ラグビー

早稲田大SH宮尾昌典 チームから距離をとって開けた視界 1年前の自分にリベンジ

勝利の瞬間、リベンジを果たし歓喜の宮尾(すべて撮影・斉藤健仁)

第59回全国大学ラグビー選手権大会

12月25日@秩父宮ラグビー場(東京)
早稲田大学(関東対抗戦3位) 27-21 明治大学(関東対抗戦2位)

東京・秩父宮ラグビー場で12月25日、ラグビーの大学選手権準々決勝が行われた。初戦の3回戦で今季の台風の目・東洋大学(関東リーグ戦3位)に34-19で勝利した早稲田大学(関東対抗戦3位)は、ライバルの明治大学(対抗戦2位)と激突した。早稲田大は明治大に対して、昨季の大学選手権準々決勝、今季の春季大会、3週間前に21-35で敗れた「早明戦」と3連敗中だった。

明治大と再戦、前半は拮抗

早慶戦のけがから先発に復帰したキャプテンのFL(フランカー)相良昌彦(4年、早稲田実)は「2年連続で年内敗退はありえない。失うものはないので、最高の準備をして悔いのないようにすべてを出したい。アカクロジャージーを着てもう負けたくない」と、ライバルとの再戦に闘志を燃やしていた。

早稲田大学のFL相良昌彦新主将「泥臭く、もう一度日本一を」 親子で初の早大主将に

昨季から指揮を執る元日本代表の大田尾竜彦監督は、「ワンチーム、ワンビジョン」をテーマに掲げた。ゲームプランも「最初の50分しっかり我慢し、そこからギアを上げる。最後、絶対22mの中の勝負になってくるから、集中してやり切ろう」と部員150人で意思統一して選手たちをグラウンドに送りだした。

「実力は本物だった」という東洋大に勝利し、「チームが一つにまとまって、4年生を中心にチーム力が増してきた」(大田尾監督)という早稲田大。前半11分、ボールを動かしてWTB(ウィング)松下怜央(4年、関東学院六浦)が先制トライを挙げた。

後半17分、宮尾の素早いさばきから松下が逆転トライ

その後も、「刻めるときは刻んでいく」(相良主将)とリーダー陣で話していた通り、CTB(センター)吉村紘(4年、東福岡)がPGを決めて得点を重ねていく。しかし前半終了間際、相手に得意のモールからトライを許し、13-14で折り返した。

後半連続トライ、ライバルに逆転勝利

後半の序盤は、勢いが出てきた明治大に我慢の時間が続く。モールディフェンスやゴール前の守備で粘りを見せてゴールラインを割らせない。すると、大田尾監督のゲームプラン通り、後半10分を過ぎるとアカクロに流れが傾く。

後半最初からHO佐藤健次(2年、桐蔭学園)、8分からはPR井元正大(4年、早稲田実)の2人が出場していた。相手はメンバー交代をしていない中で、後半13分、14分とスクラムで相手の反則を誘い、敵陣に攻め込む。

そして17分、安定したスクラムから見事なサインプレーを見せた。NO8村田陣悟(3年、京都成章)が持ち出してラックを形成、SH宮尾昌典(2年、京都成章)がすぐに左にさばくと、そこにWTB松下が走り込んでおり、そのままトライを挙げて逆転に成功。

さらに直後の19分、自陣に攻め込まれていた早稲田大だったが、SH宮尾にビッグプレーが生まれた。相手SHがパスを出した瞬間に走り出し、見事にSOのパスをインターセプト。そのまま約80mを走りきってトライを挙げ、27-14とリードを広げた。

後半19分、宮尾がインターセプトから約80mを走り切ってトライ

「賭けでしたが、相手の形を見て『ここに放るな』と。70%くらいでいけるなと思っていきました!」(SH宮尾)

その後、相手に1トライを許すが、早稲田大はディフェンスで粘りを見せ、最後はFL相良主将が明治大の主将WTB石田吉平(4年、常翔学園)にジャッカルを決めて、27-21でノーサイドを迎えた。

去年の同じ舞台「僕のせいで負けた」

この試合で出色の出来を見せたのはSH宮尾だった。実は昨季の大学選手権、同じ準々決勝で対戦して15-20で敗戦した明治大との試合で、チャンスでノックオンのミスをしており、当時1年生だったものの、宮尾は責任を強く感じていた。

インターセプトからトライを挙げ、抱き上げられて歓喜の輪の中心に

だからこそ、同じタイミングで明治大にリベンジを達成し、宮尾は「アタックを継続してくる明治大に対してディフェンスでつながり続けることができた。(勝利できて)最高です! 去年は僕のせいで負けたといっても過言ではない。自分のせいで負けたと思っていたので、最終的に僕のスコアで締めくくれたのは良かった」と声を弾ませた。

花園準V、大学も1年から中軸

兵庫県ラグビースクールで3歳から競技を始めた宮尾は、京都成章でパスさばき、スピードを武器とするSHとして2年から中軸として活躍した世代トップの選手の一人だった。3年時は「花園」こと全国高校ラグビー大会準優勝にも貢献し、U17日本代表にも選出された。

京都成章高3年で、花園準優勝

バックス陣にスターがそろい、展開力が武器の早稲田大に憧れていたSH宮尾は、「早稲田大しか行きたくなかった」という。早稲田大からも誘われ、相思相愛でスポーツ推薦での合格を果たした。

昨季、大学に入ってすぐはけがの影響で試合に出られなかったが、夏には大田尾監督の信頼を得て、当時はNO8だった佐藤とともに、1年生ながらチームの中軸として、秋の対抗戦からは「9」番を背負って先発出場を続けた。

大学1年時からチームの中軸として活躍する宮尾。スピートとテンポ良い球さばきがウリ

少し迷走、リフレッシュして成長

2年生になった今季も春から先発を続けていたが、9月から10月にかけてけがをしているわけでもないのに、リザーブを含めた23人からその名はなくなり、メンバー外となった。「少し、調子落としちゃって……」と、全体練習後1人で黙々とパス練習している姿があった。

大田尾監督はその理由を「もともと宮尾は力がある選手っていうのは間違いないですが、そこは19歳、20歳です。どうしても目標を見失ったり、今の立ち位置に満足するわけじゃないんですけど、そういったもの(迷い)がプレーにあらわれていた。宮尾を外した後に『今、こういう状態だよね』という話をしました。よく復調してくれた」と目を細めた。

後半17分、松下へトライアシストとなるパスを送った宮尾

自分でも「行き詰まっていた、うまくいってなかった」と感じていた宮尾は、大田尾監督に「とにかくリフレッシュして、自分がどうすべきか。チームを勝たせるようにするためにどうすべきか。今の時期に考えておいたほうがいい」と言われたという。

2カ月弱ほどチームを外から見ることで、客観的に考える時間ができ、「プラスになりました。練習中のプレーが良くても悪くても、楽しもうという気持ちに変わりました」と宮尾は振り返った。

「すごくリフレッシュになり、頭がクリアになって楽しい。技術的なものはあまり変えてないが、前より周りを見てやっています。あと、なぜかわからないが、試合前に驚くほど緊張しなくなった。東洋大戦もこの試合も落ち着いていました。この期間に成長したのかな」

ノーサイド直前、相良主将がジャッカルしたボールを蹴り出させる宮尾

昨年、U20日本代表候補に選ばれた宮尾は、「将来は日本代表になってワールドカップに出てみたい。海外でもプレーしてみたい」と抱負を語っていた。低学年ながら先発を張ってきた緊張やプレッシャー、自負もあったはずだ。一方で、スピードや突破力など「個」にたけていた選手だけに、少し距離を取って「チームをどう勝たせるか」と引いて見ることも、若きスクラムハーフにとっては必要な時間だったのかもしれない。

年越しして迎える元チームメートたちとの対決

1月2日、東京・国立競技場での準決勝の相手は、SH宮尾の京都成章時代の同期や先輩、後輩が多数在籍している関西王者・京都産業大学となった。

一つ殻を破って成長の跡を見せた宮尾は、「東洋大戦、明治大戦を経てチームが一つになりつつある。『早明戦』でも国立(競技場)でプレーしましたが、大学選手権では初めての国立です。今のチームからもう一段上げて、準決勝に臨みたい」と意気込んだ。

準決勝でもアカクロの「9」番が決定的な仕事をして、早稲田大を決勝進出に導くことができるか。

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