野球

特集:2023年 大学球界のドラフト候補たち

中央大学・西舘勇陽 「太陽のように周りへ勇気を」名前の由来通りの投球、これからも

秋のドラフト会議で指名が注目される中央大の西舘(撮影・佐伯航平)

今秋ドラフトの上位候補として注目を浴びる中央大学の西舘勇陽(ゆうひ、4年、花巻東)。150キロを超える質の高い速球にカットボール、スプリット、スライダー、カーブといった多彩な球種を織り交ぜ、三振を奪う。東都1部リーグで通算43試合に登板し9勝8敗、170回を投げ、登板回数を上回る176三振を奪ってきた。4年間で順調にステップを踏み、大学球界を代表する右腕に成長した。

クイックモーションから最速155キロ

3年生だった昨春、西舘はリーグ戦9試合、プレーオフ順位決定戦4試合にリリーフで登板。2部1位・東洋大学との入れ替え戦では1、3回戦に先発し、3回戦では1失点、11奪三振の完投勝利。獅子奮迅の活躍で、チームを2部降格の危機から救った。秋は9試合に先発して5勝を挙げ、チームを2位に引き上げた。

走者がいなくてもクイックモーションで投げるのが西舘の特徴だ。一般的にクイックで投げた場合は、そうでないときより球速が落ちるものだが、西舘は昨春、このフォームで最速155キロをたたき出した。西舘は自身の投球フォームについてこう説明する。

「2年秋までは左足を上げて投げていたのですが、それが自分の感覚の中でうまくいっていなかったんです。クイックでシンプルに捕手の方向へ押すだけにして、その中で出力を上げられるように取り組みました。これによってコントロールも安定したと思います」

3年からクイックで投げるようになり結果が伴うようになった(撮影・佐伯航平)

花巻東時代に起こした「行方不明事件」

野球をやっていた2人の兄を追いかけて岩手・一戸南小学校3年のとき、学童野球チーム・一戸スポーツ少年団に入部した。一戸中学校では軟式野球部に所属し、全国大会も経験。岩手県選抜にも選ばれ、菊池雄星(トロント・ブルージェイズ)や大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)に憧れて花巻東高校に進学した。

「高1の春、最速127キロだったのが、1年の秋には140キロを計測したんです。半年で13キロ速くなりました。周りの人と同じ練習をしていただけなので、自分ではなぜこんなに上がったか分からなかったです」と西舘は高校1年目の成長を振り返る。体の成長、筋力アップに伴い、半年間で一気に素質が開花したのだろう。

1年夏からベンチ入りし、2年の春夏、3年夏と3度の甲子園を経験した。最後の甲子園では最速149キロをマークして速球派右腕として注目を浴びたが「自分はまだプロへ行けるレベルではない」と判断し、レベルの高い大学で鍛えて4年後のプロ入りを目指そうと、東都リーグの名門・中央大学に進んだ。

花巻東時代、甲子園で力投する西舘(撮影・朝日新聞社)

大学進学後は、春のオープン戦で150キロをマーク。早い段階から大学で勝負できる手応えをつかんでいたが、1年春のリーグ戦は新型コロナウイルスの影響で中止となった。1年秋にリーグ戦デビューを果たすと、2年春にリーグ戦で150キロ、秋には151キロをマークするなど順調にステップアップし、3年で大きな飛躍を遂げた。

マウンドでは闘志を前面に出し相手打者に向かっていくが、日常生活ではマイペースな一面も見せるという。高校時代には「行方不明事件」を起こしてしまった。腰の治療のため電車で治療院へ向かう際、電車でうっかり寝過ごしてしまい、乗り継ぎに迷ってベンチに座ったまま疲れてウトウト。心配したトレーナーから携帯電話に着信があったことにも気付かなかったため、「西舘が行方不明だ」と野球部で騒ぎになってしまったという。「こういうところから、マイペースって言われるんですよね……(苦笑)」と西舘は頭をかく。

WBCは「野球ファンの一人として応援」

この春のWBCで活躍した163キロ右腕・佐々木朗希(千葉ロッテマリーンズ)は同じ岩手県出身、同学年だが、ライバル意識はないという。

「佐々木朗希は、ちょっと次元が違うので……。自分は160キロとか、そんなに球速が出ると思っていませんし……。WBCは大谷さんや牧秀悟さん(横浜DeNAベイスターズ=中央大の3学年先輩)も活躍されていたので、野球ファンの一人として応援していました。プロで自分と同学年の投手が活躍していて、すごいなぁと思って見ています。でも、自分は他者と比べるのではなく、自分のピッチングをしっかりやっていきたいです」

花巻東の4学年後輩にあたる左打ちのホームランバッター・佐々木麟太郎もこの秋のドラフト候補として注目を集めている。「僕が高校生だったころ、練習見学に来ていた麟太郎君に何回か会ったことがあるんですけど、まだ中学生なのに体がこんなに大きいんだと驚きました」と西舘は当時の印象を語る。3月のWBCでは高校の先輩・大谷翔平が打って投げての大活躍だった。秋のドラフトへ向け、西舘、佐々木麟太郎の活躍で、再び花巻東がクローズアップされることになるだろう。

佐々木朗希と同世代の右腕としても注目を集める(撮影・小川誠志)

入れ替え戦の危機からチームを救う完投勝利

今春のリーグ戦は東京六大学リーグで引き分けが多かったことや悪天候の影響を受け、東都1部リーグは大幅な日程変更を余儀なくされた。登板日の変更が相次ぎ、先発投手にとっては調整が難しく、西舘も本来の調子をなかなか取り戻せなかった。ただ、第5週の國學院大學1回戦では8回7安打1失点、12奪三振の力投で今季初白星。最終戦の駒澤大学3回戦は、勝った方が1部残留を決める大事な試合となった。先発マウンドに上がった西舘は、9回7安打3失点で完投勝利。136球の力投でチームの危機を救った。

「勇陽」という名前には「太陽のように周りの人に勇気を与える存在になってほしい」という両親からの思いが込められている。昨年の春秋、そして今春、西舘の力投がチームメートをどれだけ勇気づけただろうか。

1部残留を決めた中央大は、秋の戦いへ向け準備を進めている。「自分たちの代はまだ優勝経験がないので、優勝に対する思いが強いんです」と西舘。ドラフトに対して気負いはない。自身のピッチングでチームメートに何度も勇気を与え、秋の優勝、そして大学日本一へ。最後のチャンスに向けて闘志を燃やす。

1部残留を決めた直後、中心打者の高橋隆慶(左)と(撮影・小川誠志)

in Additionあわせて読みたい