早稲田大・伊藤大祐主将 まだ経験していない大学日本一へ「一番、僕が変わった」姿を
昨季は関東大学ラグビー対抗戦3位から、大学選手権で決勝まで進んだ早稲田大学ラグビー蹴球部。2019年度以来17度目の日本一を目指すチームで、106代目のキャプテンに就任したのがSO(スタンドオフ)伊藤大祐(4年、桐蔭学園)だ。
4年生の投票と相良昌彦の推薦でキャプテンに
大学選手権の決勝で帝京大学に敗れた後、大田尾竜彦監督は新4年生に尋ねた。「帝京大や明治大が強い中、日本一を奪還し、『荒ぶる(※日本一になった時のみ歌うことが許される第二部歌)』を歌うためにはどんなチームになりたいか。そのチームを引っ張るキャプテンは誰がいいのか」
4年生の投票と、1学年上のキャプテンだったFL(フランカー)相良昌彦(現・東京サンゴリアス)の推薦もあり、最終的に就いたのが伊藤だった。「みんなが推薦してくれてうれしかったです。(早稲田大に入って)思い出を作るためにラグビーをしているわけではない。帝京、明治、慶應にしっかり勝てるようなチームにしたい」と意気込む。大田尾監督は伊藤主将について「去年を経て変わろうとしていますし、実際、変わってきています。背中で150人を引っ張ってほしい」と話した。
キャプテンに就任した伊藤は監督と相談しつつFL永嶋仁(4年、東福岡)、CTB(センター)岡﨑颯馬(4年、長崎北陽台)の2人を副将に指名した。「岡﨑は13番らしく、タフで誠実で、愚直にプレーしてくれますし、コミュニケーション能力が高い。永嶋は僕とは真逆のタイプというか、熱いです。FWにエナジーを与えてほしい。(自分を含め)3人ともタイプが違うのでバランスがいい」と同期2人に信頼を寄せている。
スローガン「WASEDA FIRST」に込めた思い
3月に監督からの発案もあり、4年生だけで合宿を行った。伊藤主将は今季のチームについて「早稲田らしいチームができる自信がある」と胸を張る。「(大学スポーツは)4年生のものだと思っています。頑張るぞという簡単なことではなく、本気でアカクロを着て日本一を取る思いが強いかが大事。4年生全員が目標と志を持って、それに見合った勝つための行動を1年間、やり続けて、1~3年にいい影響を与えたい」
伊藤主将を中心に4年生たちで考えた今季のスローガンが「WASEDA FIRST」だ。伊藤は「日本一奪還と、早稲田のために早稲田を一番に考えようという思いを込めました」。またスローガンにはもう一つ意味がある。「すべての最初のプレー、ファーストキックオフ、ファーストタックル、スクラムハーフとスタンドオフが最初にするパスなど、一つひとつのプレーの精度にもこだわり、先手を取っていきたい」
昨季の大学選手権決勝、早稲田大は前半途中までリードしたが、後半は帝京大に圧倒され、20-73で敗れた。伊藤は「局面、局面で早稲田もいいプレーはあったが、帝京大の方がフィジカル、体格差があってファーストタックルで止められなかったし、最初のプレーは帝京大の方が良かった。だからすべてにおいてファーストプレーにこだわりたい」。スローガンには雪辱を期す思いも込められている。
自身の行動も変わった。「自分の中で責任感が芽生えてきて、『やらなければいけない、みんなに見せないといけない』というのはすごく感じて実行しています。まだあまり言葉で伝える時期でもないので、一番早くグラウンドに来て最初に練習して、スキル練習も最後までやる。『一番、僕が変わった』というのを見せたい」
「春から負けていいという試合はない」
父親が大阪体育大学のラグビー部だった伊藤は、5歳の終わりから福岡・りんどうヤングラガーズで競技を始めた。柔道も同時にやっていたが小学5年からラグビーに専念。中学までは福岡で活躍し、高校からは神奈川県の強豪・桐蔭学園に進学した。高校3年時は主将としてチームを牽引(けんいん)し、選抜・7人制・花園の「高校3冠」を達成。「展開力のあるラグビーが自分に合っている」と早稲田大に進んだ。
ただ早稲田大に入ってからは度々ケガに泣かされ、思うように活躍できていない。昨季も夏の練習試合で左足を負傷して手術。対抗戦は出場できず、何とか復帰したのが大学選手権だった。「対抗戦には(過去3年間で)10試合も出ていない。昨季は試合勘、タックル、コンタクトも全然ダメだったので、今季はキャプテンとして春から体を当てて、グラウンドにずっと立ち続けたい」と前を向いた。
昨季の早稲田大は12月中旬、4年生同士で戦った早明戦の後からグッとまとまり、チーム力が向上した。それを踏まえて伊藤は「4年生早明戦後、試合には負けたが4年生の決意などがチームの雰囲気を良くした。監督と僕らも考えて、今季はあの雰囲気を最初からやるのがいいのでは、と。春から負けていいという試合はない。一昨年、昨年は(春季大会で)東海大に負けているので、本気で倒しにいきたい」と語気を強めた。
プレー面では昨季からどこを改善したいのか。伊藤は「フィジカルのベースを上げることと、帝京大戦ではディフェンスで自分たちの最大値を出せていなかったので、それを出せるようなこだわり、システムを心がけたい。アタックは、BKにはパスのうまい選手も多いし、FWにもスピードがあるので、ボールを振りながら(強いランナーで)縦に切ったりしてトライを取りきりたい」と話した。
フランス代表のSOロマン・ヌタマックを目標に
身長179cmの伊藤は12番、15番もプレーできるが、大田尾監督に「10番はお前がやるしかない」と言われ、今季は「10番に本腰を据える」覚悟だ。目標とする選手はフランス代表のSOロマン・ヌタマック。「キャプテンとして一番体を張ることは大前提で、10番をやっていく上で、スキルをもっと上げて、パス、ラン、キックでチームにいい変化を起こしていきたい。監督の期待も裏切りたくないし、恩返ししたい気持ちも強い」
82kgで大学に入り、現在は88kgまで体が大きくなったという伊藤。キャプテンになってからリーダーシップに関する本をよく読んでいる。ルーティンは朝、水風呂に入って、水出しコーヒーを飲んでストレッチしてから練習に臨むことだ。
大学卒業後はプロ選手になることを志望しており、国内のリーグワンだけでなく、海外でのプレーも視野に入れる。「日本代表になりたい気持ちもありますが、(プロ選手になって)結果で評価される場所に身を置き、自分のスタンダードを高めていきたい」
桐蔭学園の先輩でもある日本代表SH齋藤直人(東京サンゴリアス)らが優勝した姿を見て早稲田大に入部した伊藤は、準優勝、ベスト8、準優勝と過去3年間、大学では頂点に立てていない。
「コロナ禍の3年間とは違い、応援の力を借りたい。ファンにエネルギッシュに応援されている時の方が、伝統的に早稲田は強い」と感じている伊藤。「帝京大、明治大と僕らは今、差があると思っています。その差を埋めるために春から必死になって、毎試合出し切るしかない」と自身に言い聞かせるように言った。
アカクロの10番がキャプテンとして1年間、活躍した先にこそ、4年ぶりの日本一が待っている。