運も味方につけ、慶大主将としてリーグ優勝 元プロ野球巨人・高橋由伸さん2
輝かしい舞台で躍動するプロアスリートの中には、大学での4years.で花開いた人たちがいます。そんな経験を持つ現役プロや、元プロの方々が大学時代を中心に振り返る連載「プロが語る4years.」。第5弾はプロ野球・読売ジャイアンツ(巨人)の中心選手として18年間プレーし、ベストナイン2度、ゴールデングラブ賞を7度獲得した高橋由伸さん(44)です。3シーズンに渡って監督も務め、現在は球団特別顧問。野球解説者としても活動されています。3回の連載の2回目は大学での8シーズンで唯一の優勝を果たした4年生の春などについてです。
1年春に3本塁打、後藤監督は「24本を狙え」
桐蔭学園高校(神奈川)時代、高橋さんは1年生の夏、2年生の夏と2度甲子園に出場した。強打・好守の外野手としてプロ野球のスカウトからも注目を浴びる中、進学を決意。指定校推薦で1994年春、慶應義塾大法学部政治学科に入学した。
大学1年生の春、チーム事情から最初につかんだポジションは、外野ではなくサードだった。それまでほとんど守ったことがなかったが、「勢いで1シーズンやっちゃいました」と笑顔で振り返る。5番サードで全13試合に出場し、ホームラン3本の活躍。打率はリーグ9位の3割8厘をマークした。
「打つことに関してはね、正直、高校と大学のレベルの差を感じることなく入っていけました。木製バットにも違和感なく入れた記憶がありますね。1年の春の、その3本のホームランが基準になったというか、当時の後藤(寿彦)監督(現・JR西日本野球部総監督)に『1年の春に3本だから、普通にいけば24本打てるぞ。3本×8シーズンで通算24本を狙え』って、最初のシーズンが終わったときから言われ続けてましたね。最終的には1本足りませんでしたけど(笑)」
みんなが一つの方向を向ける学年だった
最も高橋さんの印象に残っているシーズンは、大学4年生の春だという。キャプテンとしてチームを引っ張り、9シーズンぶりのリーグ優勝を達成した。
「僕がいた4年間は明治と法政が強かったので、なかなか勝てなくて。結局、明治からは4年間1度も勝ち点を取れませんでした。4年の春は運も味方してくれて、唯一の優勝なんですよね」
1年生の春からレギュラーとして活躍してきたが、優勝にはなかなか結びつかなかった。3年生の秋のリーグ戦を終え、最上級生としてのシーズンへ臨むところで、高橋さんは後藤監督からキャプテンとしてチームを引っ張ることを命じられた。桐蔭学園でも最後の1年間はキャプテンを務めた。プロ入り後も2003年から2007年までの5年間、ジャイアンツの選手会長を務めている。
「どちらかと言ったら、僕はプレーで引っ張るタイプのキャプテンだったと思います。同期でエースの林(卓史=前慶應義塾大野球部助監督)もチームを引っ張ってくれましたし、もう一人、木下(博之)という副キャプテンもいましたし。あとは同期から何人も自分のプレーをあきらめてまで学生スタッフをやってくれたり。僕らの代はまとまりがあって、みんなが本当に一つの方向を向いてやれた学年でした」
キャプテンとして臨んだ大学4年生の春のシーズン。明治が1週目の立教戦で勝ち点を落とし、慶應も2カード目の明治戦で勝ち点を落としてしまう。勝ち点4で明治が先にリーグ戦を終えたあと、慶應は最終週の慶早戦に連勝して勝ち点4で並び、勝率の差で優勝を勝ち取った。
高橋さんも打率3割1分、4本塁打と優勝に貢献した。リーグ最終戦の慶早2回戦では通算22号本塁打を放ち、田淵幸一さん(当時法大)のリーグ記録に並んだ。前年秋のシーズンを終えた段階での通算本塁打は18本。あと4本で大記録に並ぶということで周囲の期待は高まったが、チームが優勝に向かって進んでいたことから、記録を過剰に意識することはなかったという。
「春は(記録へのプレッシャーは)それほどでもなかったですね。優勝がかかってたんで、(記録の数字に)近づくにつれて優勝にも近づいていきましたから。当然、記録のことは周りから言われましたけど、チームは『優勝、優勝』っていう方向に向かってて、僕もそう思ってましたしね」
バッティングで大事にしてきた“打感”
連覇を狙った4年生の秋、優勝は逃したが、通算23本塁打のリーグ新記録を樹立した。大学4年間で残した成績は、リーグ戦102試合に出場し、366打数119安打62打点、打率3割2分5厘、23本塁打。通算ホームランの記録は現在も破られておらず、通算119安打は2019年の秋のリーグ戦前までで、歴代6位にランクされている。
大学3年生の夏、4年生の夏には国際試合も経験した。3年生の夏に大学日本代表の一員として出場した日米大学野球では、3試合連続ホームランなどの活躍で大会優秀選手に選ばれた。4年生の夏には社会人も含めた全日本代表の一員としてインターコンチネンタルカップに出場。全7試合で4番を打ち、決勝のキューバ戦では1回に先制3ラン、8回にダメ押しの2点三塁打を放つなど、優勝をガッチリと支えた。
バッティングにおいて一貫して大切にしてきたものについて問われると、高橋さんは“打感”と表現した。
「これは自分だけの感覚でしかないんですけど、バットにボールが当たったときの、その重みというか、感触です。打感が軽いのはダメだったんですよ。僕はとにかく『厚い』当たりがほしかった。『いま、いい当たりしたなぁ』っていうときは飛距離も出るし、打球が強い。そこはいつも感じてましたね」