明治大・伊藤龍之介 SOレギュラー争いは激しくとも、兄・耕太郎の10番は譲らない
昨年度は創部100周年の節目のシーズンだったが、惜しくも帝京大に敗れて大学選手権で準優勝に終わった明治大学ラグビー部。101年目の今季は、春季大会と夏季の菅平合宿では不調が続いたが、9月に関東大学対抗戦が始まると一転。現在4連勝で、勝点24と暫定ながら首位に立っている。そんな明治大学で、対抗戦2戦目の慶應義塾大学戦で10番を初めて背負い、勝利に大きく寄与したのがSO伊藤龍之介(2年、國學院栃木)だ。
明慶戦から先発に定着、連勝に貢献
明治大は、春季大会ではライバルの早稲田大学に、夏の菅平合宿でも筑波大学、天理大学、帝京大学に敗れた。ところが対抗戦では青山学院大学戦(73-17)、慶應義塾大学戦(52-7)、日本体育大学戦(101-0)、立教大学戦(57-15)と、好調を維持している。
昨季は兄・SO耕太郎(現・リコーブラックラムズ東京)の後塵(こうじん)を拝し、対抗戦は控えから1試合の出場に終わっていた伊藤。今季開幕の青山学院戦ではベンチスタートだったが、2戦目、伝統の「明慶戦」では紫紺のジャージーの10番を初めてつけて先発。快勝に大きく寄与した。
ゲーム後、SO伊藤は「前半、無理に攻めず、フェーズを重ねて良いゲームコントロールができた。対抗戦で10番は初めての経験だったので、今後の試合で自分の持ち味を出しつつ、SOとして最後まで取り切るということを意識してやっていきたい。(練習では)10番以外にも12番(インサイドCTB)で入っているので、少しずつレベルアップできればいい」と笑顔を見せた。
身長172cmと決して大きくはないが、ランと判断にたけた伊藤は、続く日体大戦でも10番で先発し、しっかりゲームコントロール。後半の途中からは12番の位置に入ってアタックをリードし、101-0の大勝に大きく貢献した。立教大戦でも3試合連続で10番として先発し、57-15と勝利に導いた。
U20代表や若手プログラムの経験をチームに還元
今季、明治大は、クボタスピアーズ船橋・東京ベイから加入した同校OB・高野彬夫ヘッドコーチの方針もあり、各ポジションで選手を競わせているという。10番(SO)のポジションは、伊藤龍之介、伊藤利江人(2年、報徳学園)、ルーキーの萩井耀司(1年、桐蔭学園)の3人が争う。「普段の練習からピリピリしています。一つ一つのプレーが評価されるので、良い集中力でできています」(伊藤龍之介)
そんな伊藤は、3月から7月までの約5カ月間、明治大ではなくU20日本代表活動にフルコミットしていた。さらに、日本代表を率いるエディー・ジョーンズHCが大学生選手の強化のために始めた「ジャパンタレントスコッド(JTS)」プログラムにも選ばれて参加した。
U20日本代表の10番として、リーグワンのチーム、フィジー、サモア、トンガの代表に準ずるチーム、ニュージーランド学生代表、U20の2部相当の国際大会「ワールドラグビーU20トロフィー」と、数多くの実戦経験を積んだ。「すごく良い経験になったのでU20日本代表でやってよかったことを明治大に伝えて、明治大の良いところとすり合わせています」と話す。
「U20日本代表は即席のチームではなく、マイチームみたいな感じでした。でも、いろんな大学から集まっているので、ピッチでもピッチ外でも細かいコミュニケーションを取ることを意識していました。またU20日本代表の攻撃は、本当にゲインラインギリギリでするため、時間がない中で判断しないといけなかったので、(そこで鍛えられた分、今は)プレーに余裕が出てきて、自分の前や裏のスペースを見られるようになりました」
明治大に戻ってきた伊藤の夏合宿の目標は、「チームにコミットする」だった。関西王者の京都産業大学戦では10番を背負い、チームを勝利に導いた。「パスのタイミングは、明治だともうちょっと速い方がいいかなと思って少しずつ調節しています。明治はBKにボールキャリーが強い選手がたくさんいるので、その味方を生かして10番に定着できるようになりたい」
兄の影響でラグビー開始 花園は高2で準優勝
そんな伊藤は、両親はバスケットボールをやっておりラグビー経験者ではなかったが、3歳差の兄・耕太郎の影響で、3歳から神奈川・藤沢ラグビースクールで競技を始めた。小さい頃から10番でプレーしていた。
土日はスクールに通いながら、元日本代表の川合レオさんが運営する「ラグビーパーク」にも週2回通い、パスやキックのスキルアップにいそしんだ。スクールの同期には明治大同期のCTB中瀬亮誠(桐蔭学園)や青山学院大のHO中山健太郎(東福岡)らがいた。なお、高校2年生の妹・ちひろも関東学院六浦でラグビーをしている。
高校進学にあたっては、神奈川県内の強豪である桐蔭学園や東福岡(福岡)、報徳学園(兵庫)も考えたが、兄と同じ國學院栃木を選択。「ウェートルームも広かったし、人工芝だったし、寮生活をしたい気持ちもありました。兄からもすごく良い雰囲気だと聞いていました」
伊藤の入学と同時に、監督の次男であり早大ラグビー部出身の吉岡航太郎氏が教師として赴任し、コーチに就いた。「航太郎コーチは若くて練習にもいっしょに入ることができますし、早稲田大でやっていた練習などもいろいろやってくれました」と振り返った。
高校1年生から10番となった伊藤は、〝之介コンビ〟と呼ばれたFB青栁潤之介(現・帝京大2年)とともにチームを引っ張り、高校2年時の「花園」こと全国高校ラグビー大会では、栃木県勢初の決勝進出を果たし、東海大大阪仰星に7-22と敗れたものの、準優勝を飾った。優勝を目指した高校3年時は、またも東海大大阪仰星に3回戦で21-31と敗れ、悔し涙をのんだ。
「高校2年の時は決勝まで行けてビックリしました! やっぱり(東海大大阪)仰星は上手だったという感じでしたね。高校3年時も負けたので、本当に仰星には1度も勝てませんでした……」
昨季1年間は兄と切磋琢磨「学ぶこと多かった」
大学も尊敬する兄・耕太郎と同じ明治大に進学した。「兄からは、明治に来るなとか来いとか別に言われていませんでした。早稲田大でプレーすることも考えていたんですが、明治大も良い雰囲気で、國學院栃木の先輩もいるしうまい選手が多かったので、レベルアップできるかなと思いました」
1年間だけだったが、昨季は兄・耕太郎と一緒に汗を流した。ポジションは兄も同じ10番。伊藤は「大学に入るまではすれ違いで、実家で少し会うくらいでしたが、寮にいっしょに住むようになってからはすごく話すようになり、最近では仲が良いです。兄から学ぶこともすごく多かったし、身近に目標がいる良い環境でした」と目を細めた。
将来は、「10番を窮めていきたい」「兄同様にリーグワンでプレーしたい」と話す。目標とする選手は、元オールブラックスで、東芝ブレイブルーパス東京を昨季14年ぶりの優勝に導いたSOリッチー・モウンガだ。
早大・矢崎、同僚・海老澤の活躍から刺激
U20日本代表活動で、途中まで一緒にプレーしていた早稲田大2年のFB矢崎由高(桐蔭学園)は、春から夏にかけて日本代表で大活躍し、明治大同期のWTB海老澤琥珀(報徳学園)も日本代表に招集された。伊藤は当然、彼らからの刺激を大いに受けている。
「U20日本代表やJTSでエディー(・ジョーンズ)さんに指導してもらったり、ミーティングをしてもらったりする中で、常に日本代表を目指しながらラグビーをしていけば、いつかそこに行けるんじゃないか、やっぱり上を見ておかないと入ることはできないと思います」
明治大以外でライバル視しているのは、U20日本代表で10番、12番のコンビを組んでいた帝京大2年のSO本橋尭也(京都成章)だ。JTSにも選ばれていた本橋はケガの影響で出遅れているが、帝京大では伊藤と同様に10番でプレーする可能性が高い。「尭也はうまいので、プレーで負けないようにしたいですね!」
そんな伊藤のリラックス方法は、乃木坂46やFRUITS ZIPPERなどのアイドルの曲を聴いたり、ライブに行ったりすることだ。乃木坂46から齋藤飛鳥が卒業してしまったため、現在の最推しは5期生の池田瑛紗だ。
「今季は各大学の力が均衡」勝ち抜いて日本一を
開幕4連勝を飾った明治大の司令塔である伊藤は「今シーズンの大学ラグビーは力が拮抗(きっこう)している」と感じている。だからこそ「まず対抗戦で、全員のマインドをそろえ、筑波大、帝京大、早稲田大に勝ち切って優勝を狙いたい。そして、毎週レベルアップできたら、大学選手権の優勝が見えてくる」と力強く語った。
伊藤は、自らの強みについて「アグレッシブに前に攻めるラン」と「周りの選手とコミュニケーションを取ってのゲームコントロール」と話す。「オフフィールドではしっかりアピールできると思うので、オンフィールドでしっかりキックとパスで試合をコントロールし、勝利に貢献して10番を勝ち取りたい」とまっすぐ前を向いた。
春から夏にかけて大きく進化を遂げたSO伊藤龍之介。兄・耕太郎がつけていた10番をライバルに譲るつもりはない。紫紺の司令塔としてチームを勝利に導き続け、兄が成し遂げられなかった大学日本一をつかみ取る。