明治大学・佐藤大地 人生初の日本一を渇望する朴訥なLO「ディフェンスで輝きたい」
9月7日、いよいよ今年の関東大学ラグビーが開幕した。昨季、大学選手権準優勝に終わり、「奪還」をスローガンに掲げた明治大学ラグビー部(昨季対抗戦2位)は8日、北海道・月寒ラグビー場で青山学院大学(同7位)と激突した。紫紺の軍団は先制トライを許したものの、スクラム、ラインアウトで徐々に圧力をかけて11トライを奪い73-17で勝利し、白星スタートを切った。
その明治大で、昨季から「重戦車」FWの一人として活躍するのがLO佐藤大地(4年、國學院栃木)だ。ハイボールやボールを持っていないときの動きがコーチ陣から高く評価されている。
姉とともにラグビー開始 高2で花園ベスト16
宮城県古川市(現・大崎市)出身。父は古豪・石巻工業ラグビー部出身で同じくLOだった。姉が3人いる4人きょうだいの末っ子で、友人から誘われて、女子15人制日本代表で活躍する2番目の姉・優奈とともに古川ラグビースクールで競技を始めた。
小学校2年の時に東日本大震災を経験した。1週間くらい公民館のような施設で避難生活を送ったという。「(ライフラインが寸断されて)大変だった記憶はありますが、(住んでいたのは)内陸の方だったので港の方と比べてそこまで被害は……。すぐに家に戻れました」。姉たちが通っていた中学校は被害にあったが、佐藤が通っていた小学校には大きな損害はなかったという。
ラグビーを始めた当時を振り返り、佐藤は「やってみたら楽しかったですが、週1回くらいだったので習い事みたいな感じでしたね」。中学校に入ると陸上部に入り、砲丸投げをやっていたが、同時にラグビーもスクールで続けた。
姉の優奈は当時すでに家を出て島根・石見智翠館高校に進学していた。「ラグビーを続けて花園に出てみたい」と思っていた佐藤は、父の母校・石巻工業や宮城の強豪・仙台育英も考えたが、「通いも面倒くさかったし、(栃木の強豪である)國學院栃木は寮もすごくきれいで、人工芝だったので」と、姉同様に高校から家を出て競技に専念することに決めた。
高校では1年から試合に出場。2年時は、一つ上のSH北村瞬太郎(立命館大→静岡ブルーレヴズ)、SO伊藤耕太郎(明治大→リコーブラックラムズ東京)らとともに花園でベスト16に入った。同期には早稲田大学4年のSH/WTB細矢聖樹、帝京大学4年のWTB青栁龍之介らがいたが、高校3年時の花園は2回戦で奈良・御所実業に接戦の末5-12と敗れた。
「中学まではラグビーは趣味みたいでしたが、高校では他の高校とも試合ができたし、いろんな人と関わることができて楽しかったです!」
大学3年でLOレギュラー 愚直な仕事人
大学進学時は他校からも誘われたが、國學院栃木の先輩が多数在籍していたこと、そして「優勝に一番近いと思った」と明治大に進学した。高校時代は日によってコーチが不在のときもあり、練習も選手主体が多かったという。だが明治大では全員が寮生活でラグビーに専念できる環境で、FWコーチがフルタイムでいることもあり、「ブレークダウン、特にオフザボールの動き方がすごく良くなりました。FWとして大きく成長できました」と目を細めた。
身長は183cmと決して大きくないが、空中戦の強さが評価されて1年時の秋にはペガサス(A・Bチーム)で練習できるようになり、大学選手権の準決勝・東海大戦で3分だけ出場を果たした。しかし2年時は、春シーズンこそ3試合出場できたが、10月に左肩をけがして手術をしたため、秋の対抗戦では1秒たりとも試合に出場することができなかった。
その後はリハビリをしながらフィジカルトレーニングも行い、入部時に90kgだった体重は100kgを超えたという。昨季は春からレギュラーとして存在感を示し、秋から冬にかけては、全10試合のうち1試合以外は5番として先発し、チームの勝利のために愚直に身体を張り続けた。
「ロックとしてあまり身体が大きいわけではないので、どこかで頑張らないといけないと思っていました。ボールを持っていないときにずっと動き続けたことが評価されたのかな。ディフェンスでもジャッカルとか粘り強いプレーが強みだと思っています」
セットプレーに注力「帝京にも勝てる」
昨季は創部100周年の節目だったが優勝できず、2018年度以来となる大学選手権王座の「奪還」を掲げる明治大としては、まず昨季の対抗戦と大学選手権決勝で負けた帝京大、そしてライバルの早稲田大に勝利して、対抗戦1位で大学選手権に出場したいところだ。
昨季の決勝の話を振ると佐藤は「やはり帝京の方がルーズボールの反応が早くて、自分たちが遅れている場面があった。またラインアウトとスクラムのセットプレーで明治の方が負けていた」と冷静に振り返った。
当然、新チームが始まった後、スクラム、ラインアウトに注力して鍛えてきたという。佐藤は「春からずっとセットプレーには力を入れてきて、どんどん成長している。対抗戦で仕上げることができればいいなと思っている。蹴られた後にすぐに自陣に戻るなどルーズボールへの反応と、セットプレーの支配率を上げれば帝京大にも勝てると思う」と語気を強めた。
新チームが始まると、幹部の一人である寮長を任された。「もともと寮長をやる気はなかった」と話すが、「部のLINEでゴミが落ちていたりとか、洗濯場の使い方だったりをコメントしていたら、同期のみんなから信頼されて、多数決で寮長になりました」。遅刻した人に注意したり、風呂や廊下などが汚れていたら指摘したりなど「日常生活の当たり前のことなど気になったことを部員に伝えるようにしています」と話す。
好きな言葉は「努力」。趣味は車で、車のYouTubeを見たり、ドライブに行ったりしているという。来春からは「働きながらラグビーを続けたい」とリーグワンのチームでプレーを続ける予定だ。ただ小学校時代からのラグビーキャリアでまだ日本一を経験できていない佐藤は、日本一への思いも強い。
「春の試合ではあまり明治らしい〝前へ〟を見せることができなかったので、対抗戦ではセットプレー、ボールキャリーで〝前へ〟という言葉を実現したい。そして、まだ優勝したことがないので、最後の年に日本一になりたい」と自分に言い聞かせるようにいった。
タックル・ジャッカルで重戦車支える
26歳になったばかりの姉・優奈は東京山九フェニックスに所属。2019年から現在まで「サクラフィフティーン」こと女子15人制日本代表に選ばれており、22年のワールドカップニュージーランド大会にも出場した。父や佐藤と同じくLOだ。「優奈はジャパンに入って、キャプテンとかもやっていたので、追っかけたいなと思っていました。ライバルとかそういうのではなく、いい刺激になっています」
目立ったラインブレークやトライをするわけではなく、決して目立つ存在ではないが、寮長、そしてFWの縁の下の力持ちとして「重戦車」を支える覚悟だ。「タックル、ジャッカルといったディフェンスでもっと輝くことができればいいな。自分は自分ができるところで目立ちたい」。ラストイヤーを迎え、朴訥(ぼくとつ)な宮城出身のリアルロックは、静かに闘志を燃やしている。