ラグビー

明治ラグビーの新主将は箸本龍雅「早稲田に負けた瞬間の思いを一日も忘れない」

1月の大学選手権決勝で、箸本は後半16分にトライを決めた(撮影・谷本結利)

昨シーズンのラグビー大学選手権決勝で、明治大はライバルの早稲田大に35-45で敗れた。2連覇を逃し、新たなスタートを切った集団を引っ張るのが新キャプテンのLONo.8 箸本龍雅(はしもと・りゅうが、3年、東福岡)だ。33日に新体制が発表され、副キャプテンには、箸本と同じくチームの中軸のLO片倉康瑛(3年、明大中野)とSO山沢京平(3年、深谷)が就いた。箸本に大学ラストイヤーへの思いを聞いた。 

同期全員が「箸本しかいない」

今年の1月から練習生としてサンウルブズの合宿に参加。久しぶりに明治の練習に加わった箸本に3月7日、インタビューした。まず新キャプテンになった感想を問うと、「よく聞かれますが、プレッシャーはありませんね」と言って笑った。 

副将にはSO山沢(左)とLO片倉(右)が就いた(撮影・斉藤健仁)

昨年末ごろから田中澄憲監督(44)に「リーダーを意識して、チームを引っ張ってほしい」と声を掛けられ、本人も新チームのキャプテンになる覚悟を決めた。そして年明け、田中監督から「キャプテンでいくぞ!」と言われ、さらにミーティングでも同期全員が「箸本しかいない」と背中を押してくれた。 

東福岡高校時代は2年生で高校日本代表に選ばれた。3年生のときはキャプテンとして高校3冠を達成し、高校日本代表のキャプテンも務めた。そのため、箸本は今回のキャプテン就任にも「不安はありません」と言いきる。 

箸本の持つキャプテン像、リーダー像は、自らが先頭に立って引っ張っていくだけのスタイルではない。「キャプテンの自分だけが発信するのはよくない。リーダー陣だけでバンと(目標や方針などを)提示しても、のけ者に感じてしまう人もいるかもしれない。新4年生だけでなく、下級生やいろんな人を巻き込んで私生活でも練習中でもフラットに、思ったことを言える環境にしたい。みんなで納得しながらやっていきたいです」 

東福岡高校3年生のときの箸本。主将として高校3冠に導いた(撮影・朝日新聞社)

2で高校日本代表に選ばれたとき、東海大仰星(大阪)のキャプテンで、昨シーズンの東海大のキャプテンだったSOCTB眞野泰地(4年)が、周りの選手にリーダーの役割を振り、チームをまとめる姿を見ていた。「自分だけが頑張ってると、一人でやってる感じになってしまう。眞野さんのやり方を見て、そういうやり方もあるんだ、と」。東福岡や高校日本代表のキャプテンになったときも、眞野のやり方を踏襲してうまくいった経験がある。 

新たなスローガンは「One by One」

だからこそ、田中監督にキャプテン就任を打診されたあと、同期のみんなに「自分がキャプテンでいいのか?」と聞いた。新たなスローガン「One by One」も新4年生みんなで決めた。オフに入る前に、箸本は全員に「新しいスローガンとその理由を考えて来て」と頼み、オフが明けるとスローガンについて話し合う時間を設けた。 

サンウルブズの練習生としての活動にも力を注ぐ(撮影・斉藤健仁)

One by One」というスローガンの意図を箸本に聞くと、こう説明してくれた。「昨シーズンはあまりつまずく試合がありませんでした。対抗戦でも早稲田に快勝して『(大学選手権も)いけるでしょ』という雰囲気があって、大事な時期でも目の前のことやいままで大切にしていたことに最後の最後までこだわれなかった。先を見すぎないで一つひとつ、という意味を込めました」 

箸本は大学選手権決勝で早稲田にリベンジされたことを「シンプルに悔しかった」と振り返る。「明治は最後まで緻密なことににこだわることができず、早稲田さんは一日一日、どういうプレーをすべきか考えてて、毎日の濃さの差が決勝の前半に全部出たと感じました。その悔しさを一番忘れちゃいけない立場なのがキャプテンだし、それをチーム伝える、発信し続けることができるようなキャプテンを目指してます」 

俺が俺が、というキャプテンにはならない(撮影・斉藤健仁)

「試合に出てた選手にしか分からないこともある」と箸本。早稲田に負けた瞬間の思いを一日たりとも忘れないよう、携帯電話の待ち受け画面を変えた。「携帯を見るたびに、45-35というスコアと早稲田の選手たちの喜ぶ写真が出てきます。時間が経って忘れちゃうと自分の成長が止まってしまう。あの悔しさを意識しながら、チームで一番体を張る選手になりたい」 

体重を増やしてから減らし、動きがさえた昨シーズン

昨シーズンはユース世代の日本代表の活動がなかったこともあり、箸本は体重を1度114kgまで増やしてから107kg程度に絞ったこと。これが功を奏し、秋から冬にかけてのパフォーマンスが上がった。例えばスクワットも140kg×8回を4セットでやっていたのが、現在は185kg×8回を4セットできるようになった。「パワーがついた」という実感がある。 

チーム練習に参加するのは久々だった(撮影・斉藤健仁)

いま身長188cm、体重108kg。今シーズンも体を大きくしてから絞る方向でいるが、「昨シーズンいいパフォーマンスができてたので、動けなくなるのが怖い」と本音も漏らした。それでもサンウルブズではフィジカル面で通用しなかったという実体験や反省もあったため、いまはトレーニングの強度を上げつつ、しっかりと食事を摂っている。 

目標は「3冠」、Bチーム以下にも目を配る

新チームになった明治は「早稲田を倒しての大学日本一」と関東大学対抗戦優勝、関東大学ジュニア選手権優勝の「3冠」を目標に掲げた。「同期として話してる中で、チームとして3冠を達成するという目標が出ました。Bチームが強いということはAチームも強いということになる。下の選手にも目を配って、切磋琢磨(せっさたくま)できるチームになればいいなと思います」 

ただ、FWのメンバーが大きく変わったこともあり、現在は基礎的なところのベースアップに時間を割いている。身長190cm超の1年生LO2人入ってくることもあり、箸本は「チーム事情にもよりますが、ナンバーエイトもやってみたいですね」と話した。 

誰もが「明治で過ごせてよかった」と思える1年に

1年生から試合に出ている箸本に、最終学年ではどんなシーズンを過ごしたいかと尋ねた。「勝敗に関係なく、後悔したくはありません。自分たちが終わったとき、本当に一人ひとりがこの学年でよかった、明治で過ごせてよかったと思えるようなチームにしたいです。そうすれば自然といい結果もついてくるはずです」。自分に言い聞かせるように語った。 

取材の日、全体練習の前だけでなく練習後も、箸本は後輩を誘って黙々と接点の練習に精を出していた。勝利の喜びと敗北の悔しさの両方を知る新キャプテンが、メイジの先頭に立って王座奪還を目指す。

大学選手権決勝で早稲田に負け、ぼうぜんとする前主将の武井。箸本は武井の思いも受け継いでいく(撮影・谷本結利)

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