明治大学の伊藤耕太郎 新司令塔は「田村優2世」の呼び声高いポテンシャル
いよいよ9月12日から関東大学ラグビー対抗戦が開幕する。対抗戦3連覇、そして2018年度以来の大学王者奪還を狙うのが明治大学だ。2020年度、大学選手権ベスト4止まりだったのはSO(スタンドオフ)山沢京平(現・埼玉パナソニック)がケガで離脱し、司令塔を固定できなかった影響もあったことは否めないだろう。今季、紫紺のジャージーの10番を争うのはフィジカルに長(た)けたSO/CTB(センター)齊藤誉哉(たかや、3年、桐生第一)、スキルフルなSO池戸将太郎(2年、東海大相模)、そしてSO伊藤耕太郎(2年、國學院栃木)の3人だ。
3連覇目指す関東対抗戦で初先発
その中で、青山学院大学との初戦で先発に起用されるのは伊藤だ。5月の春季大会で初の公式戦初出場を果たし、8月の夏合宿の早稲田大学、開幕直前の慶應義塾大学との一戦でも10番を背負って一歩リードした。まだ対抗戦に出場したことはない。日本代表SO田村優(横浜キヤノン)の母校である國學院栃木で活躍していたため、高校時代、「田村優2世」と呼ばれポテンシャルは高い。
慶大戦後、トライも決めた伊藤について神鳥裕之新監督は「今後どうなるかわからないが、(伊藤は)自分で仕掛けられる強みがあり、明治のアタックで機能している。細く見えるが強いタックルもできる」と高く評価し、伊藤も「神鳥監督からは他の2人にはないランスキルを持っている。期待していると言われています」と話した。
大学入学後、伊藤はSOではなく「カウンターが好きだったのでFB(フルバック)をやりたかった」と15番に挑戦した。ただ伊藤宏明コーチと相談し、シーズン後半には10番に戻った。「対抗戦では池戸が先にデビューして悔しかったですが、SOにはFBにはない面白さがあったのでプレーしていて楽しい!」(伊藤)
ルーキーイヤー、公式戦に出場することはかなわなかったが伊藤はAチームで練習する中で、あらためてフィジカルが足りないことを実感し、先輩たちが周りとしっかりコミュニケーションをとる姿に感銘を受けた。「昨季は、自分にないものを身につけようと頑張った1年でした」と振り返った。
「もともとタックルは嫌いではない」という身長176cmの伊藤は「まだまだです。もっと(トレーニングで)フィジカル負けしない体を作っていきたい」と謙遜するものの、1年間で体重は5kg増やして85kgとなった。一回り大きくなり、大学ラグビーの強度にも「慣れてきた」と感じている。
明大の部員は昨季後半、パフォーマンスが落ちてしまった反省も踏まえ、春から走りに走ってきた。1時間半の練習で10kmを走った日もあったという伊藤は「(10kmを超えたときには)ビックリしましたが、試合では後半、楽に感じるようになりました」。神鳥監督は「一番きつい残り20分で相手を上回れるタフさがある」と自信をのぞかせた。また夏合宿では、アタック、ディフェンスともに1対1にフォーカスして練習に取り組んだという。
出場すれば自身初めての対抗戦となる伊藤は「緊張すると思いますが、それを乗り越えて自分のベストパフォーマンスを出して、勝利、優勝に貢献したい。池戸に比べたら話す方ではないですが、他のバックス選手に助けてもらいながらリードしていければ」と意気込んでいる。
藤沢RSから國學院栃木高へ
そんな伊藤は両親に連れられて行った公園でたまたまラグビーをやっていたため、3歳で藤沢ラグビースクールに入った。現在、國學院栃木2年でSOとしてプレーする弟・龍之介も兄に続いた。小学校時代は1年間だけサッカーもやってみたが、「両立がハードすぎて」ラグビーに絞り、そこからは楕円(だえん)球一筋だ。
中学時代、最高成績は県内で3位だった。個人としては、高校でチームメートとなる立命館大2年のSH(スクラムハーフ)北村瞬太郎(國學院栃木)、オフの日が合えば遊びに行く仲だという東海大2年のSO武藤ゆらぎ(東海大大阪仰星)らとともに神奈川県スクール選抜に選出され、全国ジュニア大会にも出場。伊藤は大学生での2人との対戦を心待ちにしている。
そして、中学2年の2月、高校の関東新人大会がたまたま神奈川・保土ケ谷公園ラグビー場で開催されたため見に行くと、國學院栃木が桐蔭学園(神奈川)を24-19で下して優勝した。そこで伊藤は北村とともに親元を離れて國學院栃木に進学することを決めた。
國學院栃木では1年時からFBとして試合に出場し、2年時からはSOとしてチームの攻撃をコントロールした。高校時代、吉岡肇監督からは「プレーよりも人間性の部分で成長させてもらいました。言われて動くのではなく、自分で何が足らないかを考えて行動する自主性を学んだ」と振り返る。3年で臨んだ全国高校大会は2回戦で報徳学園(兵庫)に勝利し、3回戦で東福岡に12-17で負けたものの伊藤は躍動し「田村優2世」とも呼ばれた。
そう呼ばれたことに関して伊藤は「高校に入学してから少し意識するようになり、結構、プレッシャーはありましたが、今はそんなに意識せずにプレーできています。田村さんのキックやゲームメーク、冷静さはすごく見習っています」という。
明治といえば伊藤、SOといえば伊藤
結局、大学進学時も、HO(フッカー)武井日向(リコー東京)など國學院栃木の先輩が多かったこともあり、田村とも同じ明大に進んだ伊藤は「周りの選手はみんなレベル高いので いつ、メンバーから外れるかわからない。その中で練習できているのは、自分のメンタルも鍛えられますしプラスしかない」と話す。
高校時代から寮生活をしているため、大学での寮生活も問題ないという。リラックス方法は目の上にタオルを置いて音楽を聴くこと。伊藤は、将来、2022年1月から始まる新リーグ「リーグワン」でプレーできるような選手になること望み、「明治といったら、SOといったら伊藤と言われるような選手になりたい!」と先を見据えた。
初の対抗戦となる伊藤がSOの定位置を確保し、トライに絡むプレーで勝利に貢献し続けることができれば、きっと明大がタイトルに近づくはずだ。伊藤は「10番を背負い続けたい。毎週、勝負です!」と気負い立った。