ラグビー

明治大FL大川虎拓郎 我慢の1年を過ごした大器、U20代表選出と次なる飛躍めざす

大学2年目での飛躍を誓う大川(すべて撮影・斉藤健仁)

2月に入り、今年もラグビーのU20日本代表候補合宿が始まっている。新たに就任した元日本代表の大久保直弥HC(ヘッドコーチ)は「大学生は休みだから練習をしないともったいない」とFWの候補選手だけを一足先に招集し、2月の1カ月間はリーグワンの強豪チームへの出稽古も含めて強化に努めている。U20日本代表は昨年、世界の強豪12チームが参加する1部相当の「U20チャンピオンシップ」で全敗し降格、今年は7月にスコットランドで行われる2部相当の「U20トロフィー」(8チーム)に参戦し、優勝して1部に復帰することがターゲットである。

U20日本代表の大久保直弥HC

昨年の高校代表主将、まさかの対抗戦出場ゼロ

U20日本代表候補合宿に気持ちを新たに参加している選手がいる。明治大学1年のFL大川虎拓郎(こたろう、東福岡)だ。昨季は東福岡のキャプテンとして、「花園」こと全国高校ラグビー大会で6大会ぶり7度目の優勝を経験し、さらに昨年3月には高校日本代表でもキャプテンを務めてU19アイルランド代表撃破にも貢献した、世代を代表する選手の一人だ。

昨年4月、関東大学対抗戦の強豪の一つ明治大に進学し、春季大会は控えから2試合に出場した。100周年の節目のシーズンを迎えたチームで、大川はAチームでの練習を続けていたものの、秋の対抗戦と大学選手権の出場は何とゼロに終わってしまった。大川の主戦場はジュニア選手権だった。

昨春の東海大戦に出場した大川。秋シーズンはジュニア選手権が主戦場となった

「春、少し出場できて、秋の対抗戦も頑張ろうと思っていた。(一つ上の最上)太尊(たいそん、仙台育英)さん、利川(桐生=としかわとうき、大阪桐蔭)さんはアタックの激しさがある。先輩たちより劣るものがあり、競争に負けてしまい、対戦相手のコピー(レギュラー組の練習相手として仮想敵になる役)ばかりで悔しかった」

U20候補合宿 雑魚寝で一体感

今回、大川と同じくU20日本代表候補に選ばれたFWの選手たちは、1年生から試合に出ている選手も多い。そのため「東西で、同級生が試合に出ていたことも悔しかった。U20日本代表ではアタック面やボールキャリーを強化していきたい。昨年の高校日本代表でもアイルランド代表とできたことは貴重な経験だったし、今季も『海外勢と対戦できる』とポジティブに考えています」と意気込んでいる。

ワイルドナイツとの合同練習でリーダーシップを取る大川

U20日本代表候補合宿は、「FWが強くないと(世界の強豪に)勝てない」という大久保HCの指導の下、強化合宿ではモール、スクラムといったセットプレーを中心に練習し、さらに1日3度のウェートトレーニングをし、あえてフィットネス系のトレーニングはせず、1日に5~6回食事をしているという。

管理栄養士が帯同しており、身体を大きくするため夜寝る前にポークソテー、豚キムチ、しょうが焼きなど豚肉だけを食べる「ポークタイム」があるとのこと。「ウェートトレーニングが終わったらご飯を食べています。あまりおなかがすいている感じがしなくて(食事をするのが)しんどいですが、『ポークタイム』もトレーニングの一つなので」と大川は前向きに考えている。

費用を抑える狙いもあるようだが、FWのみの強化合宿は、ホテル滞在ではなく雑魚寝で20人ほどが寝食をともにしている。大川は「1人部屋か2人部屋を想像していたら、雑魚寝でした」と驚きを隠さない。大久保HCは「全員が一部屋なので、ほぼ強制的にコミュニケーションを取らざるを得ない。こういう経験も後になってものすごく印象に残る」と狙いを明かした。そんな雑魚寝効果もあり、一体感は大いに増しているという。

高校時代の経験と先輩を糧に

福岡県出身の大川は、小学校1年のとき、ブランビーヤングラガーズで競技を始めた。中学も同スクールで競技を続けて、中学時代は福岡県選抜の一員として全国優勝を経験。全国的強豪の東福岡に進学し、高校2年時からレギュラーとして頭角を現し、高校3年時は花園で見事に優勝した。

昨季の花園で、東福岡は歴代3位タイとなる7度目の優勝を果たした
昨季の花園大会。大川は東福岡の主将として7度目の優勝に貢献した

昨年4月から明治大に進学すると、寮とグラウンド、ウェートトレーニング場が近く、ラグビーをするには絶好の環境となった。この1年で体重は9kgほど増えて103kgとなり、身長も1.5cmほど伸びて188cmになった。東京での生活にもすっかり慣れて、授業や練習の合間に都心に服などを買い物に行ったり、THE SPA 成城や湯パークレビランドなどスーパー銭湯に行ったりすることがリラックス方法だ。

また明治大は、東福岡同様、練習時間は短いという。東福岡では「フリー」という練習があり、それは大学に入っても生きている。「足らないこと、(ライバルとの)差を埋めるために、自分で考えて行動するのは、ヒガシ(東福岡)でやっていたことが今に通じている」。大学に入学した当時、ベンチプレスは90kgを2回しか上げることができなかったが、現在では120kgを2回上げられるようになり「だいぶ(数値が)上がってきました」と胸を張った。

東福岡の先輩である廣瀬雄也主将(左)と森山雄太(右)に囲まれる大川
明治大・廣瀬雄也 「地球上で僕しかできない」100代目主将、王者奪還に向けた行動

今季、明治大は日本一になることはできず、準優勝に終わった。チームを率いていたのは東福岡の先輩であるCTB廣瀬雄也だった。「東福岡ではいっしょにプレーできなかったが、廣瀬さんと1年間プレーできて、リーダーシップのところはすごく勉強になった。まねするところはまねて、自分も4年生になったらそういう立場になりたい。憧れていた東福岡の先輩であるFL森山雄太さんと、最後、一緒の部屋になれたのもうれしかった!」(大川)

U20も大学も ポジション争い熾烈

3月になるとBKもU20代表候補合宿に参加し、その後は、リーグワンとの練習試合や海外遠征も予定されている。もちろん明治大には有望な新1年生も多数、入学してくる。U20日本代表でも明治大でも、ポジション争いは依然として激しい。特に明治大のバックローはFL福田大晟(3年、中部大春日丘)、NO8木戸大士郎(3年、常翔学園)の2人は確定的と言え、残りのレギュラー争いは熾烈(しれつ)を極める。

明治大学・福田大晟 「一日小さな一生」を胸に、紫紺の「7番」を背負う覚悟
明治大学・木戸大士郎 100周年を迎えた早明戦勝利と大学日本一へ「凡事徹底」
U20代表候補合宿で、モールの練習をするFWの選手たち

「まずはU20日本代表に選ばれないことには始まらない。そこで成長して、明治大でもアピールしたい。6番、7番、8番ならどこでも出たいですね。先輩にも後輩にも負けないように頑張りたい」という大川は、U20日本代表活動を大きな成長機会と捉えている。

同学年のライバルからも刺激

2月6日、7日には、1月に日本代表の指揮官に復帰したばかりのエディー・ジョーンズHCが、福岡でシニア世代の日本代表候補合宿を敢行、大学生9名を招集した。そこには同学年で、昨季は高校日本代表で一緒に戦ったLO石橋チューカ(京都産業大学1年、報徳学園)、SH髙木城治(同、東福岡)、WTB/FB矢崎由高(早稲田大学1年、桐蔭学園)の名前もあった。

報徳学園高・石橋チューカ 速さと運動量が武器の「リーチ2世」、春から京都産業大へ
東福岡の高木城治と報徳学園の村田大和 「花園」決勝の両SH、そろって京都産業大へ
早稲田大・矢崎由高 U20飛び級のルーキー、けがで苦悩の1年を経て一気に開花
シニアの日本代表候補合宿にも参加した石橋チューカ(京産大1年)

大川は「思うところはありますが、大久保HCが『U20日本代表でアピールをしたら(シニアの)日本代表合宿に呼ばれやすい環境になる』と話していた。アピールして、早く石橋チューカに追いつけるように頑張ります!」と語気を強めた。

この1年、我慢の時を過ごしてきた大川。身体を大きくするだけでなく、アタック面を磨きつつ、得意のラインアウトでアピールして、まずはU20日本代表に選ばれて活躍することが当面の目標である。その経験を糧に一歩一歩成長し、対抗戦で紫紺のジャージーをつかみたい。

ラインアウトは大川の武器の一つ

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