野球

仙台大・平野裕亮 「通算100安打」の目標は、ソフトバンク川村友斗と交わした約束

昨春のリーグ戦で優勝し、当時主将の辻本(手前)と抱き合う平野(撮影・川浪康太郎)

1970年に始まった仙台六大学野球リーグ戦。50年を超える長い歴史の中で、リーグ戦通算100安打を記録した打者は4人しかいない。その大台到達を視野に入れる新4年生がいる。仙台大学の平野裕亮(山村学園)だ。1年秋から試合に出続けている左の好打者で、ここまで現役最多となる通算71安打。プロ野球選手になった大先輩と打ち立てた「100安打」の目標を達成すべく、残る2シーズンに臨む。

大学での飛躍を予感させた大先輩の一言

「平野、100安打いけるんじゃないの?」

約2年半前。秋季リーグ最終戦を終え、寮へ戻るバスの中で、当時4年生の川村友斗(現・福岡ソフトバンクホークス)から何げなく声をかけられた。「100安打か……」。当時1年生ながらレギュラーに定着し、秋は10試合で13安打を放っていたとはいえ、とっさに発せられた数字を現実的なものとして捉えることはできなかった。

中堅の守備でも高い貢献度を誇る(撮影・川浪康太郎)

ただ、同じ左打ちの外野手で尊敬する先輩の言葉は胸に響いた。平野は「川村さんのバッティングを初めて見た時、衝撃だった。その川村さんにバッティングを褒められるのは、他の人に褒められるよりもうれしい」と話す。仙台大入学前、主に野手を指導する小野寺和也コーチから「川村くらいの選手になってくれないと困る」と期待をかけられていた。入学して、いざ川村の打撃練習を目の当たりにすると、恵まれた体格から繰り出される打球の質と飛距離に驚かされた。

いつしか川村の存在は目標になり、100安打は川村との約束になった。今でもオフの期間などで会うと毎回、「100安打打てよ」と発破をかけられているという。3年生までにベストナイン受賞が4回、打率2位が2回。昨年は春にMVP、秋に首位打者、打点王、敢闘賞を獲得し、川村に引けを取らない選手へと成長した。そして大記録達成も、現実味を帯びてきた。

昨秋の東北大1回戦で放った本塁打は手応えのある一発だった(撮影・川浪康太郎)

コーチが明かす「安打量産」だけでない魅力

平野は埼玉県行田市出身。3兄弟の末っ子で、一番上の兄の影響で小学2年生の冬に野球を始めた。阪神タイガースファンの父のもとで育ったため、自身も筋金入りの阪神ファン。鳥谷敬さんに憧れ、中学生の頃までは遊撃を守っていた。打撃面では、鳥谷さんの足の上げ方やタイミングの取り方を参考にすることもあった。

山村学園高校では1年秋からチーム事情もあって外野手に転向。頭蓋骨(ずがいこつ)と鼻を骨折する大けがを乗り越えて中堅の定位置をつかむと、2年春の関東大会では4割超の打率をマークして4強進出に貢献した。

山村学園高校時代の平野(撮影・朝日新聞社)

高校時代の当初は進路について「注目度の高い関東の大学に進んで、プロを目指したい」と思い描いていた。だが3年時はコロナ禍で大会や大学の練習体験会が次々と中止になり、アピールの機会が激減。そんな折、高校での活躍ぶりを見て仙台大に勧誘してくれたのが小野寺コーチだった。

以前、小野寺コーチが取材中に「平野はどうやったらもっと打てるかな……」とつぶやいたことがあった。入学後からマンツーマンで指導して打撃を改造した結果、もともと持っていた打撃センスがさらに磨かれ、高いレベルで安定した成績を残してきた。しかし、小野寺コーチは現状に満足していなかった。「練習では川村と同じくらい飛ばすんですよ」。平野が単なる「安打製造機」ではないことを知っていた。

「注目されるため」長打力アップに邁進

平野本人に「長打力」について尋ねると、「(プロや社会人から)注目されるためには長打も必要だと考えて、2年秋からはホームランを意識するようになりました」と口にした。2年秋は長打を意識しすぎたために打撃を崩し、打率を落としたものの、打球の飛距離が年々伸びていることは実感していた。体重も3年間で入学時から約15kg増加。3年秋は高打率を残しつつ、東北大学との1回戦では特大のリーグ戦1号本塁打を右翼席へ運んだ。

高打率を残せるのが強みだが長打力も秘める(撮影・川浪康太郎)

今オフは例年以上の手応えを感じている。2月中旬、今年初の実戦となった紅白戦では、第1打席で本塁打を記録。今年の1スイング目で内角高めのカットボールを捉え、右翼方向のネットに打球を突き刺した。

打撃向上の要因の一つは、野球を「勉強」する時間を増やしたこと。オフは阪神の佐藤輝明がアメリカのトレーニング施設で練習する動画など、プロ野球選手の打撃やトレーニングに関する動画を見る機会を設け、一流選手の取り組みを自身の練習に生かすよう心がけた。成果はすぐに表れ、打球が右方向にも左方向にも伸びるようになったと肌で感じている。

目指すは「三冠王」と「大学日本代表入り」

今春はまだ獲得していない本塁打王、さらには三冠王を目標に掲げる。通算100安打まであと29本。安打数は2年時が28本、3年時が30本だったことを考えると、本塁打を増やしつつ確実性を維持することは容易ではないが、無理な数字ではない。最上級生として「自分が結果を出して、仙台大を勝たせる」ことが、「日本一」というチームの目標に直結するとも自覚している。

通算100安打まで、あと29本に迫っている(撮影・川浪康太郎)

今年はもう一つ、目標ができた。大学日本代表の一員になることだ。昨年12月、代表候補強化合宿のメンバーに選ばれた。選ばれた直後は「うれしいけど、代表に入るのは難しいだろう」と弱気になっていた。だが、代表で活躍していた辻本倫太郎(4年、北海、現・中日ドラゴンズ)に「お前が一番うまいと思って行ってこい」と背中を押されたことで奮起。いつも以上に練習量を増やして合宿に参加し、2試合あった紅白戦で3安打を放って存在感を示した。それ以降、「大学日本代表に入りたい」という思いがモチベーションを高めている。

川村との約束を果たし、日本一、そして世界一の瞬間を味わうことはできるか――。大学野球生活の集大成を見せる1年が始まる。

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