大学ラグビー

特集:第56回全国大学ラグビー選手権

「攻め続けよう」言い続けて11シーズンぶりの頂点に 早稲田・相良南海夫監督(上)

11シーズンぶりに早稲田を頂点へ導いた相良監督に、改めて話を聞いた(撮影・佐伯航平)

1月11日、新しい国立競技場でラグビーの大学選手権決勝があり、早稲田大が45-35で明治大を下して11シーズンぶりの優勝を飾った。早稲田を率いたのは就任2年目のOB、相良南海夫(なみお)監督(50)である。

昨シーズン、相良氏は創部100周年を迎えた早稲田大学ラグビー蹴球部の監督に就任し、関東大学対抗戦で優勝。大学選手権では5シーズンぶりに準決勝に進出した。今シーズンは対抗戦で明治に敗れたが、大学選手権では快進撃を続け、頂点へと導いた。2回の連載で相良監督の手腕に迫りたい。

選手たちとともに「荒ぶる」を歌う相良監督(撮影・谷本結利)

相良監督は決勝の試合前に話していた。「私にとって国立競技場は10回目です。自分がキャプテンのときには優勝できなかったので『荒ぶる』を歌いたいですね」。その通り、選手たちと肩を組み、輪になって歌い上げた。「最高でしたね。本当に、感無量。いいものだなと思いました」

決勝のテーマは「攻め続ける」

相楽監督は「本当に早稲田にとっては完璧だった。とくに前半は『こんな試合をもう1度やってくれ』と言ってもできない」と振り返る。「決勝戦のテーマはアタックもディフェンスも攻め続けることでした。私は監督に就任してからディフェンスにフォーカスしてきました。ただ、この(早稲田の)メンバーを見たときに、アタックし続けることが相手に脅威を与える最大の強みだと。自陣からでも空いてるスペースがあれば、思い切ってボールを運んでいいよという話はしていました」

昨年の12月1日、7-36と大敗した早明戦は相手FWの圧力の前に、自分たちの力を出せずに終わってしまった。その反省もあった。「自分たちの強みを出して、その時間帯を長くすれば、相手の強みが消える。準決勝の天理戦からは、自分たちの強みにフォーカスするというマインドで、選手たちがやってくれた」

大学選手権決勝、先手を取っていくことはマストだと思っていた(撮影・佐伯航平)

準決勝から大型CTB中野将伍(4年、東筑)が戻ってきたのも大きかった。決勝ではスクラムやラインアウトを起点に、サインプレーを中心に手数をかけないアタックで4トライを奪い、31-0で試合を折り返したことが、早くも大勢は決した。

「選手たちにはプレッシャーになるから言わなかったですが、先手を取っていくことはマストだなと思ってました」と相楽監督。2トライくらい先に取れば向こうに動揺があるのかな、と考えていた相良監督の予想と采配がずばり当たった。中でも「僕らにとって大きかった」と指摘するのは、前半34分のモールからのトライだ。「僕はショット(PG)でもいいと思いましたし、ラインアウトで相手のLO片倉君(康瑛、3年、明大中野)あたりにやられるのではと思いましたが、しっかりとトライを取り切れたのは、明治にとってはダメージになった」

「何とかこのままいってくれ」

ハーフタイム、「あまり攻め急いでほしくない」と内心では思いながら、相良監督は選手たちに「明治はこんなチームではないし、意地を出してくるから。泣いても笑っても40分、31点のことは忘れて攻めるマインドで。あと40分、戦い抜こう!」と声をかけた。

後半は明治の怒濤(どとう)の反撃に遭った。3連続でトライを許し、後半30分で28-38と10点差となったときは、さすがに「いやな感じがよぎった」と言う相楽監督。その直後にWTB桑山淳生(4年、鹿児島実)がトライを挙げたときは「なんとかこのままいってくれという思いだった」と、正直に話した。

キャプテンのSH斎藤は全てのキックを正確に決めた(撮影・谷本結利)

試合を振り返れば、両チームのキッカーがすべてのプレースキックを決めていたこともあり、前半9分のPGによる最初の3点が最後まで明治には重くのしかかった。「当然の選択でしたが、キャプテンのSH齋藤、SOの岸岡といったリーダー陣が迷わずショットを選択したことが、実は一番大きかったかも」と相楽監督。相手に3連続トライを許して7点差にされたのか、10点差にされたのかでは、追われているチームが受けるプレッシャーは大きく違ったはずだ。

勝てないだろうという試合に勝つ巡り合わせ

相良監督は選手たちには言わなかったが、コーチ陣や主務に対しては「引き分けで両チーム優勝の場合は『荒ぶる』はやめよう」と伝えていたという。

新しい国立競技場に、ほぼ満員の57000人の観客を集めた決勝。下馬評は対抗戦で全勝優勝したディフェンディングチャンピオンの明治の方が高かった。そのため、観衆も明治のファンの数の方が上回っていたように見えた。

真新しい国立競技場には、明治大のファンの方が多いように見えた(撮影・谷本結利)

改めて勝利できた要因を尋ねると、相良監督は「自分がすごく特別な努力をしたと胸を張って言えることは一つもないんですが……。高校の花園予選決勝や(監督だった)三菱重工相模原がトップリーグに上がったときなど、勝てないだろうという試合に勝つ場所にいるという巡り合わせが、不思議とあるなと思います。極論を言えば10回やって1回勝つというぐらいの試合ができた。それがある意味早稲田らしさだし、試合前から何か感じさせるものがありました」と、謙虚に話した。

大敗して、腹を割って言い合えるようになった

もちろん対抗戦で明治に大敗し、リベンジするために40日間、走り込みやフルコンタクトのタックルなど厳しい練習を通して選手たちは成長してきた。ただ、それも春からの1年間の積み重ねがあったからにほかならない。相良監督は「積み上げがあったということは絶対に間違いない。ただ、それが試合で通用しなかったというか、出せなかった」と感じていた。

明治に大敗したことで、選手同士が腹を割って話し合えるようになった。「岸岡に対して『(対抗戦の)早明戦で、いけるはずのタックルにいかなかったんじゃないか?』と言えるようになった。今まで1しか言えなかったのが、10言えたかどうかは分からないですが、5くらいは言えるようになったことがチームをよくした。チームを成長させんじゃないかな」

勝つために何をしないといけないか考え抜いた。その結果が優勝としてあらわれた(撮影・谷本結利)

また選手間だけでなくコーチ陣の間でも「本当に勝つために何をしないといけないか」を話し合えたという。相良監督は選手同士、コーチ同士の本気の話し合い、コミュニケーションを通じて、シーズンの一番大事な時期で一体感が深まったことが、チームを一段階上に押し上げたと感じている。それが優勝への大きな原動力になったというわけだ。