早稲田大学ルーキーの伊藤大祐、日本ラグビー逸材の夢は松島先輩とW杯へ
昨年度、11シーズンぶりに大学王者に輝いた早稲田大学ラグビー部。連覇を狙う今シーズン、34人の1年生が加入した中で、現在、唯一レギュラー組でプレーしているのがユーティリティーBKの伊藤大祐である。昨年度の「花園」こと全国高校大会で、桐蔭学園(神奈川)を主将&司令塔として引っ張り、初の単独優勝に導いた将来の日本ラグビー界を担う逸材のひとりだ。
岸岡や中野ら卒業生の穴埋められるか
今年1月、新しい国立競技場で宿敵・明治大学を下して大学王者に輝き、歓喜に沸いた。ただ昨年度の先発メンバーを見ると、特にBK陣はキャプテンのSH齋藤直人を筆頭に、CTB中野将伍(ともにサントリー)、SO岸岡智樹(クボタ)、WTB 桑山淳生(東芝)ら4年生が中心だった。そんな穴を埋める新戦力として大いに期待されているのがルーキーの伊藤である。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、早大は6月中旬から全体練習を始めた。1年生で唯一レギュラー組の白いジャージーを着た伊藤は、時折、CTB長田智希(3年、東海大仰星)にアドバイスを受けることはあったが、インサイドCTB中心に、SO、FBとして積極的にプレーしていた。体重は入学時より3~4kgほど増えて87kgほどになり、高校時代よりも明らかに一回り大きくなっていた。
ポジションにこだわりなし
高校3年生の時、10番としてプレーしていたため、もっとSOにこだわりがあるのかと思ったが、1年の時はアウトサイドCTB、2年の時はFBでプレーしていたこともあり、伊藤は「基本的には、このポジションしか嫌みたいな気持ちはありません」と話す。「基本的なスキルは一緒だし、(コーチ陣からは)幅広いプレーを身につけてほしいと言われています。まずは与えられたポジションで試合に出て、いいプレーをしてレベルアップしていきたい」
福岡県久留米市出身の伊藤は、大阪体育大学ラグビー部出身の父親の影響で6歳からラグビーを始めた。同時に柔道も習っていたが、小学4年生からラグビーに専念。桐蔭学園高3年生の時はチームを牽引し、見事に高校「3冠」(選抜大会、7人制、全国大会)を達成した。そして「展開力あるラグビーが合っている」と、今春、早稲田に進学した。
4月に緊急事態宣言が発出されると、3月に入寮したばかりの伊藤だったが、2カ月間ほど実家に戻った。大学の授業はすべてオンラインだったため、スポーツ科学部のある所沢キャンパスには一度も足を踏み入れていないという。ただ小学校時代に6年間習っていたというピアノを弾きつつも、「体が動かなくなってはいけない」と時間を見つけては体力作りだけは欠かさなかった。そのため、再合流後のフィットネステストは全体で3位の数字だったという。
ラグビーを新たな目で見られるように
寮に戻った後は、週4日の筋肉トレーニングを重ねて、練習後すぐに食事が取れることもあり「大学はフィジカルのレベルが一つ上がる。高校時代、ベンチプレスは100kg上がらなかったですが、今では110kgを3回は上がるようになりました」と笑顔を見せた。個人的にも柔軟性を高めたりバランスボールに乗ったりするなど、動きをよくするトレーニングも重ねている。
コロナ禍で「ラグビー人生で初めて」伊藤は半年間以上、実戦ができない状況が続いていたが、その逆境もプラスに捉えている。
「自分を見つめ直す期間となりました。(できていないスキルがあり)悔しい思いもありましたが、新たな目でラグビーを見られるようになりました。(OBでありリコーで活躍した)武川(正敏)コーチにもいろいろスキルを教えてもらって、自分が足りないところがわかりました。キャッチの仕方やパスのフォロースルー、ボールを持っていない時の動きなど、まだまだレベルアップできます」
そんな伊藤は、高校時代から毎日、「ラグビーノート」を書き続けている。高校時代は、家に帰ってから自分の頭の中で思い返さないといけなかったが、大学になるとすべての練習がビデオで振り返ることができるため、より細かく書けるようになった。「練習での状況を書いたり、整理したりして振り返っています。そして次の日、どういうテーマを持ってやるか毎日書いています」
加入した新人の中で、伊藤を筆頭に、HO川﨑太雅(東福岡)、FL/No8村田陣悟(京都成章)、CTB岡崎颯馬(長崎北陽台)がすでにAチームで練習しているが、先発メンバーの争いに食い込んでいるのは伊藤のみ。相良南海夫監督は「(伊藤には)SHとWTB以外はやらせています。(伊藤は)試合に出たい気持ちが強く、矢印を自分を高める方に向けている姿勢が素晴らしい。フィジカルも高いレベルにある」と高く評価した。
相良監督は「大学レベルでどこまでできるか、(伊藤には)いろんなポジションで試してみたい」と話すが、いずれにせよ、伊藤はインサイドCTBを中心に、SO、FBとゲームを組み立てるポジションでプレーするだろう。本人も「一緒にプレーする選手は先輩も多いですが、ポジション柄、周りを動かさないといけないので、ちょっと生意気目でもいいので指示して勝利に貢献したい」と語気を強めた。
コロナ禍で練習場のある上井草駅のある地区から出られない状況が続くが、グラウンドの隣が寮という環境で「よりラグビーに集中できている」という伊藤を支えるのは、大学4年生の時の2023年ワールドカップ(W杯)で「日本代表としてプレーする」という強い思いだ。
桐蔭の松島先輩と代表でプレーを
桐蔭学園の先輩である日本代表FB松島幸太朗(フランス・クレルモン)にも「フランスに行って成長しようとする姿に刺激を受けています。僕も上昇志向を持ち続けたい。(日本代表で)一緒にプレーしてみたいですね! 松島さんは、その次(2027年)のW杯は難しいかもしれないので」と胸を躍らせた。
ただ、当然、伊藤は自身がすぐに日本代表入りできるレベルにあるとは思っていない。「日本代表になるには、まだ3つ、4つレベルを上げないといけない。早く追いついて、追い越せるようにレベルを上げたい。ただ順序というのがあります。その一番の近道は、早稲田大でレギュラーとなって試合に出て優勝に貢献することです。10月上旬の(関東大学)対抗戦に向けてしっかり準備したい」と前を向いた。
昨年度、花園で躍動した伊藤は、ルーキーながら連覇を狙う臙脂(えんじ)のジャージーのキーマンとなる。