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特集:2023年 大学球界のドラフト候補たち

國學院大・武内夏暉 努力を積み重ね、身につけた「意識しなくても見づらいフォーム」

秋のドラフト1位候補として注目を浴びる國學院大の左腕・武内(撮影・井上翔太)

ドラフト1位候補として注目を浴びる國學院大學の左腕投手・武内夏暉(4年、八幡南)。高校時代は全国的に知られた存在ではなかったが、大学4年間で大きく成長した。今夏には「侍ジャパン」大学日本代表に選ばれ、日米大学野球選手権大会の優勝に貢献。もう一段階スケールアップに成功し、10月26日のプロ野球ドラフト会議で指名を待つ。

【特集】2023年 大学球界のドラフト候補たち

細野晴希にライバル意識「コントロールは負けていない」

武内は「自分の一番の長所は、真っすぐも変化球も自由自在に操れるコントロールだと思います」と自己分析する。身長185cm、体重90kg。足が長く投手らしい体格から最速153キロの速球やツーシーム、チェンジアップなどの変化球をコントロールよく投げ込み、打者を打ち取る。

今年のドラフト候補には自身と同じ大学4年生の左腕投手が顔を並べているが、中でも武内が強く意識しているのは同じ東都リーグに加盟している東洋大学の細野晴希(4年、東亜学園)だ。細野とは今夏、大学日本代表のチームメートとして日米大学野球選手権大会に出場した。「細野は筋力がある上に柔軟性も高くて、体のバランスがすごい。でも、自分もコントロールでは負けていないと思っています。投げ合うときには負けたくないですね」と武内はライバル意識を燃やす。

東洋大学・細野晴希 佐々木朗希世代の最速155キロ左腕、大学ラストイヤーへの決意
同じ左腕でドラフト上位候補の細野に対抗心を燃やす(撮影・井上翔太)

國學院大の練習会に参加し「これはまずい」と危機感

武内が本格的に投手として投げ始めたのは高校2年の春からだ。中学時代は左ひじの痛みに悩まされていたことから、一塁手としてプレーしていた。福岡・八幡南高でも1年のときは一塁手。左ひじの痛みがなくなってから投手としてマウンドに立つようになった。高校時代は福岡県大会の4回戦が最高成績で、全国的に知られた存在ではなかった。だが、スカウトや野球関係者の間では好左腕がいると評判になり、國學院大から誘いの声をかけられた。

「高2からピッチャーを始めて、自分でも成長を実感して楽しくなってきて、大学でも野球を続けたいと思っていたんです。國學院の練習会に参加したら、周りはレベルの高い選手ばかりで、『これはまずい』と危機感を持って秋冬の練習に取り組みました。あの頃の練習で成長した部分はあったと思います」

最後の夏を終えてからは公式戦もないため、練習に対して気持ちが緩んでしまう選手もいる。だが、武内は大学野球に向け、高いモチベーションを持って真剣に練習に取り組んだ。大学進学後も指導者陣から与えられたトレーニングメニューに取り組み、体作りに力を入れた。

高校最後の夏を終えてからもモチベーション高く練習に取り組み、國學院大の門をたたいた(撮影・小川誠志)

神宮大会の快投で、一躍その名が知られるように

大学2年の秋が飛躍のシーズンとなった。直前の夏、武内はテイクバックを小さくし、打者からボールの出どころが見えにくい投球フォームの習得に取り組んでいた。

「オープン戦ではフォームを意識しすぎて思うような結果が出なくて、秋のリーグ戦直前に一度、フォームを意識せずに投げてみたんです。そうしたら、結果が出るようになりました。意識をしなくても、打者から見えづらいフォームが身についていたようです」

2年秋にリーグ戦デビューを果たすと、リリーフで初勝利を挙げるなどリーグ優勝に貢献した。1年のときに最速140キロだった球速は、2年秋には最速146キロまでアップ。その年の明治神宮大会2回戦では九州産業大学を相手に八回2死までパーフェクトピッチングを披露し、最終的に3安打の無四球完封勝利。この快投で「國學院大學・武内」の名前は全国のアマチュア野球ファンの間で知られるようになった。3年春からは先発に定着。同年秋は4勝0敗(うち2完封)、防御率0.68(リーグ3位)の成績でリーグ優勝に貢献し、最高殊勲選手を獲得した。

2年の秋から飛躍的に成長し、リーグを代表する左腕に(撮影・井上翔太)

体全体で投げることを意識し、スケールアップ

今夏には「侍ジャパン」大学日本代表の一員として、アメリカで開催された日米大学野球選手権大会に出場。国際大会で使用されるボールは国内で使用されるボールに比べて滑りやすいと言われる。「大会前は自分も滑る感覚があったんですが、指先ではなく身体全体で投げることを意識したんです。それによって真っすぐの球威が増してきました」。武内は中継ぎで3試合に登板し、優勝に貢献した。

帰国後、8月25日に行われた福岡ソフトバンクホークス3軍とのオープン戦では、3回1安打無失点、7奪三振とプロ相手にも失点を許さず、自己最速の152キロをマークした。8月28日に行われた高校日本代表との壮行試合では、自己最速をさらに更新する153キロをマーク。国際試合での経験を踏まえ、さらなるスケールアップに成功した。

今秋のリーグ戦で國學院大は第1週で日本大学に連敗し、勝ち点を逃した。青山学院大学と対戦する第2週は、絶対に負けられない戦いとなった。武内は1回戦に先発、2回戦には抑えで登板。1勝1敗で迎えた3回戦は、先発投手が1点を失った二回途中からマウンドに上がり、6回3分の1のロングリリーフ。3安打無失点の好投で逆転勝利を呼び込み、チームに今季初の勝ち点をもたらした。

3回戦に勝利した後、「真っすぐも変化球もよくて、コントロールミスも少なかった。この3回戦に向けて準備してきたので、自信を持って投げることができました」と笑顔で自身のピッチングを振り返った。

鳥山泰孝監督は「4年間で体もできて、野球勘も備わってきた。球速もアップし、変化球の球種も増やし、バランスよく成長してくれた」と武内の成長を喜ぶ。

大学でバランス良く成長した武内。ドラフト会議での吉報を待つ(撮影・小川誠志)

ドラフトに向け武内は「1位指名でプロに行きたい気持ちはあります。でも、入ってからが勝負だと思うので、順位には一喜一憂せず、プロでの活躍を目指して努力を続けていきたいです」と話す。コツコツと努力を重ね、大学球界を代表する左腕へと成長してきた。プロでも努力を積み重ね、今度は日本を代表する左腕を目指す。

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