ラグビー

明大・石田吉平「ラグビー人生で一番大事な1年」武井日向のような安心感のある主将に

明治大学の石田吉平新主将。ラグビー人生で主将は初めて(撮影・斉藤健仁)

関東大学ラグビーの雄で紫紺のジャージーで知られる明治大学ラグビー部。2018年度に22年ぶり13度目となる大学王者に輝いた。だが、その後は全国大学選手権で準優勝、ベスト4、昨年度も決勝で帝京大学に敗れて準優勝と惜しいところまで進出するものの優勝に手が届いていない。

そんな中、新4年生の投票によって主将に推挙されたのは、大学生で唯一、昨年の東京オリンピック(7人制)に出場したWTB(ウィング)石田吉平(4年、常翔学園)だ。昨年末から高校、大学の先輩である神鳥裕之監督に「来年はリーダー格としてチームを引っ張ってほしい」と言われていたため「覚悟はしていた」という。

7人制ラグビーの明治大1年・石田吉平 すべては人生で1度の東京五輪のために

伝統校で初の大役

1月の大学選手権決勝で敗戦し、オフの後、2月に4年生が集まり投票の末、石田が主将に決まった。5歳の時、兵庫・尼崎ラグビースクールで競技を始めた石田だが、主将に就くのは初めての経験だった。「とても重要な役割で責任が大きくプレッシャーに感じました」と正直に吐露する。

「一番ストイックに取り組み、周りからリスペクトされていたので、石田になると思っていた」という神鳥監督は主将に決まった石田に「迷いそうになった時には、下手にチームのことを考えるとかまとめようとせず、軸をぶらさず、なぜ自分がキャプテンに選ばれたか忘れるな」と伝えた。

「僕はあまりしゃべれるタイプではないので、しっかり行動で示したい」という石田が理想とするのは1年生の時の4年生で主将を務めたHO(フッカー)武井日向(リコーブラックラムズ東京)だ。「日向さんは試合中、一番走って、一番体を張って、チームの先頭に立ってプレーしていた選手でした。日向さんとはポジションは違いますが、周りから安心感があり『この人がおるから大丈夫』と思わせるキャプテンになりたい!」(石田)

リーグワン開幕、負けた試合から学んだこと BR東京・武井日向新主将(上)

名手・吉田ら数少ないウィングの主将

強力なFWのイメージが強い明大で、ウィングの主将は1990年度の元日本代表WTB吉田義人さんら数少ない。石田は「吉田さんに重ねられることはありますが、自分は自分なりのキャプテンを貫きたい。一番の目標はチームの日本一なので、それにこだわりたい。またウィングだからできること、できないことがある。コミュニケーションたくさんとって、トライを取って得点源になることも大事ですが、泥臭く体を張って、前に出てチームを引っ張るキャプテンになりたい」と意気込んだ。

強烈なリーダーシップで明大を大学日本一に導いたWTB吉田義人(撮影・朝日新聞社)

2月からフィジカルトレーニングや走り込みなどを中心に取り組んでいる中、石田は態度で示すことに注力している。アップも含めて練習中でも一番真摯(しんし)にラグビーに取り組み、挨拶(あいさつ)や整理整頓という寮生活の基本的なことから積極的に行い、コロナ禍のため手洗い、手指消毒、マスクの着用なども規律を持って行っている。

また石田は主将に就くにあたり、神鳥監督から「プレーも含めて自分のことは自分でしっかりやってほしいが、一人でやることは絶対無理なので、周りの4年生に頼ってほしい。学生スポーツは、最後は最上級生の力が大きいので4年生からしっかりチームを作り上げていこう」というアドバイスももらった。

信頼できる幹部たち

自分の脇を固める副将に石田同様に、1年生から紫紺のジャージーに袖を通していたPR (プロップ)大賀宗志(4年、報徳学園)とSO(スタンドオフ)齊藤誉哉(4年、桐生第一)の2人を推し、そのまま決まった。寮長には昨年度副寮長だったHO(フッカー)紀伊遼平 (4年、桐蔭学園)が昇格した。

左から小林瑛人主務、大賀、石田、齊藤、紀伊(明大ラグビー部提供)

「大賀も齊藤も1年生から(Aチームに)メンバー入りしていて、いろんな勝ち負けを経験している。大賀は困った時にFWを引っ張ってくれる選手で、齊藤はバックスの中で一番ラグビーIQが高くて、ラグビーに一番、真剣に取り組んでいる選手だと思いました。僕が任せられる2人を選びました」(石田)

また昨年度の明大は関東大学ラグビー対抗戦では帝京大と早稲田大学に僅差(きんさ)で敗れて3位に終わり、調子を上げて臨んだ大学選手権決勝では14-27で帝京大に敗れた。

ラグビー面ではどんな点が課題に挙がったのか。「決勝戦は勢いにのまれた部分はありましたが、昨年度のチームは、あと一つというところで自分たちのパフォーマンスができなかった。練習でも『ラスト』と言われて、ミスをしたことが多かったので、最後の最後までパフォーマンスに意識して取り組んでいきたい」(石田)

昨年度の選手権決勝は点差以上に力の差があった(撮影・斉藤健仁)

また新主将は「当然、帝京大にはフィジカル面で負けているところもありましたし、サインプレーを提示されたら『それしかない』みたいな傾向があった。今季は自分たちでもっと考えて、いろんな選択肢、対応力を持って、柔軟にプレーできるようになりたい」とも話した。

「前へ」の精神、スローガンは「AHead」

今季のスローガンは4年生で話し合い、全員が納得した上で「AHead」に定めた。「僕らの代は入学前年度に優勝して、まだ優勝していない。aheadという英語は『前に』『前へ』と明治大ラグビー部が大事にしている『前へ』の精神につながる部分がありますし、今季こそ『頂点を取りに行こう』ということで『AHead』としました。aとhを大文字にしたのはAには『チーム一丸』『一つになって』『あと一歩』という意味を、『Head』は『頂を取りに行く』という意味を込めました」(石田)

ラグビー選手として、石田個人のことについても聞いた。高校生の時に7人制のユースオリンピックで銅メダル獲得に貢献し、3年生から7人制日本代表に選ばれた。昨年、晴れて東京オリンピックの日本代表となったが、11位に終わった。チームとしても個人としても課題の残る大会となった。

バネの効いた走りで相手ディフェンスを突破していく(撮影・斉藤健仁)

オリンピックから戻り15人制に専念した石田は、昨年度は「紫紺のエース」として、スピードとステップを武器に勝負所でトライ挙げた。「世界の壁、自分の力のなさを一番感じたので、『大学ではこれで抜けていたが、世界では通用しない』と世界レベルを考えて、自分の限界のさらに上に行きたいと追求しながらやってきました」(石田)

世界では自分より細い選手や自分と同じように身長170cmほどの小さい選手もいたが、「体幹がぶれない。また小さい選手はスピードがありスキルもあり、比べると自分は全然足りなかった。また自分の武器であるステップをもっと磨かないといけない」と感じた。腹筋など体幹のトレーニングと、「爆発的な初速にこだわって」足の筋力の強化に取り組み、一昨年の倍以上の時間を掛けた成果が出たという。

「個人的な目標は2023年のパリ五輪でメダルを取ることで、自分のラグビー選手としての役目は日本のセブンズをトップレベルにすることです!」と先を見据える石田は、「この一年がめちゃくちゃ大事だと思っています。15人制に特化し、明治大でキャプテンを務めるのはラグビー人生の中で一番大事な1年になる」と語気を強める。

同期のオリンピアンから刺激も

22年北京オリンピックのフィギュアスケートで団体3位、女子5位に入った明大同期の樋口新葉(わかば)の活躍には大いに刺激を受けた。「大会後、連絡させてもらいましたが、やっぱり改めてすごい選手だなと思いました! オリンピックの舞台で活躍していたので、今度は自分がという思いが強いです」(石田)

「至誠通天」を座右の銘に掲げる石田だが、最近、好きな言葉がある。それは「何も咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ。やがて大きな花が咲く」だ。「春、ウェートトレーニングや走り込みをしている期間とか、試合がない時こそ、基盤を作る、軸を作る意味で一番大事で頑張らないといけないし、自分の進化が問われる。この言葉が自分を奮い立たせてくれますし、自分に合っていると思っています」(石田)

明大で日本一、そしてその先にオリンピックでメダル獲得を見据える石田主将に、改めてどんなシーズンを過ごしたいかを聞くと「この1年、『強い明治』と言われるようにしっかりと勝ちにこだわって、最終的には確実に日本一を取りたい。そのプロセスを春から1試合、1試合、踏んでいきたい」と決意を新たにしていた。

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