ラグビー

ラグビーで東京五輪という選択 専修大・野口宜裕

野口は爆発的な加速が魅力(撮影は全て斉藤健仁)

通称「セブンズ」の7人制ラグビーは、2016年のリオデジャネイロ大会からオリンピックの正式種目となった。日本の男子が4位に入ったのを覚えていらっしゃる方も多いだろう。
15人制と同じ広さのフィールドを使って7対7でプレーするため、ボールが大きく動く。スピードと俊敏性が問われる、エキサイティングな戦いが見られる。
大学生活の途中から、セブンズでの2020年東京オリンピック出場にすべてをかけてきた男がいる。男子のセブンズ日本代表に大学生で唯一選ばれている、専修大学4年の野口宜裕(よしひろ、早稲田摂陵)だ。

男子のセブンズ日本代表は、今シーズンからF1のように世界10カ国をまわるサーキット大会の「ワールドシリーズ」のコアチームに再昇格した。ワールドシリーズは世界のトップ15チームと一つの招待チームで2日あるいは3日間で各大会の優勝を争い、10大会の総合ポイントで順位を決める国際大会だ。今シーズンは東京オリンピックの予選も兼ねている(日本は男女ともにすでに出場決定)。

昨年12月のUAEのドバイ大会、南アフリカのケープタウン大会には、立命館大学1年の藤井健太郎(伏見工業高校)も選ばれていたが、トップリーグが終わり、リオデジャネイロ大会のメンバーやほかの主力選手が戻ってきた中で、12人のメンバーに入り続けている大学生は野口のみとなった。野口はケープタウン大会では流れが悪い状況でも、持ち前のスピードとステップを武器にトライを挙げた。
ただ、チームが全敗したこともあり、野口は「アタックのときは倒れてもすぐ起き上がって走って、もっと走らないと通用しないと実感しました」と、悔しさを露わにしていた。

早大へ進めず、運命の出会い

中学を卒業後、東京から大阪の早稲田摂陵高校に進学した野口は、先生に勧められてラグビーを始めた。50m6秒0の快足を生かし、15人制のSOやWTBとしてプレーしていた。希望していた早稲田大学に進学することはかなわず、専修大学へ進んだ。

そこで大きな出会いが待っていた。専修の監督は、日本人として初めてプロ選手となってフランスでプレーし、日本代表でもSHとして活躍、現役引退後は男子セブンズ日本代表の監督も務めた村田亙氏だった。

1、2年生のときはWTBとしてプレーしていたが、野口はなかなか定位置を確保できなかった。だが3年生の4月にあった関東大学リーグ戦セブンズで大活躍。その姿を見た村田監督は「スピードがあって、15人制よりもセブンズの方が向いてる」と、かつて日本代表でハーフ団を組んだ仲でもある岩渕健輔セブンズ男女日本代表総監督に野口を推した。

すぐにSDS(セブンズディペロップメントスコッド=日本代表候補になり得る選手)合宿に呼ばれ、野口は頭角を現した。広い視野とスピード、そして積極的なプレースタイルを武器に、17年5月には東日本クラブセブンズ、7月にはジャパンセブンズで優勝に貢献し、当時のニュージーランド人のヘッドコーチにも「高いポテンシャルを持っている」と、高い評価を受けた。

それ以降、野口はセブンズに専念すると決め、同年9月に韓国であったアジアシリーズで日本代表デビューを果たした。15人制ではWTBだったが、セブンズではボールを素早くさばき、ディフェンスでは下がって守るSHを務めている。

元日本代表SHだった村田監督は、野口を15人制でもSHにコンバートしてスキル面の指導に力を入れた。本人もセブンズの選手としてのフィットネス強化にあたった。その甲斐もあって、野口は18年4月のシンガポール大会でワールドシリーズデビューも飾り、オリンピックの強化指定選手にも選ばれた。

セブンズラガーマンとしての未来が開けた

完全にセブンズ一本

18年7月、アメリカのサンフランシスコでセブンズのワールドカップが開かれた。2年後の東京オリンピックを占う国際大会だけに、野口も出場を目指していたが、直前のセレクション合宿で右足首を負傷してしまい、出場はかなわなかった。
ただ、野口の中でアスリートとして夢だったオリンピック出場は、日に日に実現可能な目標となっていった。大学卒業後もセブンズに専念する覚悟を決めた野口は、JOC(日本オリンピック委員会)の就職支援制度「アスナビ」を利用して、セコムへの入社が内定した。

「オリンピックに出たいという思いだけでは選ばれない。メダルを取るビジョンを持ってやらないとメンバーにも入れないし、いい結果に結びつかない」と、野口の決意は揺らがない。
セコムにはトップリーグから数えて3部に相当するリーグに所属する15人制のチームもあるが、そちらではプレーしない。会社の支援を受けながら、東京オリンピックまでは午前中は勤務し、午後はセブンズのためのトレーニングに専念する。

現在は男子のヘッドコーチも兼ねる岩渕氏は、野口についてこう期待する。「まず、オリンピックでメダルを取りたいという気持ちが誰よりも強いのがいい。10mぐらいの短い距離で爆発的に加速できるのが武器ですし、これからどんどん伸びていく選手だと思ってます」

来たる1月26日、27日には今シーズン3大会目となるニュージーランド・ハミルトンセブンズが開かれ、その後も6月上旬までワールドシリーズが続く。野口は残念ながら3月にある専修大学の卒業式には出席できない見込みだ。それでも野口は「卒業式に出られないのはしょうがない。代表に選ばれている方がうれしいです」と、意に介さない。専修の4年間を振り返って野口は「村田監督がいていまの僕がいます。言葉で伝えきれないくらい感謝してますので、オリンピックに出場して、プレーで恩返しがしたいです」と、熱く語った。

岩渕氏がヘッドコーチに就任してから、男子セブンズ日本代表が掲げるラグビーは「蜂」だ。群がるように全員で守って、素早く攻めるイメージである。一気のスピードと巧みなステップが持ち味の野口のプレースタイルは、これにぴったりだ。4月から完全にセブンズに専念する野口は日本代表の急先鋒となれるか。それが東京オリンピックのフィールド、そしてメダル獲得へとつながっていく。

卒業後はセコムに勤務しながら、セブンズに専念する

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