明治大・廣瀬雄也 「地球上で僕しかできない」100代目主将、王者奪還に向けた行動
「前へ」という伝統的なスローガンと紫紺のジャージーで高名な強豪・明治大学ラグビー部。1923年に誕生し、今年は創部100周年を迎えている。そんな節目の年、100代目のキャプテンに就任したのはCTB(センター)廣瀬雄也(新4年、東福岡)だ。キャプテンになった経緯や大学王者奪還への思いを聞いた。
同期で話し合った「求める像」
昨季の明治大は関東大学対抗戦で6勝1敗。優勝した帝京大に敗れただけの2位で、大学選手権に出場した。しかし選手権の準々決勝で、ライバルの早稲田大学に21-27と逆転負けを喫して年内でシーズンを終えた。廣瀬は「明治のプライドとして、スクラムの反則は痛かった。(2トライを奪われた後半の)10分間くらい、完全にのまれてしまった」と唇をかんだ。
その後は1カ月間ほどのオフ期間があり、2月中旬から新チームが始動した。まず新4年生は集まって「キャプテン、副キャプテンに求める像」を話し合った。「みんなに信頼されるプレーをする」「80分間プレーで引っ張り続ける」「グラウンドだけでなく私生活もしっかりやる」などの意見が出たという。
1日おいてから4年生で投票を行い、キャプテンが廣瀬、副キャプテンはLO(ロック)山本嶺二郎(新4年、京都成章)に決まった。廣瀬は「自分が同期の中では一番紫紺(のジャージー)を着ているし、学年リーダーを3年間やってきた。覚悟はしていました」と振り返る。
神鳥裕之監督は「あまり(100周年という)プレッシャーがかからないようにサポートしたい。(廣瀬、山本の)どっちがキャプテンになっても間違いないと思っていた。廣瀬はみんなから推されたキャプテンなので、自分の持っているものを出して自分らしく頑張ってほしい」と期待を寄せた。
スローガン「ONE MEIJI」に込めた意味
廣瀬は、父の友幸さんが宗像サニックスでSO(スタンドオフ)/CTBとして活躍していたことも影響し、福岡・玄海ジュニアラグビースクールで小学1年から競技を始めた。筑波大学のキャプテンになったNO8/CTB谷山隼大(福岡)はスクール時代からの幼なじみだ。藤田雄一郎監督に誘われて強豪・東福岡へ。高校時代も早稲田大の副将になったFL(フランカー)永嶋仁と共同主将を務めたが、2年連続で花園は準決勝で涙をのんだ。
大学は「日本一を狙えるし、お客さんがたくさん入る中でプレーできたら楽しい」という理由から明治大に進んだ。大学ではフィジカルアップと苦手だったタックルスキルの向上を図り、1年からレギュラーとして活躍してきた。
改めて100周年のキャプテンになった感想を聞くと、「地球上で僕しかできない。この状況、巡り合わせは貴重な経験になると思うので、プレッシャーに感じることなく、特別に感じながらやっていきたい」と話した。
新4年生たちはリーダー陣を決めると同時に、今季のスローガンを「ONE MEIJI」と決めた。「この4年、日本一を目指すだけでは取れない。ラグビーだけでなく私生活から見直し、もし優勝できなかったとしても『俺たちは日本一のチームだった』と自信を持って言えるようにならないと先は見えてこない。また100周年なので、スタッフ、選手、OBだけでなくファンも学生もみんなを巻き込んで、日本一になるために、一緒に戦って一つになりましょうという意味も込めました」
新キャプテンは早速、行動を起こした。「昨季は寮が結構、汚かった」と感じたため、これまでは部屋ごとに行っていた掃除について、自分も含めて4年生8人をリーダーに、100人近い部員をグループ分けして行うように変えた。大学1年時にやっていたことを再び取り入れた形で、掃除だけでなく、チームビルディングや試合後のレビューもやる予定だ。
「前へ」の意識を持ってもらうための模索
ラグビー面で廣瀬主将が大事にしたいと思っているのは「モメンタム(勢い)」、そして「明治らしいラグビー」だ。廣瀬は「システムや形にこだわり過ぎてしまって、明治伝統の『前へ』の気持ちが薄れてきちゃったのかな……。現代ラグビーと昔のラグビーをうまくミックスして、今年の明治は昔、僕たちが見ていた『前へ』の気持ちが出ているラグビーを見せたい」と意気込んだ。
廣瀬は「前へ」の意識を強く持ってもらうため、たまに食堂で、5シーズン前にSH(スクラムハーフ)福田健太(現・トヨタヴェルヴリッツ)の代が大学日本一になった時の決勝戦の映像を流しているという。またコーチらとトップリーグの強豪チームの練習を見学し、新しい練習法を採り入れようと模索している。
もちろん、大学王者となるためには2連覇中の帝京大、ライバルの早稲田大に勝たなければならない。そこで昨季は週5回だったウェートトレーニングを90分間×週6回とし、個別にS&Cコーチや栄養士と面談を行って目標体重と体脂肪率を設定。フィジカルアップを目指している。さらに全員が同じことをするのではなく、サイズアップする選手、突破力を高める選手、スピードをアップする選手とに分かれてトレーニングすることで、個の力をさらに伸ばそうとしている。
廣瀬は「まずFWは体を大きくして、セットプレーを確立してほしい。そしてBKがしっかり取り切る。僕は(昨季まで)キックとパスでスペースを突いてついてみんなを助ける側ですが、今季は(三つ上のキャプテン箸本)龍雅さん(現・東京サンゴリアス)がやっていたように、空いてないスペースでもフィジカルを生かしてこじ開けたり、ブレークダウンに突っ込んだりして、行動で示していきたい」と意欲を語った。
大学入学時は体重87kgだった廣瀬は現在95kg。筋量を増やして体脂肪を落としつつ、来年リーグワンでプレーする頃には、走れる体で体重100kgを理想としている。
想定外のことも想定内に閉じ込める
個人的な将来の目標を聞くと「もちろん(日本代表の)桜のジャージーを着たい」とキッパリと答えた。「もしかしたら(リーグワンでは)10番としてプレーするかもしれないが、今のところは12番の予定。同じポジションに自分よりうまい選手や、評価されている選手がいるのは嫌」と日本のトッププレーヤーを目指している。
チームとしての目標は、達成すれば2018年度以来となる14度目の大学日本一だ。「春季大会、秋の関東対抗戦と全勝を目指しますが、準備をしっかりして、想定外のことも想定内に閉じ込めて、一つの負けにプレッシャーを感じないようにしたい。どんなことが起きても、結局日本一になるのなら、すべての過程は日本一のためです」
今季で100周年を迎えるチームは、来季からは新たな100年のスタートを切る。廣瀬は「100年続けてきた伝統、文化を、また(今後の)100年、続けていけるように継承していかないといけない。100周年が終わったとき、全員が同じ目標に向かって戦う姿を見せて、1人でもファンが増えたらうれしいし、一人でも多くの人が明治に入りたいと思ったらうれしいですね」と真っすぐ前を向いた。