東洋大学・細野晴希 佐々木朗希世代の最速155キロ左腕、大学ラストイヤーへの決意
東都大学野球リーグは上位校と下位校、1部校と2部校の実力差が小さく、「戦国東都」の異名を持つ。2部校にも能力の高い選手が多く、昨秋のプロ野球ドラフト会議でも専修大学のエース・菊地吏玖(4年、札幌大谷)が千葉ロッテマリーンズから1位指名を受けた。新チームでは東洋大学の左腕エース・細野晴希(3年、東亜学園)も2部の所属ながら、ドラフト1位候補としてスカウト陣の熱視線を浴びている。
何としても1部に昇格を!
「何としても今年は1部に上がらなければいけない。1部昇格を目指す中で、いいピッチングができれば、ドラフトでの評価も上がるのではないかと思います。自分は四球が多いので、コントロールを改善しないといけないですし、投球フォームも細かいところを見直していかなければいけない。課題はたくさんあります」
細野は大学ラストイヤーに向けた決意を口にし、表情を引き締めた。
最速155キロの豪速球が、うなりを上げて捕手のミットに突き刺さる。カットボール、スライダーも速球に近い軌道から変化するので、打者にとっては厄介なボールだ。下級生のころからエース格としてマウンドに立ち、1部リーグ(1年秋、2年春の2シーズン)で通算37回3分の2を投げて44奪三振、2部リーグ(2年秋、3年春秋の3シーズン)では通算110回3分の2を投げ133奪三振と、イニング数を大きく上回る三振を奪ってきた。走者を背負ったときのけん制球のうまさも、細野の武器の一つだ。
打者を圧倒するボールを持ちながら、チームを1部復帰に導くことができていない。2年の春、チームは1部で6位に沈み、日本大学との入れ替え戦に敗れ、2部降格を喫した。細野は入れ替え戦に先発し、逆転2ランを浴びた。3年春は2部リーグで優勝し、1部6位の中央大学と入れ替え戦を戦った。1勝1敗で迎えた3回戦、細野は7回被安打2、無失点でマウンドを降りたが、チームは九回裏に逆転サヨナラ負け。つかみかけていた1部昇格を目前で逃した。
3年秋は8試合で38四死球と制球に苦しみ、チームも専修大学と2部優勝争いをしながら勝ち切れなかった。最上級生となった今年は副主将として投手陣を引っ張る。ドラフトに向けてのアピールも求められるが、自身にとってそれ以上に大事なのはチームを1部リーグへ引き上げることだ。
筋力アップが球速アップにつながった
高校時代の最速は140キロだった。当時からスカウトが注目する存在だったが、プロ志望届は出さずに大学進学を選んだ。高3秋のドラフトでは、夏の甲子園準優勝投手・奥川恭伸(現・東京ヤクルトスワローズ)、160キロ右腕・佐々木朗希(現・千葉ロッテマリーンズ)、快速左腕・宮城大弥(現・オリックス・バファローズ)ら、同学年の投手たちがプロへ進んだ。当時の細野にとって彼らは「テレビで見る人たち」で、同学年として意識する存在ではなかったと話す。
「ライバル意識なんて全然なかったです。僕自身がそういうレベルになかったので。高校のときは、自分の力ではプロで通用しないと思っていて、大学で4年間鍛えて、それからプロを目指そうという考えでした。今はもちろん、彼らと同じステージで勝負したい気持ちはあります」
高校野球を引退後、ウェートトレーニングに本格的に取り組み、大学1年秋には148キロ、2年春には149キロと球速アップに成功した。
「ベンチプレスで言えば、大学1年のころには50キロを上げるのがやっとでしたけれど、今は95キロぐらいまで上がるようになりました。筋力アップの成果が球速アップにつながったのではないかと思います」
さらに大学2年の冬を越え、3年春のリーグ戦では154キロをマーク。最速が上がったのはもちろん、アベレージが速くなったことを細野は実感したという。この大学3年の春から、細野はプロ入りを現実の目標として意識するようになった。
その年の6月、中央大との入れ替え戦1回戦の五回に、自己最速の155キロをマークしたが、それも指にかかった手応えのあるボールではなかったという。「そんなに力を入れて投げたわけではなかった。自分の感覚としては、まだ球速は上がるなと感じました」と話すように、今後さらなる球速アップが期待できるだろう。
初めての代表合宿が大きな刺激に
昨年12月には愛媛・松山で行われた侍ジャパン大学日本代表候補合宿に参加した。細野はこれまで「代表合宿」にはタイミングが合わず、2度も参加を見送っていた。高3の春は、高校日本代表候補合宿のメンバーに選ばれていたが、春季大会と日程が重複したため、参加を辞退。大学3年の6月には大学日本代表選考合宿のメンバーに選ばれたが、入れ替え戦と日程が重複したため参加を辞退していた。
「12月の合宿メンバーに選ばれたときは『そのぐらいの立ち位置に自分はいるんだな』と、ホッとした気持ちがありました。代表候補の投手陣は皆レベルが高くて刺激になり、勉強になりました。西舘(勇陽、中央大3年)とのキャッチボールでは、初めて見るような軌道でボールがきたし、金丸(夢斗、関西大2年)も抜け球がなくてすごかったです」
代表候補合宿で一緒にプレーした選手たちのことを話す細野の口調は滑らかだった。同世代のトップ選手たちから大きな刺激を受けたことが分かる。
登板前のウォーミングアップでは松任谷由実(荒井由実)さんの名曲『ひこうき雲』を聴いて、高ぶる気持ちを落ち着かせるという。「球場の外でジョギングをしているとき、『ひこうき雲』は足のペースに合うんですよ。結構落ち着くんです」と細野は笑顔でその理由を教えてくれた。
チームを1部に引き上げ、ライバルたちの待つプロの世界へ。決意を胸に、155キロ左腕は大学ラストイヤーのマウンドへ向かう。