桐蔭横浜大の「ドカベン」渡部健人 長打力はもちろん、守備もうまけりゃ足も速い
新型コロナウイルスの感染拡大で、大学野球の春のリーグ戦は全国的に開幕が遅れています。晴れ舞台を待ちわびる選手たちの中から、この秋のドラフト候補を紹介します。40代以上の野球ファンなら、彼を一目見て漫画『ドカベン』の主人公・山田太郎を思い起こすのではないでしょうか。
どすこいパフォーマンス、やってみたい
桐蔭横浜大の4番を張る渡部健人(わたなべ・けんと、日本ウェルネス)は身長176cm、体重115kgの巨漢スラッガーだ。もっと年代が下の野球ファンなら、イメージを重ね合わせるのは埼玉西武ライオンズの中村剛也か、山川穂高か。
渡部自身も、あこがれのプロ野球選手に山川の名前を挙げる。「山川さんの打ち方を動画サイトで見て、バッティングの参考にさせてもらってます。ホームランを打ったあとの『どすこい』のパフォーマンスもやってみたいですね(笑)。『ドカベン』は、子どものころにちょっと読んだぐらいです」
彼は大学1年生の春、神奈川大学1部のリーグ戦で開幕から4番に座り、デビュー戦でホームランを放った。3年生の秋までの6シーズンで通算本塁打は10本。近年は西武の中村、山川、千葉ロッテマリーンズの井上晴哉といった巨漢スラッガーたちが活躍していることもあり、プロのスカウトたちも渡部の動向に注目している。
こう見えて、と言っては本人に失礼かもしれないが、50m走のベストタイムは6秒1と速く、リーグ戦通算9盗塁をマークしている。大学ではサードとファーストを守ることが多いが、高校時代はショートを守っており、守備にも定評がある。「渡部は守備もうまいんです。あいつの守備で何試合も助けられました。バッティングばかりに目がいきますけど、本当に守備のうまい選手です。しかも足もありますから」と、桐蔭横浜大の齊藤博久監督は渡部のユーティリティーぶりを強調する。
もしかしたら柔道のオリンピック選手!?
少年時代の話をするとき、渡部は野球ができなくなりそうになった「危機」について明かしてくれた。「父は最初に、柔道をやらせようと思ったらしくて。でも自分は泣きながら『野球がやりたい』って言い続けて、なんとか野球をやらせてもらいました」。柔道とは、まさに『ドカベン』を連想させるエピソード! 恵まれた体格に高い運動能力を誇る渡部なら、もし柔道をやっていても、いまごろ相当なレベルに達していただろう。野球を続けさせてくれた渡部のお父さんに、野球ファンは感謝しなければいけない。
中学時代は横浜市の強豪チームである中本牧シニアでプレーしていた。高校進学の際、複数の強豪校から誘いの声がかかった。その中から横浜商大高を選んだ。1年生の夏からレギュラーとして神奈川大会にも出たが、その冬、渡部は家庭の事情により東京にある通信制の日本ウェルネス高へ転校することになる。日本高校野球連盟の規定により、転校した選手は1年間公式戦に出られない。大きな決断だった。
「高野連の規定を知ったうえで悩みましたけど、転校することに決めました。試合に出られない1年間で、自分を見つめ直せたのはよかったと思います」
転校後、高2の春夏秋の公式戦では、渡部は記録員としてチームの戦いぶりをベンチから見つめた。冬を越え、高3の春季大会からようやく公式戦出場を許され、夏にかけての4カ月ほどで15本塁打を放った。甲子園に出場する最後のチャンスとなった夏は、東東京大会5回戦で帝京に敗れたが、4回戦の獨協戦では2打席連続本塁打を放ち、「東東京のおかわり君」と話題になった。高3の秋にもプロ志望届を出したが、指名はなかった。熱心に誘ってくれ、ドラフト後まで返事を待ってくれた桐蔭横浜大への進学を決めた。
課題は内角球への対応
現在の課題はインコースのボールへの対応だという。「3年になってインコースを攻められるようになって、それで苦しんで自分のスイングができませんでした」。2年生の秋に4割をマークした打率が、3年生の春は2割5分6厘、秋は2割6分7厘と3割を切った。
昨年の冬に参加した侍ジャパン大学代表選考合宿で球の速い投手陣と対戦したこともあり、このオフはバッティングフォームの修正に取り組んだ。左足を大きく上げて踏み込んでいたのを、足の動きをコンパクトにしたフォームに変えてみた。この春のオープン戦で試してみたが、しっくりこなかった。左足を大きく上げる、もとのフォームに戻した。
3年生の秋までのリーグ戦6シーズンで59試合に出場し、四死球が47と多い。相手投手はストライクゾーンではなかなか勝負してこない。「そこは意識してます。監督さんにもコーチにも『お前のときに甘いボールはこないんだぞ』と言われてますから」。数少ない甘いボールを確実にしとめられるかどうかだ。
国際大会で長打力をアピールするはずが……
ほとんどのドラフト候補に共通することだが、いまは強い逆風が吹いている。新型コロナウイルス感染者の増加を受け、3月中旬に予定されていた大学代表選考合宿が中止になった。今年6月末から7月上旬にかけて開催予定だったハーレム・ベースボールウィーク(オランダ)が中止。8月に予定されていたアジア大学選手権(中国・西安)も延期となり、開催は厳しい見通しだ。日本代表として国際大会で長打力をアピールする大きなチャンスが失われてしまった。
春の神奈川大学リーグ戦も当初の3月28日開幕から3カ月近い延期を余儀なくされ、6月20日の開幕を目指して準備が進められている。与えられたチャンスの中で、これでもかというぐらいに打つしかない。
気は優しくて力持ち。ドカベン渡部は逆風の中でも前を向き続ける。