バレー

特集:全日本バレー大学選手権2022

筑波大・佐藤淑乃 先輩と心強いライバルに支えられ、「人生初の日本一」狙うインカレ

代表ではスパイクを思い切り打てなくなるほど悩んだが、周囲に支えられた(撮影・田中夕子)

アンダーカテゴリーも含めて、筑波大学の佐藤淑乃(3年、敬愛学園)が日本代表のユニホームを着るのはこれが初めて。春から秋まで、約半年に及んだ日本代表での期間を「今までにない濃さだった」と振り返る。

「筑波に入って、先輩方や中西(康己)先生からいろいろなことを教えていただいてきて、それだけでも自分にはプラスしかなかったけれど、代表は年齢層ももっと広くて、いろんな経験をしてきた人が集まる場所。中学生や高校生の頃に憧れて見てきた人たちと一緒に練習したり、いろいろな話をできたりしたことだけでもすごく楽しくて、うれしかったです」

気持ちを切り替えるきっかけになった先輩の助言

そうそうたる顔ぶれの中で、最初は戸惑うことばかりだったと笑うが、チャンスはすぐに訪れた。5月開幕のネーションズリーグに向けたブラジルとの練習試合を終え、初戦となる韓国戦はスタメンで起用することが、眞鍋政義監督から告げられた。「え? 自分が?」思いもしない抜擢(ばってき)に誰よりも驚いたが、できることを尽くすしかない。

「どう見ても実力で自分が出られるわけじゃない。でも一生懸命、思い切り打つことはできるので、とにかくそこだけはまず頑張ろう、と思って臨みました」

初めての「世界」はそう甘くなかった。得意なコースに打ってもブロックが並び、抜けたところにはレシーブがいる。相手のディフェンスを意識しすぎるがあまりミスにもつながり、途中交代。以降は消極的なプレーが続いてしまい、本来の武器である思い切った攻撃が影を潜めた。一時は「スパイクを打つのも嫌だった」と思い悩む佐藤に、救いの声をかけたのが、筑波大OGでもある同じアウトサイドヒッターの井上愛里沙(サン・ラファエル=フランス)だった。

「最近、スパイクが思い切り打てないんです」

井上愛里沙からの助言に救われた(撮影・田中夕子)

何気なく伝えた佐藤に、井上は「一緒に映像を見よう」と提案した。日本代表合宿がスタートした当初と今、スパイクの映像を見比べて踏み切りの違いを指摘された。「淑乃は思い切り打つことが大事だから、怖がらずに思い切り打てばいいよ」と言われたことが、気持ちを切り替えるきっかけにつながった。

「いてくれるだけで大きかった」宮部

加えて、日本代表の主将を務める古賀紗理那(NEC)から受けた、サーブに対する助言も大きかった、と佐藤は言う。
「リリーフサーバーで出る機会が多い私と(宮部)愛芽世(東海大3年、金蘭会)はサーブの練習を重点的にしていたら、紗理那さんが『トスがあんまり前に出ていないから、打った球に勢いがないんじゃない? もっと前にトスをあげたらジャンプの勢いもつくよ』と言われて、その通りだな、と。キャプテンでエース、それだけでも大変なのに、常に私たちにも目を配ってくれて、うまくいかなくて泣いてしまった時も『攻めたミスならチームも勢いづくから、思い切って攻めてくれればいいから大丈夫だよ』と声をかけられて、すごく救われました」

不安になるたびに声をかけてくれる先輩たちの存在だけでなく、佐藤にとって「いてくれるだけで大きかった」というのが、同学年で東海大学の宮部だ。

高校時代は「自分とは全く世界が違うすごい人」という認識しかなかったが、大学のリーグ戦やサマーリーグの東日本選抜で同じチームメイトとして戦い、日本代表の世界選手権中も常に相部屋。2人でYouTubeを見たり、歌を歌ったりしてリラックスしながら、互いに励まし合ってきた。

「私はうまくいかないと落ち込むタイプなんですけど、愛芽世は『調子がいい時もあれば、悪い時もあるから大丈夫。明日頑張ろう』と切り替えがすごくうまい。同じポジションですけど、ライバルと思うことはなかったし、むしろ愛芽世が決まったら私もうれしいし、自分も頑張れる。そういう存在でした」

東海大・宮部愛芽世 代表で感じたもどかしさ、インカレは「強さ」をぶつける場に
東海大がめざす「四冠」をインカレで阻止したい(写真提供・関東大学バレーボール連盟)

戸惑いを救ってくれた4年生

とはいえ大学に戻れば筑波大と東海大。ともにチームのエースとして、日本一をかけて戦うライバルでもある。すでに全日本インカレでも優勝を経験し、今季も春季、秋季リーグ、東日本インカレを制した東海大は絶対に負けられない、負けたくない相手だ。

今季、佐藤は日本代表の合宿や国際大会で、春から長期間チームを離れていた。その間、どんな練習をして、どんな試合結果を残してきたのか。世界選手権を終えて帰国し、チームに合流した直後はコミュニケーションが詰め切れず、攻撃面でも日本代表のスタイルと筑波大で求められるスタイルが異なることもあり、戸惑うことも多かった。

そんな佐藤を救ってくれたのが4年生たちだった。戻ってきたばかりの自分が急に試合へ出たら、周りが嫌な思いをするのではないか。どこか遠慮していた佐藤がやりやすいように、チームへ溶け込みやすいようにと気遣ってくれた。

「今こういう練習をしているから一緒にやろう、と教えてくれたり、キャプテンの(倉田)朱里(4年、 駿台学園)さんがチームとして取り組んでいることを共有してくれたんです。加えてコーチは、私がいない間に毎週行ってきたミーティングの内容を紙に書いてまとめて渡してくれたんです。『これを読めば、チームがどういう状態で来たのかわかると思うよ』と言われて本当にありがたかったし、技術面の違いも中西先生が1個1個丁寧に教えて下さったので、やっとチームに溶け込むことができて、いい感じに戻ってきた、という実感があります」

チームに合流後は、4年生が溶け込みやすい雰囲気を作ってくれた(撮影・田中夕子)

日本代表で学んだ大事な要素

過去2年間の大会と異なり、今季の全日本インカレは周囲からも「日本代表の佐藤淑乃」として見られ、知らず知らずのうちに発生するプレッシャーもある。自身が離れている間にエースとして活躍してきた選手の心情を思えば、簡単に「自分が引っ張る」と言うことはできないとわかっているが、それでも期待に応えたい。チームのためにできることを尽くしたい、という思いは日に日に大きくなっている。

「入学してからずっと3位。決勝に立つことすらできていないので、今年こそは絶対に勝ちたいという思いが強いし、何より4年生に最後勝ってほしい、勝たせてあげたいという気持ちが強いです。今までは『負けるのが嫌』と思っていましたが、今は4年生のために戦いたいし、勝って送り出したい。どんなに劣勢でも『負けたら終わりだ』とマイナスに考えるのではなく、ここで自分が流れを引き寄せる。自分のサーブで点を取るんだ、という強い気持ちを持って最後まで戦いたいです」

オフェンス面やディフェンス面、目標を語りながら「やることがいっぱいある」と言うが、すべてのプレーでチームに貢献するのはもちろん、日本代表で戦う中で学んだ大事な要素も理解している。

「最後はやっぱり気持ちだと思うんです。相手より強く『勝ちたい、負けない』とどれだけ強い気持ちを持って戦うことができるか。今までバレーボールをしてきて、日本一になったことがないので、人生初の日本一をつかみとりたいです」

笑顔の裏に、誰より強い闘志を秘めて。3度目の全日本インカレ、狙うは日本一だけだ。

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