早稲田大学・佐藤健次 将来の日本代表めざしHO転向 まずは年末、明治にリベンジ
アカクロの2番が成長の跡を見せた。
12月12日、ラグビーの大学選手権が本格的に始まり、東西で3回戦4試合が行われた。東京・秩父宮ラグビー場では、優勝16回を誇る早稲田大学(関東対抗戦3位)が、今季29年ぶりに関東リーグ戦1部へ昇格した勢いのまま3位となり、大学選手権初出場を果たした東洋大学の挑戦を受けた。
後半3分、東洋大の強力なFWの前にモールからトライを許してしまい、7-19とリードを広げられた。しかし早稲田大は、けがの影響で後半最初からの出場となっていた「サトケン」ことHO(フッカー)佐藤健次(2年、桐蔭学園)らがチームに勢いをもたらした。佐藤は、昨季は1年生ながらNO8(ナンバーエイト)として大活躍し、今季から将来を見据えてHOに転向していた。
「来週を作るため」故障をおして出場
対抗戦では帝京大、明治大にスクラムでプレッシャーを受けていた早稲田大。大田尾竜彦監督は「スクラムは劣勢と思わなかったが、(ペナルティーを)とられたので佐藤を出すしかないなと思った」と、予定よりも早く投入した。
大学選手権はトーナメント制。当然、負ければ4年生は引退となる。初戦を前に選手全員が書いた「もっとこのチームでラグビーがしたい」「来週も吉村(紘、4年、東福岡)先輩にパスしたい」などの寄せ書きを見た佐藤は、「来週を作れるのは(レギュラーの)僕たちしかいない」と覚悟を決めた。足の調子が悪かったものの、試合前には大田尾監督に「後半一発目から行けます!」と伝えていた。
後半の逆転勝利に貢献
その思いが十二分に出ていた佐藤を中心としたFWが、後半、スクラム・ラインアウトを安定させたことが、早稲田大自慢のBK陣の3トライにつながり、34-19で逆転勝利できた要因の一つになった。「大きな相手に、早明戦で苦しんだマイボールラインアウトを立て直すことができたことは大きかった」(大田尾監督)
佐藤は「後半、スクラムでペナルティーを取ったり押せたりしたのは、僕が入ったからではなく(先発した)安恒(直人、2年、福岡)に『こういう組み方すれば』と感覚をつかませてもらったから。ラインアウトも相手に大きな選手やうまい選手がいたので、ずらせたのは良かった。彼の前半の頑張りが、後半、僕のプレーに生きた」と、前半出場した同期のHOに感謝した。
また、佐藤は試合中から「15人だけでなく150人いる!」とチームメートを鼓舞していたという。「FWのラインアウトだったら、副将のLO鏡(鈴之介、4年、早大学院)さんが、『ここが弱い』『ここが空いている』など本当にいろんな分析をしてくれた。(勝利は)僕たちだけでなく、いろんな部員が協力して力出し合っての結果です。いい形でワンチームになれている」と胸を張った。
中学までウィング、高校はNO8で花園連覇
徐々に2番が板についてきた佐藤は、5歳で群馬・高崎ラグビースクールで競技を始めた。中学時代は横浜ラグビースクールに在籍し、力強いランが武器のWTB(ウィング)として、神奈川県スクール選抜では全国大会で準優勝し、優秀選手にも輝いた。
高校は桐蔭学園に進学し、FWに転向。1年時からNO8としてレギュラーで活躍し、「花園」こと全国高校ラグビー大会で準優勝を経験。高校2、3年時は、大黒柱の一人として花園を連覇するなど、世代トップを走る選手の一人だ。
早稲田大に入学すると、1年生ながらNO8(ナンバーエイト)として定位置を確保。6トライを挙げるなど大活躍していたが、佐藤は高校時代から、スクラム・セットプレーの要・HOへの転向を勧められていた。身長177cmは、世界的に見ればバックロー(FL/NO8)としては小さい部類に入る。
「やっぱり僕の最終的な目標は、日本代表のキャップを取ることです。背丈もないので、フッカーが自分に合っているポジションなのかな。機動力はNO8のままで、セットプレーを安定させる器用なフッカーになって、日本代表という目標に近づきたい」
今季からHO お手本は堀江翔太
NO8からHOになって大成した選手として真っ先に思い浮かぶのは、日本代表としてワールドカップに3度出場した堀江翔太(埼玉ワイルドナイツ)だろう。「堀江選手はうまい選手で、しかも強さもある。目指すべき選手で、吸収する部分がとてもあるのでプレーもよく見ています」
実は、早稲田大入学時も、希望ポジションはHOとして提出していた。ただ、大田尾監督は「大学ラグビーに慣れさせるため」、大学1年時は慣れ親しんだNO8でプレーさせていた。しかし昨季の早稲田大は、対抗戦で王者・帝京大に敗れて2位。大学選手権でも準々決勝で明治大に負け、年越しすらできなかった。FW戦、フィジカルで、ライバルに後れをとっていたのは明白だった。
大田尾体制2年目を迎えた今季、2年生となった佐藤は改めて「2番で行かせてください」と直談判し、大田尾監督も承諾。桜のジャージーを目指すため、世界と戦うため、「HO佐藤」が誕生した。
元代表コーチの指導 リーグワンHOからも吸収
2月、新チームが始動すると、スクラム、スローイングの練習を本格的にはじめた。さらに佐藤は、ライバルに負けないためにフィジカルアップも図った。入学時90kg台だった体重を一時的に111kgまで増やした。現在は「一番動きやすい」という105kg前後で落ち着いている。
ランの数値は、NO8だった昨季よりも良くなっているが、佐藤のフッカーとしての課題は、やはりスクラム、そしてラインアウトのスローイングだ。ただ、昨季就任した元日本代表PR仲谷聖史・スクラムコーチが、春からフルタイムコーチとなった。「いい環境です」と話す通り、佐藤はみっちり指導を受けており、日々成長を感じている。
ラインアウトのスローイングは、最近FBからFLに転向した同期の西浦剛臣(2年、Hamilton Boy’s High School)に付き合ってもらい、オフや授業の合間に時間をみつけては、30分、1時間と練習を繰り返している。
また、早稲田大学が東京サントリーサンゴリアス、静岡ブルーレヴズなどに出稽古した際には、日本代表選手や経験あるHOに疑問をぶつけている。「リーグワンなど大学の上のカテゴリーの選手に聞ける機会があれば、どんどん聞いて、教えてもらったことを自分のものにしたいです」
「世界では19歳、20歳で活躍している選手もいるし、日本代表の正フッカーを目指している」という佐藤は、国際舞台での活躍を見据えて、貪欲(どんよく)に吸収を続けている。
部員150人の力で重戦車へリベンジ
今季の「台風の目」とも言える東洋大のチャレンジを見事にはねのけた早稲田大。12月25日は、「早明戦」で負けた明治大(関東対抗戦2位)と再び相まみえる。大学選手権の準々決勝で対戦するのは2季連続で、昨季は早稲田大が15-20で逆転負けを喫してシーズンを終えた。
明治大戦に向けて、まだ足のけがの影響で本調子ではない佐藤は「行けるか行けないか、なら、行くしかない! 去年は準々決勝で明治に負けて、人生で一番悔しくて、あの負けがずっと残っている。(明治戦は)昨季とポジションは違うけど、超えなければいけない壁です。そこを超えたら、早稲田大が強くなるチャンス、ターニングポイントになると思う」と意気込んだ。
早稲田大としては、2年連続の年内終戦を避け、2019年度以来の頂点を目指したい。昨季、そして対抗戦のリベンジを果たすことができるか。やはりHO佐藤を中心としたFWが、「重戦車」と呼ばれる明治大のFWにどこまで拮抗(きっこう)することができるかが、勝敗の大きな鍵を握っている。
だんだんとHOらしい体形となってきた佐藤は「チャレンジャーなので、一番良い形で、(部員)150人でいい準備をしたい」と語気を強めた。