ラグビー

東海大の新主将は「鉄板」で眞野、勝つ文化づくりへ準備重視

東海大シーゲイルズをキャプテンとして率いる眞野(撮影・斉藤健仁)

2000年代に入り、東海大ラグビー部「シーゲイルズ」は関東大学リーグ戦の雄に成り上がった。昨年のリーグ戦では強力FWを軸に、6勝1分で2年ぶり8度目の優勝を飾った。大学選手権は準々決勝で、優勝した明治大に15-18と惜敗した。

身長171cmのFLとして高校3冠

CTBアタアタ・モエアキオラ(チーフス/神戸製鋼)、No.8テビタ・タタフ(サントリー)といった、日本代表キャップも持つトンガ人留学生たちが卒業。今年度の東海大は、チーム一丸で戦うことを余儀なくされた。そこでキャプテンを任されたのが、SO/CTB眞野泰地(まの・たいち、4年、東海大仰星)だった。

「やっぱり眞野か」と思ったラグビーファン、東海大ファンも多かったはずだ。1998年からチームを率いる木村季由監督も「僕の中では鉄板でした」と、決して迷わなかった。眞野本人も「そんな雰囲気があって、木村監督からも言われていたので、4年生になったら自然とキャプテンになりました」と振り返る。

眞野(左)が主将になることは自然な流れだったという(撮影・斉藤健仁)

眞野は身長171cmと大きくはないが、高校時代はFLとしてプレー。接点で体を張り続ける主将として、東海大仰星(現・東海大大阪仰星)を高校3冠に導いたリーダーシップの持ち主である。東海大に入学後、高校の途中までプレーしたBKに戻り、1年から公式戦に出場。ユース世代の日本代表として世界とも戦った。

例年はないスローガン「覚悟とつながり」

昨年度の東海大は「もし明治大に勝っていれば……」というシーズンだった。

ただ、眞野は言う。「負けは負けです。アタック、ディフェンスともにいい部分はありましたけど、バックスリーの連携ミスがあったし、BKがFWを前に出せなかった。自分たちの甘いところがあって、詰めきれていない部分があったから負けた。それを受け入れてやってます」。冷静に自分たちの敗因を見つめていた。

2月中旬に新チームは始動した。まず眞野が取り組んだのは、今年度の目標とスローガンを決めることだった。部としてずっと「力必達(つとむればかならずたっす)」という言葉を大事にしていたが、これまでは代ごとの具体的な行動指針やスローガンはなかったという。

そこで約40人の4年生で話し合いを持ち、目標は「日本一の喜びを分かち合う」、スローガンは「覚悟とつながり」と決めた。眞野が説明する。「目標にはひとつのチームとして、最後に優勝して喜べるようにという思いを込めました。コーチ陣や選手、選手同士など、いちばん大事なつながりがまだまだ弱いと感じていたので、スローガンに『つながり』を入れました。また、なんとなくのつながりではなく、日本一という目標に対して、『覚悟』を持とうと、『覚悟とつながり』がスローガンになりました」

大学グラウンド付近にはあちこちにスローガンが掲げてある(撮影・斉藤健仁)

中学から東海大系列で育つ

眞野はラグビーをしていた兄の拓也(丸和運輸)の影響もあり、小学1年から奈良の生駒ラグビースクールに入った。スクールは週1回だったこともあり、「毎日ラグビーがしたい」と、自宅からバスで通学できる東海大仰星中に進んだ。

中学時代から高校ラグビー界の名将のひとりである湯浅大智監督の指導を受けた。中学ではSOだったが、高校になると、いまでは「負けたくない相手」とライバル視するSO岸岡智樹(早大4年)が仰星に入ってきたこともあり、FLに専念。強いタックルができ、ボールを持てばタックルされても倒れない。花園の決勝でもトライを挙げた。世代を代表する選手となり、高校日本代表にも選ばれた。「仰星では3年間ではなく6年間というスパンで成長させてもらったと思います」

東海大では木村監督の薫陶を受けて、とくに12番のインサイドCTBとして、一回りも二回りも成長した。U20日本代表でも、持ち前のディフェンス力と、10番と一緒にゲームをコントロールする姿が印象的だった。まさしく、東海大の一貫指導の中で成長してきた選手のひとりと言える。

自作のパワーポイントでプレーの意図を説明

この春はコンディション不良のため試合に出場していないが、眞野は自分のプレーに関して、こう語った。「インサイドCTBとしてコミュニケーションをとり続けて、全体をまとめられるようなプレーがしたい。アタックでゲインし続けながら相手の隙を見つけて、SOを助けられるようにしていきたいです」

眞野(右から3人目)はSOを助け、チームをまとめられるプレーを目指す(撮影・斉藤健仁)

キャプテンとしてはコーチ陣と密に連絡を取り合いつつ、週1~2回ほど1時間くらい学生だけでミーティングをするようにした。昨年度と比べると、ミーティングの回数が格段に増えたという。「ただ接点の練習をやるというのではなく、試合に向けて何を統一してやるのか、相手に向けてどういったプレーするのか。映像や自分で作ったパワーポイントも使って話し合い、ラグビーの理解度を上げることにこだわってます。そういったことを理解した上で、グラウンドで実践してます」

木村監督は「眞野がいいリーダーシップを持ってやってます。昨年度までは学生同士で答えを出すことが圧倒的に足りなかった。眞野がキャプテンになってからしっかりやってます」と、生粋のリーダーに全幅の信頼を置いている。

また眞野は東海大が大学日本一に届いていないことについて「勝つ文化がないからです。日本一になるよりも、勝つ文化を残したい」と、語気を強めた。「みんな、この状況、この練習じゃ優勝できないと感じているので、自分たちが練習、戦術を考えて、それを残して来年につなげていってほしい。だから、何となくとれちゃう日本一ではなく、『これだけしっかり準備したから日本一になるのが当たり前』と思えるくらいに、準備を大切にしていきたい」

将来は高校の先生に

座右の銘は「日進月歩」だ。「成長はすぐに得られるものではないです。一日一日、個人としてもチームとしても成長していきたい」。尊敬する選手は帝京大3連覇時の主将で、トップリーグの東芝でもキャプテンを務めたSO森田佳寿(現・東芝BKコーチ)である。大学卒業後はトップリーグでプレーし、その後は「尊敬する湯浅監督のように高校の先生になりたい」と、将来を描く。

眞野(中央)は将来、高校教師を志している(撮影・斉藤健仁)

東海大は強力な外国人留学生2人が去った影響で、チーム力低下は否めないという見方もあった。しかし、春季大会Aグループで、大東文化大と早稲田大に接戦ながら連勝。今年度も十分に力があることを証明した。木村監督は「シンプルですが、意思統一をしながら、個の強さではなくチームとしての共通認識を持ってしっかり戦えています」と、手応えを口にした。

眞野は「FWとBKのバランスはいいと思います。チーム力を上げて、絶対に日本一を取ります」と、まっすぐ前を向いた。コミュニケーション力とタックルを武器に、眞野は先頭に立ち続け、東海大ラグビー部の悲願である大学日本一に奪取に挑む。

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