早稲田大・矢崎由高 U20飛び級のルーキー、けがで苦悩の1年を経て一気に開花
今季もいよいよ、大学日本一を決めるラグビー大学選手権が本格的に始まる。12月17日には東西で3回戦が2試合ずつ行われる。昨季準優勝で、最多16回の優勝を誇る早稲田大は、今季は関東対抗戦で3位となり、3回戦で法政大(関東リーグ戦1部3位)と対戦する。そんな早稲田大には今季、身長180cm体重85kgのスーパールーキー・矢崎由高(WTB/FB、桐蔭学園)が入部した。春から試合に出場し、秋の対抗戦でも6試合で4トライを挙げる期待通りの活躍を見せている。
敗戦にも存在感 MIPに選出
12月3日、約3万2000人を集めた100周年の早明戦でも、「11」番を背負って先発。トライを挙げたり、桐蔭学園の先輩であるキャプテンFB伊藤大祐(4年)のトライをオフロードパスでアシストしたりと存在感を見せて、最も印象深い選手(モストインプレッシブプレイヤー)にも選出された。
矢崎は、「幼少期からずっと見続けてきた試合だったので、出させてもらったことはすごくうれしいし、ありがたかった。明治さんの(ファンの)大きな応援もあり、最初から圧倒された。 早慶戦とはまた一味違った雰囲気の国立を感じました」と、初の早明戦を初々しく振り返った。
ただ試合に関しては、後半21分までに3-41と大差を付けられ、そこから自身のトライなどもあり38-46と一時は8点差まで迫ったが、結局、38-58で敗戦した。「後半、チーム全体として攻めようというマインドに変わったことが、いいリズムをつけられた要因かなと思います。ただ明治さんの大きいFWと速いバックスに翻弄(ほんろう)されて、やりたかったことが全然できなかった。前半からもっとしっかりやっていけばよかった」
課題に関して聞くと、WTB矢崎は「見てわかる通り、コリジョン(相手との衝突)の部分、接点の部分で圧倒された。現時点で(課題が)判明したことは、すごくポジティブに言えば、いいことだと思います。チームとしてそこをもっと底上げできたらいい。(個人としても)積極的にコリジョン、ボールキャリーはしていこうと考えていますが、無駄なコンタクトもあったので、映像を見返して、もっと余裕を持って、周りを見られるプレーをしていきたい」と冷静に分析した。
桐蔭学園高1年で花園制覇
プレーだけでなく1年生らしからぬ落ち着きも持つ矢崎は、大阪府出身で、4歳から高槻ラグビースクールで競技を始めて、中学校時代はサッカー部に所属しながら吹田ラグビースクールで楕円(だえん)球を追った。大阪府スクール選抜に選ばれたが、全国ジュニア大会では福岡に敗れて準優勝だった。
高校はさらなる成長を求めて、神奈川の桐蔭学園に進学。1年時からレギュラーポジションを得て、NO8佐藤健次(現早稲田大学3年)らとともに「花園」こと全国高校ラグビー大会連覇に大きく貢献し、同校の先輩である日本代表になぞらえて「松島幸太朗2世」とも呼ばれた。特に準決勝ではハットトリックを達成し、京都成章のPR森山飛翔(現帝京大学1年)とともに、1年生ながら大会の優秀選手に選ばれた。
高校2年時は花園の準決勝で敗退。高校3年時はFBではなくSOとしてプレーしたが、春先から肩やひざの負傷が続いたこともあり、予選決勝で東海大相模に敗れ、花園の地を踏むことができなかった。それでも、SOを経験したことで、パスの受け手側がどんな声を掛けてあげるとありがたいのか、どこにポジショニングするとうれしいのか、というSOの気持ちがわかった、と前向きに捉えていた。
高校日本代表・U20代表でも躍動
けがの影響で、高校3年の4月以降、花園の県予選決勝の1試合しか公式戦に出られない状態が続いたが、2023年になると一気に進化を加速させる。まず3月。コロナ禍が明けて4年ぶりに海外遠征を敢行した高校日本代表に選ばれ、中軸としてアイルランドU19代表を22-19で倒す快挙に貢献する。
4月に早稲田大に入部すると、5月に行われた春の「早明戦」でデビューを果たし、続く東洋大戦ではハットトリックを達成。さらに高校日本代表から唯一、飛び級としてU20日本代表に選ばれ、U20年代の世界大会である「U20チャンピオンシップ」にも出場。海外代表はプロ選手も多く出場する中、U20日本代表は勝利することはできなかったが、矢崎は全5試合にWTB・FBとして先発し、ゲインを繰り返して、海外サイトで「ベスト15」に選出されるなど大きなインパクトを残した。
矢崎は「(U20の世界大会は)プロ選手が多くて一気にレベルが上がったと思います。通用するところもあって、高いレベルのフィジカルやスピードを経験できたことが大きかった。まだ(将来ワールドカップに)出たいとかではない。ひとつひとつクリアして、階段を登っていきたいし、大学選手権では『荒ぶる』(大学選手権優勝時のみ歌う第二部歌)を歌えるように成長していきたい」と先を見据えていた。
春季大会、そして関東対抗戦では、高校時代に慣れ親しんだFBよりもWTBでの出場が多くなっている。矢崎は「チーム事情、今のBKのメンバーを考えた上で、僕が11にいることが一番メリットが大きいと太田尾(竜彦監督)さんが考えているので、僕はそこで全力を出すだけです。たくさんボールをもらって走るってことが求められているので、いいスピードでボールをもらえるように深いラインでボールを受けられるようにと意識しています」と話す。
憧れの先輩と最初で最後の1年
昨季は花園に出場できなかったため、矢崎にとって大学選手権は、2年ぶりとなる「負けたら終わり」のノックアウトトーナメントとなる。「久しぶりに負けたら終わりの大会が始まるので、怖さもありますが、楽しみです。(対戦相手には)知り合いも結構いると思いますが、どこも手ごわい相手だと思うので、勝利を一番に考えてやりたい」と気を引き締めていた。
また、矢崎は今年の大学選手権に特別な思いがある。桐蔭学園の3つ上の先輩であり、憧れの存在だったキャプテンFB伊藤と、大学で同じグラウンドに立つことができるのは、多くてあと4試合となった。
「この素晴らしい先輩、チームメート、コーチ陣、そして伊藤キャプテンと、もっと練習、試合がしたい。これからより一層、チームで引き締めて、負けたら終わりということを常に毎日、心に刻みながら練習したい」
矢崎は尊敬する先輩と1分、1秒でも長くプレーをするために、初の大学選手権では数多くボールに触ってトライシーンに絡み、アカクロの勝利に貢献する。