早稲田大学のFL相良昌彦新主将「泥臭く、もう一度日本一を」 親子で初の早大主将に
ラグビーの大学選手権で16回の優勝を誇る早稲田大学ラグビー部。2019年度には11年ぶりに王者に立ったが、2020年度は準優勝、そして大田尾竜彦監督が就任した昨季は準々決勝で敗退し、正月を超えることができなかった。
大田尾監督が指揮して2年目となる今季、主将に就いたのがFL(フランカー)相良昌彦(4年、早稲田実業)だった。父であり前監督だった相良南海夫氏の下、1年生ながら豊富な運動量とボールキャリーで3季前の優勝にも貢献、3年時の昨季はリーダーグループである「委員」の一人を務めていたため、相良は「覚悟はしていた」と振り返る。親子で早稲田大の主将を務めるのは史上初めてのことだ。
「タフチョイス」一つのプレーにこだわる
昨年度の4年生と同期の投票により相良が推されて、大田尾監督らコーチ陣も承認して105代目のキャプテンに選出された。大田尾監督は「相良はリーダーシップに長(た)けていて、飾らない言葉で、選手にストレートに伝えられるので、それを1年間、貫いてほしい」と期待を寄せた。
昨季の早稲田大は関東大学ラグビー対抗戦で帝京大に敗れて2位、大学選手権ではライバルの明治大学に15-20の僅差(きんさ)で負けて準々決勝で敗退した。その反省を踏まえて、4年生とリーダー陣で話し合って決めたスローガンが「タフチョイス」だ。
「昨季、練習量は1~2年時の倍くらいとなり、強度は上がって、データは良くなりました。ただ一つ一つの練習を流していたり、ルーズボールや球際の反応が甘かったりした。練習から厳しくやろう、一つ一つのプレーにこだわろう、ということで『タフチョイス』を選びました」(相良)
実は3月19日のキックオフミーティングで大田尾監督は「(大学選手権で敗戦した明治大戦で)練習で100回やって100回できていたプレーで、本番でミスが起きた。もっと細部にこだわってほしい」ということで「1/1000へのこだわり」をテーマに話をしたという。
相良主将は「大田尾監督も同じようなことを考えていました。こぼれ球に対してしっかりセービングしたり誰かが抜けたらしっかりサポートしたりするなど、1000回、その機会があったら1000回ちゃんとやる。僕は子どもの頃から、父からずっと言われてきたことなので意識していましたが、練習中から厳しくやることで、プレーでチームを引っ張っていきたい」と意気込んだ。
気になったことを選手と「LINEで」
副将は相良主将自らがLO(ロック)鏡鈴之介(4年、早大学院)、SO(スタンドオフ)吉村紘(4年、東福岡)の2人を指名した。「鏡は高校で実績がなくても、大学に入ってから下のチームから上のチームにはい上がった。努力してAチームに入ったという象徴になれるし、ラインアウトでしっかりリーダーシップを取って助けてくれる。吉村は、グラウンドでのコミュニケーションが長(た)けているしチームの状況を冷静に話すことができる」(相良)
早稲田実業時代もキャプテンを務めていた相良だが、部員数は40人ほどから140人と増えたこともあり、「高校と大学では全然違います! 束ねるのが難しいですね……」と正直に吐露する。部員全員が寮生活という他の強豪大とは違って通いの選手も多く、下のチームの選手とは一緒に練習していない。相良主将は整理整頓、手指消毒といった規律面でお手本になるように行動しつつ「ゆっくり話したことのない選手もいるので、気になったことがあれば、LINEでコミュニケーションするなどしています」と工夫を重ねている。
相良主将は父の影響で、七国小学校2年から八王子ラグビースクールで、兄(隆太/三菱重工相模原ダイナボアーズ)とともに競技を始めた。たまたま小学校で「七国スピリッツ」というタグラグビーの強豪チームが活動していたため、小学校4年時からは誘われたこともあり、タグラグビーも平行してプレーし、週4日ほどは楕円(だえん)球に触れる生活をしていた。
なお七国スピリッツは小学生タグラグビー選手権で4度の優勝を誇るが、1つ後輩にあたる明治大学SO池戸将太郎(3年、東海大相模)とともにプレーしていた相良の代は3位だった。中学時代はラグビースクールで競技を続けつつ、陸上部に所属していたが、ほとんど幽霊部員だったという。
中学時代は目立たぬ存在
中学校2年頃は身長162cm、体重60kgのガリガリで「足も特別速くなく、パスもうまくない」WTBだったという相良は、東京都選抜に選ばれていたものの決して目立った選手ではなかった。高校は早稲田実業にスポーツ推薦で進学したが、2013年度に準優勝した早稲田大のCTB(センター)坪郷勇輝、 飯野恭史が早稲田実業出身で、1つ上で東京都の中学で一番の選手だった中西亮太朗が早稲田実業に進学したことが決め手となった。
「高校生からFWに転向することを決めていた」という相良は高校に入ると身長は170cmを超え、FLとして1年生からメンバー入りを果たす。そして高校3年時は見事に花園予選決勝で國學院久我山を下して79大会ぶりに花園に出場し、主将としてチームを引っ張り2回戦に進んだ。
そしてそのまま早稲田大に入学すると、高校の勢いのまま親子鷹で活躍し、1年時は大学選手権で優勝、2年時は準優勝を経験した。ただ昨季は「チームとしても個人としても結果が出なかった」と話すとおり、相良は夏の明治大との試合で右肩を脱臼し、さらに関東対抗戦の立教大学戦で、再び同じ箇所を痛めて2カ月間試合に出られず、悔しいシーズンとなった。
FWとBK、練習毎に意思疎通
2月中旬から新チームがスタートした早稲田大の春のテーマは「体を大きくすること」である。相良主将は「22-29でしたが内容が悪かった帝京大戦では脚の力を使う前に、局面、局面においてヒットで弾かれた。スクラムも体重差があると技術でどうこうならないので、体重と筋力を増やしてベースアップしています」と説明した。
ポジションや身長にもよるが、例えばFL、NO8(ナンバーエイト)のバックローの選手は体重95~100kgにすることが目標で、身長180cmの相良も98kgとなり中間目標を達成した。また午前、午後と1日2度練習をしてしまうと体重が減ってしまうため、午前中にウェートトレーニングとグラウンド練習を一気に行うなど工夫もしている。
また昨年より、選手主導のミーティングの回数を増やしているという。「アタックではFW、BK一体の攻撃を、ディフェンスでは昨季に続いて脚の力をつかって固い守備を見せたい」と話す相良主将はFWとBKの間での意思疎通を深めるために、毎日の練習後、BKのリーダー的な選手であるSO(スタンドオフ)伊藤大祐(3年、桐蔭学園)、CTB岡﨑颯馬(3年、長崎北陽台)と映像を見ながらコミュニケーションを取っている。
第二部歌「荒ぶる」あの優勝歌をもう一度
あらためて今季の目標を聞くと、相良主将は「優勝ですね!日本一を再び取りたい」と語気を強めた。「1年のときは何も考えずにプレーしていましたが、大学選手権の決勝戦は特別でした。実は(早稲田大が優勝時のみに歌うことができる第二部歌の)『荒ぶる』をあまり覚えていなくて、しっかり歌えなかった(苦笑)。優勝を自分の代でも味わいたいし、もう一度、歌いたい」(相良)
「春は勝敗にこだわり過ぎず内容を重視したいですが、明治大、帝京大戦はすごく意識します」という相良主将は、大学卒業後はリーグワンでプレーする予定だが、先のことは見ずに今季のことしか頭にないという。
頂点も悔しい思いも知るスキッパーは「今季、早稲田大としてはこぼれ球に対するセービングやサポートプレーなど泥臭いプレーは譲れないところです。また個人としてはプレーワークレートを高めて、ジャッカルを決めたり、大きくゲインを取ったりして僕がいいプレーをすることがチームにもいい影響を与える。今季は魅せたい」とまっすぐ前を向いた。