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特集:New Leaders2025

國學院大・宮坂厚希主将 高校のチームメートがバッテリーの青学を止め、最高の景色を

創部初の大学日本一を目指す國學院大の宮坂厚希主将(撮影・小川誠志)

2021年の春秋、2022年秋と令和に入って3度、東都1部リーグ戦を制している國學院大學。しかし、その後は栄冠をつかみきれず、青山学院大学に4連覇を許している。今季は高校時代も主将を務め、高3夏の甲子園で全国制覇を経験している外野手の宮坂厚希(4年、智弁和歌山)が主将に就任。「ストップ青学」に燃え、リーグ優勝と創部初の大学日本一を目指すチームの先頭に立つ。

意識しているのは「風通しのよいチーム」

和歌山県出身の宮坂は学童野球の太地(たいじ)シータスで主将、中学硬式野球の和歌山南紀ボーイズでは副主将、智弁和歌山高では主将と、常にチームを引っ張る立場になってきた。國學院大へ進学後も、下級生の頃から最終学年時には主将をやりたいという思いを持っていた。

「昨秋のリーグ戦後、指導者の方々から新主将に指名され『やってやるぞ』と強い気持ちになりました。勝負の世界なので、厳しさもあるというのは覚悟の上です。厳しい勝負の世界で勝つからこそ喜びがある。プレッシャーよりも楽しみの方が大きいです」と言葉に力を込める。

主将として意識しているのは「風通しのよいチーム」。「下級生がプレーしやすい環境作り、発言しやすい雰囲気作りが大切だと思うので、4年生の方から積極的に下級生とコミュニケーションを取るように呼びかけています」と思い描くチーム像は明確だ。

最上級生から積極的にコミュニケーションをとることを心がける(提供・國學院大學硬式野球部)

智弁和歌山時代は2年の冬から主将に

高3の夏、宮坂は智弁和歌山の主将として全国の頂点に立った。前年秋のチーム始動時は他の選手が主将を務めていたが、小園健太(現・横浜DeNAベイスターズ)、松川虎生(現・千葉ロッテマリーンズ)のバッテリーを擁する市和歌山に、新人戦準決勝、県大会準決勝、近畿大会準々決勝と3連敗。翌春の選抜高校野球大会出場を逃してしまった。「チームを変えなければいけない。自分がチームを引っ張りたい」という強い思いから、主将に立候補。冬からチームの先頭に立つことになった。春の県大会決勝で市和歌山にリベンジを果たし、夏の和歌山大会決勝でも倒して甲子園出場を決めた。

甲子園は2回戦からの登場となったが、初戦の対戦相手だった宮崎商業に新型コロナウイルス陽性者が出た影響で、智弁和歌山の不戦勝に。悪天候による再三の順延もあって、初戦となった3回戦の香川・高松商業戦が行われたのは例年なら大会最終盤か、もしくは閉幕している8月24日だった。そこから決勝の8月29日まで4試合を戦い抜き、全国制覇を達成。宮坂は1番・中堅手として20打数10安打の活躍だった。

2021年夏の甲子園で全国制覇を果たした(撮影・白井伸洋)

鳥山泰孝監督「人を引きつける力を持っている」

夏の甲子園優勝チームの主将として注目を浴び、大学でも1年春からリーグ戦のグラウンドに立った。しかし2年春、アクシデントが宮坂を襲った。紅白戦で盗塁を試みた際、二塁ベースで野手と交錯。右ひざの半月板を損傷し、手術を受けた。

「完全に野球ができるまで9カ月ぐらいかかりました。9カ月も野球ができないなんて初めてでしたから、つらかったです。それでも、今できることを全力でやろうと思って、リハビリや座ったままでできるトレーニングなどに取り組みました」

苦しい時期を乗り越えて、3年春に戦列へ復帰した。その年の秋が飛躍のシーズンになった。開幕戦でスタメン出場を果たし、終盤戦には1番・ライトに定着。出場12試合で規定打席には届かなかったものの、打率3割1分3厘、6打点の好成績で終盤の6連勝に貢献した。第4週の中央大学との2回戦では1点を追う九回2死一、二塁から、右中間に逆転の2点二塁打を放った。

チームを率いる鳥山泰孝監督は「宮坂はものすごく人を引きつける力を持っています。ひざを大けがして、それを乗り越えて今日を迎えています。苦しい時間だったと思うけれど、身も心も強くなっている。これから先、十分やってくれると思います」と大きな期待をかけている。

9カ月の間、野球ができなくても腐ることはなかった(提供・國學院大學硬式野球部)

チームスローガン「ROOT」に込めた意味

主将に就任後は4年生を中心に、今年のチームスローガンを「ROOT~一つのチームとして、家族として頂点へ」に決めた。「ROOT」というのは「上昇する(RISING)」「一つのチーム(ONE TEAM)」「家族(ONE FAMILY)」「頂点へ(TO THE TOP)」の頭文字を取ったものだ。

「『家族として』というのは、厳しさも持ちながら愛情もあるチームにしていこう、という意味。一番上を目指して、そこへ上昇していこう、という思いが込められています」と宮坂は説明する。

坂口翔颯(現・横浜DeNAベイスターズ)や柳舘憲吾(現・日本新薬)ら投打の中心選手は卒業したが、3年間で心身を鍛え上げた4年生が活躍し、勝利に貢献するのが、國學院大學が掲げる「4年生野球」だ。

投手陣は飯田真渚斗(4年、明秀日立)、當山渚(4年、沖縄尚学)の4年生左腕2人が引っ張る。昨春は飯田が、昨秋は當山が最優秀防御率を獲得。ともに飛躍の1年を過ごした。

野手陣は昨秋スタメンの大半が卒業し、大きく顔ぶれが変わる。スピードと長打力を併せ持つ落合俊介(4年、八王子)、広角に大きい打球を放つ石野蓮授(2年、報徳学園)、勝負強さが魅力の立花祥希(4年、横浜)、成長著しい左打ちの強打者・渡辺嶺(4年、國學院久我山)らが打線の中心になる。宮坂は「出塁して足を使ってチャンスメイクして、クリーンアップにつなぎたい」と自身の役割を語る。

上位打線の一員としてもチームを牽引する(撮影・小川誠志)

優勝を目指すにあたって絶対に負けられない相手の青山学院大には高校時代、一緒に全国制覇を達成した中西聖輝(4年)と渡部海(3年)のバッテリーがいる。

「中西、渡部のことは意識しないようにと思っていても、やっぱり意識してしまいますね。でも、東都は他のチームも強いので、すべてのチームに対してしっかり準備をして臨みたいです。一人ひとりが役割を果たして、全員で相手に向かっていく國學院の野球を見てほしい」と気合十分だ。

高3の夏、全国の頂点から見た最高の景色を大学でも再び見たい。チームの先頭に立ち、リーグ優勝と大学日本一をつかみにいく。

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