたある夢をかなえるためだ。野球を始めたばかりの頃、近所だった東京ドームに毎日のように通い、巨人戦を観戦した。グラウンドで躍動する選手たちの「真剣さ、泥臭さ」、その選手たちを応援する観客の熱狂ぶりを目の当たりにし、日本の野球にほれ込んだ。そして「日本でプロ野球選手になりたい」という夢ができた。

小さい頃に東京ドームで観戦した巨人戦に感動し、大学で日本へ戻ってきた

仙台大では1、2年時こそくすぶっていたものの、3年秋に仙台六大学リーグ戦でデビューを果たし、明治神宮大会のマウンドにも上がった。最上級生となった今春はさらに安定感が向上。リーグ戦は6試合に登板して防御率1.46をマーク。全日本大学野球選手権でも勝利した2試合で救援登板し、ブルペンを支えた。慣れない土地での生活にも順応し、着実に成長を続けている。

ピンチのマウンドを任される喜びと充実感

今春は登板した6試合中4試合で、イニングの途中からマウンドに送り出された。昨秋は3試合ともイニングの最初からの救援登板だったことを考えると、首脳陣からの信頼度は大きく増したと言えるだろう。中でも、優勝のかかる東北福祉大学との3連戦では3連投をやってのけた。

ジャクソンは「ピンチは好きだし、幸せです。結果を求められてプレッシャーのかかる場面で登板させてもらえる。野球をやっていたら、それ以上にうれしいことはないです」と興奮気味に語る。「やっと得た信頼ですし、ピンチを任されることが自信になった。『ここに全部ぶつけていいんだ』という楽しさを感じていました」。託された場面を何度も抑え、何度もほえた。

重圧のかかる場面での登板は「幸せです」。ハートは強い

リーグ戦では手応えを感じた一方、全日本大学野球選手権では課題に直面した。2試合で計3回3分の2を投げ無失点と十分な結果にも思えるが、直球の球速が140キロ前後にとどまるなど、本来の投球からは程遠かった。本人は「フォームが崩れてしまっていて、リーグ戦ではできていた『打ち取るべくして打ち取る』ことができなかった」と振り返る。手にした自信を一度は失いかけたものの、日本に来た理由を思い出せば、気持ちを切り替えるのに時間はいらなかった。大会後からフォームを修正し、秋に向けて球速も徐々に戻ってきている。

6月の全日本大学野球選手権で神宮のマウンドにも立った

WBCで体現された「日本の野球」に感動

今春のリーグ戦開幕前には、大好きな日本の野球がさらに好きになる出来事があった。3月に開催され、日本が世界一に輝いたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)だ。

ジャクソンは日本戦の全試合を寮のテレビで観戦。準決勝のメキシコ戦で劇的な勝利を収めた際には涙を流して喜んだといい、「生きているうちに日本の優勝を見られてよかった」と声を弾ませた。日本が過去にWBCで優勝した2009年は8歳で、野球を始める前だっただけに、初めてリアルタイムで目撃した歓喜の瞬間は、感慨もひとしおだった。

特に印象に残ったのが決勝、アメリカ戦での継投だった。日本は若手もベテランも登板してリードを守り抜き、最後は大谷翔平(エンゼルス)が試合を締めくくった。「年齢や実績は関係なく、『今一番すごいのはお前だ』という感じでマウンドにピッチャーを立たせて、そのピッチャーが日本を背負いながら自分のピッチングをしているのがめちゃくちゃかっこよかった」。幼少期に東京ドームで見た「真剣さ、泥臭さ」を持つ日本の野球に、ほれ直した。

3月のWBCは寮のテレビで日本戦の全試合を観戦したという

日本を背負った先輩・宇田川優希は憧れから目標に

尊敬する先輩がWBC日本代表の一員として世界で戦う姿も目に焼き付けた。仙台大の3学年先輩である宇田川優希(現・オリックス・バファローズ)だ。入学当初、ブルペンで当時4年生だった宇田川の投球に衝撃を受けた。宇田川が放る豪速球は、来日前に日本人投手に対して抱いていた「コントロールが良くて、球はそれほど速くない」という印象を覆した。

すぐに意気投合し、プライベートでも親しくなった。直球と落ちる変化球を中心に組み立てるスタイルが似ているため、投球を参考にしているほか、宇田川のトレーニング方法やメンタルのつくり方も自身の調整に取り入れている。

WBC韓国戦で登板した宇田川はジャクソンの先輩にあたる(撮影・西岡臣)

常に憧れの存在で、プロ入り後の活躍にも刺激を受けてきたが、今回のWBCでは別の感情も湧いてきた。「『すごいな』『いいな』という目線だけではなく、『自分もいつかこの舞台に立ちたい』というモチベーションにつなげながら見ることができた」。テレビ越しに見る宇田川の投球と自身の投球を重ね、どのレベルまで成長すれば世界に通用するのか、真剣に考えた。

「大谷さんやダルビッシュ(有、パドレス)さんと一緒にプレーするなんて、今の自分では考えられない。でも、宇田川さんは自信満々なので、『それくらい普通だろ』と思っているはずです」。正しく努力を続ければ、憧れや夢は目標に変わり、それを実現できる。くっきりと映し出されてきた目標を実現するため、ジャクソンは最後の秋も、マウンドでほえる。

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