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特集:東京オリンピック・パラリンピック

ダルビッシュに憧れて 苫小牧駒澤大最後のドラフト候補、伊藤大海投手の発信力

鉄の棒を使って投球フォームを確認する伊藤大海(撮影はすべて朝日新聞)

新型コロナウイルスへの感染防止に努めながらスポーツの練習が再開される中、野球への思いを強めているエースが北の大地にいる。2年連続大学ジャパンに選ばれた苫小牧駒澤大学4年の伊藤大海(ひろみ)投手(22)。「めざすのは負けない投手。『伊藤大海が投げるなら球場に行こうかな』と思ってもらえるようなインパクトのある投手になりたい」。北海道南部の苫小牧市にある大学は来春から北洋大学に名称を変更予定。チームの主将も任された大黒柱は「苫駒大」最後のドラフト指名を待つ。

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選抜高校野球大会で完封、逆転サヨナラ負け

伊藤投手は2014年、駒大苫小牧高校(北海道)2年の時、背番号15で第86回選抜大会に出場した。初戦はスライダーを低めに集め、創成館(長崎)を3安打に抑えて完封勝利を飾った。2回戦では3番手で登板したが、準優勝した履正社(大阪)に逆転サヨナラ負けを喫した。甲子園出場はこの時だけだった。

駒大苫小牧高2年の選抜大会で完封勝利を挙げた伊藤大海

16年、進学した東都リーグの駒澤大学でも1年春から2部リーグ戦に登板した。球速が飛躍的に伸びたのは1年秋のこと。ブルペン投球を見たOBが「体重を後ろにかけてみたら」とヒントを与えてくれた。軸足にかける体重をつま先ではなく、かかとにかけるよう意識した。体重移動が効率よくできるようになり、140km前後だった球速が148kmにまで伸びた。しかしその後、伊藤投手は「ターニングポイント」と振り返る重大な決断をすることに。駒澤大を中退し、出身地の北海道に戻ることにしたのだ。

ブランクでさらに成長

大学野球連盟の規定で1年間は公式戦に出られない。にもかかわらず、苫小牧駒大に転学。そこで1年間、「それまで以上に、野球を深く掘り下げて考えるようになった」。体幹を鍛え、筋肉もつけた。チームの練習では打撃投手を買って出た。

18年春。新2年生で迎えた公式戦。150km台に到達した直球で面白いように三振を奪った。「スピードが明らかに変わった。狙って三振を取れるようになり、投球の幅を実感できた」。大滝敏之監督(66)も「球がうなり、手がつけられない投手に成長した」

18年の全日本大学選手権壮行会。伊藤の好投もあり苫小牧駒大は大会初勝利を挙げた

18年春には全日本大学選手権に4年ぶりに出場した。1回戦で日本文理大学から10三振を奪い被安打52失点で完投、4-2で下してチームに大会初勝利をもたらした。23年次には2年連続で大学日本代表に選ばれた。救援投手として、後にプロ入りした甲斐野央(ひろし、東洋大~福岡ソフトバンクホークス)、森下暢仁(まさと、明治大~広島東洋カープ)らとともに、国際試合を経験した。

この春からユーチューバー、スタジオは野球部寮

最速155kmを誇る右腕は、今年3月から動画投稿サイト「YouTube」で配信を始めた。コンセプトは「みんなでつくる野球ノート」だ。サイトを通して自らの練習方法や投球理論を発信している。アマ球界のトップ選手としては珍しい試みだが、野球少年やその親たちの「もっと速い球を投げたい」「そのための練習方法とは?」という願いや疑問に答えるべく、みずからの考えを紹介している。

自らの発信力を高めている伊藤大海

野球部寮の自分の部屋が即席のスタジオ。iPhoneを三脚に置いて、自分が話す様子を撮影する。練習場面は部員に撮影してもらい、編集する。「リリースドリル編」では、持ち味である直球の投げ方のコツを伝授。キャッチボールでは体の正面を相手と正対する、正面投げで「ボールをつぶすイメージ。右腕が体から離れないことを意識する」などと解説し、力強い球筋を実演してみせる。視聴者からの質問に答える形で次のテーマを考え、週1回程度の更新をめざしている。配信を始めたきっかけは、伊藤選手が投手として大きく成長を遂げた体験に基づく。

成長のきっかけになれば「いろんな世代に届けたい」

伊藤投手は1026日に前倒しされた今年のプロ野球ドラフト会議で1位指名の呼び声が高い。本人もプロ野球で勝負がしたいと考える。そして最終学年を前に、比較的自由に活動ができる学生のうちに足跡を残したいとも考えた。子どもの頃からあこがれるダルビッシュ有投手(カブス)も、Twitterで積極的な発言をしている。「考えて野球をしている姿に魅力を感じます」

自身も当初はTwitterでフォロワーの疑問に答えていたが、それだけでは物足りなくなった。次に選んだのが動画だ。「これだけネットが普及して、いろんな世代に届くようになっている」。デジタルネイティブである子どもたちにも、自分がそうだったように成長のきっかけをつかんでもらいたいと考えた。

秋のプロ野球ドラフト会議で上位指名有力な伊藤大海

新型コロナウイルス感染拡大の影響で春の公式戦はなくなった。最後のアピールの場も減った。目の前の試合がなくても、伊藤投手が練習に励むのはもっと直球で勝負できる投手になりたいから。動画配信にも「考え方やスキルを出し惜しみなく伝えたい。自覚と責任をもってやっていく」と、真剣に向き合っていく。

伊藤大海のYouTube

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