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特集:あの夏があったから2024~甲子園の記憶

國學院大・緒方漣「もしかして夢じゃ……」サヨナラ弾の後、おでこをデコピンして実感

横浜高校で1年春からレギュラーになり、國學院大でも1年目から出場機会を得ている緒方漣(撮影・井上翔太)

國學院大學の緒方漣(1年、横浜)は高校1年の春に名門校でショートのレギュラーの座をつかんだ。同年夏の甲子園、広島新庄との1回戦では九回裏に逆転サヨナラ3ランを放った。翌年の夏も2年連続で甲子園に出場。主将としてチームを引っ張った最後の夏は、神奈川大会決勝で涙をのんだ。甲子園の歴史に名を刻んだ1年夏の逆転弾、そして悔しい結果に終わった3年夏について語ってもらった。

【特集】あの夏があったから2024~甲子園の記憶

「雑念が全くなく、純粋な気持ちで」打席へ

「もしかして夢なんじゃないだろうか?」

整列し、試合終了のあいさつを終えた後、緒方は自分のおでこにデコピンをしてみた。痛かった。憧れの甲子園球場でレフトスタンドに打ち込んだ逆転サヨナラホームランは、まぎれもなく現実だった。

広島新庄との1回戦、2点を追う九回裏2死一、三塁。「雑念が全くなく、純粋な気持ちで打席に入れました」と緒方は振り返る。トップアスリートがよく口にする「ゾーン」に入っていたのだろう。1ボールからの2球目、真ん中あたりの甘いコースにきた129キロを振り抜いた。

「打った瞬間『いったな』と思いました。一塁を蹴ったところまでは覚えているんですけど、『うわぁ、サヨナラか』みたいに思って、そこからはもう記憶がないです」。ダイヤモンドを1周し、チームメートに笑顔で迎えられた。1年生によるサヨナラ本塁打は、大会史上初の快挙だった。

1年夏の甲子園でサヨナラホームランを放った(撮影・朝日新聞社)

「勝って当たり前」の重圧を感じた2年目

智弁学園(奈良)との2回戦でも緒方は2安打を放ったが、チームは0-5で敗れた。その秋のドラフトで阪神タイガースに進んだ前川右京らを擁し、最終的に準優勝だった智弁学園には、投打に力の差を見せつけられ、完敗だったと悔しがる。

「圧倒的なフィジカルの差を見せつけられました。そこからは自分たちも食事の量を増やすなどして、体をまず変えていくことを目指しました」

横浜は翌年の神奈川大会も制し、2年連続で夏の甲子園出場を決めた。1年生のときは怖いものなしで思い切ってプレーできていたが、2年生になると、周囲から大きな期待を感じるようになり、それがプレッシャーにもなっていたという。

「横浜高校は勝って当たり前、みたいな重圧をだんだん感じるようになって。その中での甲子園だったので、喜びとホッとした気持ちとの両方がありました」

2年になると、1年の頃とは対照的に重圧を感じるようになった(撮影・柴田悠貴)

2回戦で敗れた前年以上を目指して、甲子園に乗り込んだ。初戦は三重に4-2で快勝。横浜にとっては春夏を通じて甲子園通算60勝目となった。しかし、2回戦で聖光学院(福島)に2-3と競り負け、前年と同じ2回戦敗退に終わってしまった。

慶應に敗れた後、1週間は家から出られなかった

新チームで緒方は主将に就任し、3年連続となる夏の甲子園を目指した。順調に神奈川大会を勝ち進んだが、横浜スタジアムでの決勝、立ちはだかったのは、慶應だった。

5-3と2点リードで迎えた九回表、優勝まであとアウト三つ。無死一塁から慶應・丸田湊斗(現・慶應義塾大学1年)が放った打球はセカンドの前に転がった。捕球したセカンドからショートの緒方にボールが送られ、緒方は二塁ベースを踏んで一塁へ送球。4-6-3のダブルプレーが決まったように見えた。しかし、二塁塁審は両手を広げた。緒方が二塁ベースを踏んでいないと判定されたのだ。さらに一塁もセーフとなり、無死一、二塁。球場のボルテージはさらに上がり、試合の流れは慶應に大きく傾いた。

「ダッシュKEIO」が鳴り響く中、続く渡邉千之亮(現・慶應義塾大1年)の打球は緒方の頭上を大きく越え、レフトスタンドへ吸い込まれてゆく。逆転スリーランだ。

「もう止められなかったです、慶應の勢いがすごくて……。前年の秋にも慶応とは県の決勝で対戦していたんですけど、そのときは両校とも吹奏楽部が入っていなかったので、そんなにすごい応援という感じではなかった。このときの慶應の応援はすごかったです」

最後の夏は主将として臨み、神奈川大会を戦い抜いた(撮影・堅島敢太郎)

つかみかけていた甲子園は、目の前でするりと逃げていった。緒方は翌日から1週間ほど、外に出られなかったという。慶應が勝ち上がり、全国制覇を果たした甲子園も見ていない。最後の悔しい経験は、教訓として今も強く意識している。

「やっぱり100人が見て100人がアウトと思うようなプレーをしなければいけないと思うんです。普段通りのプレーをしたつもりでも、どこかで流してしまっていたのかもしれない。そこは自分のプレーを見直していかなければいけないと思いました。甲子園への道のりは本当に険しい、甘くない、簡単に行けるところではないということを痛感させられました」

まずは大学日本一、その先に夢見るプロ入り

高校日本代表に選ばれた緒方は9月、第31回U-18ワールドカップに出場した。3番セカンドとして優勝に貢献するだけでなく、大会MVP、首位打者、最多得点、ベストナインの4タイトルを獲得した。

高校からのプロ入りも考えたが、「大学4年間でもっと力をつけたい」と大学に進学する道を選んだ。「自分の長所を磨いて欠点を克服できる大学」と、数多くの好選手をNPBへ輩出し、特に内野手の育成に定評がある國學院大に進むことを決めた。

國學院大で力をつけ、大学日本一をめざす(撮影・小川誠志)

東都1部リーグでも1年春の開幕戦からスタメン出場を果たした。レギュラー奪取には至らなかったが、第3週、亜細亜大学との3回戦では大学初本塁打も放った。「國學院大學はまだ日本一になったことがないので、まずはチームの目標である大学日本一を実現させたい」と目標を語る。プロ入りという大きな夢は、その延長線上にある。

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