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連載: プロが語る4years.

苦しいときはバカになって前向きに突き進め 川崎ブレイブサンダース篠山竜青・4完

篠山が3年生だった2009年、日大はインカレで6年ぶりの優勝を飾った(写真は日本大学新聞社提供)

輝かしい舞台で躍動するプロアスリートの中には、大学での4years.で花開いた人たちがいます。そんな経験を持つ現役プロや、元プロの方々が大学時代を中心に振り返る連載「プロが語る4years.」。第4弾はバスケ日本代表の主将で、Bリーグ・川崎ブレイブサンダースでも主将として6シーズン目を迎える篠山竜青(31)。最終回は日大時代を振り返りつつ、開幕直前の「FIBAバスケットボールワールドカップ2019」への思いを語っています。

反発で始まった日大時代、4年間で司令塔になれた 川崎ブレイブサンダース篠山竜青・3

自分よりいい選手が堕落していく姿を見てきた

篠山は日大3年生のときにユニバーシアード代表に選出され、4年生になるとチームのキャプテンを託された。そして卒業後は現在の川崎ブレイブサンダースの前身である東芝ブレイブサンダースへ。中学時代に思い描いた「バスケで就職する」という目標を達成した。

大学生活で学んだことは? 篠山はこの問いに対して、言った。「目標を見失わず、自分で考えて、自分でやるということの重要性を肌身に感じた4年間でした」

「僕もそうでしたけど、とくに高校のときは抑え込まれて、我慢の生活を強いられる選手は多いと思います。それで大学に入ると急に自由が増える。成人を迎えて、お酒も飲めるようになると、誘惑も多いでしょう。正直言って、僕よりもうまい選手が途中でバスケをやめたり、会うたびにお腹が出ていったりってこともありました。そういうのを目の当たりにして、本当にもったいないなと思いましたね」

大学4年間で「自分で考えてやれる人だけが成長できる」と実感した(撮影・小澤達也)

大事なのは何のために大学に行き、どのような思いで4年間を過ごすかということだ。

「シンプルだけど難しいことですよね。でもいま、上のレベルで活躍してる人や、社会で成功してる人は、きっとその4年間で、今後ステップアップするために何をすればいいのかを考えてきた人だと思うんです。環境やほかの人のせいにせず、自分で考えて、自分でやれる人だけが、成長できるんだということを大学時代に学べた気がします。大学生はもう大人ですから。人のせいにすることは、言いわけにしかならないですよ」

W杯予選で開幕4連敗、「開き直ろう」と訴えた

指導者に恵まれながらも、自ら何をすべきかを考え、行動することで篠山は成長を続けてきた。そしていまでは、日本代表の主将を任されるまでになった。
そんな篠山自身が自覚している一番の強みを聞いた。

「バカになれるところ、ですかね(笑)。つらい時とか苦しい時に、嘘でもいいからバカになって、向こう側にいくというか(笑)。こういう時だから楽しくやろうぜ、という考え方ができるのは、僕にとっての強みなのかなと思います」

そういえばこんなことがあった。2017年に開幕したワールドカップアジア地区予選。男子日本代表は開幕4連敗といきなりの窮地に陥った。篠山が振り返る。

「本当にあの時は『開き直るしかない』という言葉を何度も使いました。4連敗という結果を振り返ってもしょうがない。過去には戻れないし、次どうするかしか選択肢がないわけですから。4連敗を引きずって下を向いてやるのか、それとも開き直って、バカになって、明るく元気に前向きにやっていくのか。それによって未来は変わってくる。そういう雰囲気づくりは、自分にしかできないポイントなのかもしれないですね。昔からそういう感じでしたから」

そして4連敗のあとの8連勝につなげ、自国開催だった06年大会以来13年ぶり5度目となるワールドカップ出場を決めた。予選から勝ち上がっての出場は、1998年大会以来、21年ぶりとなる。

ワールドカップ予選は、窮地でこそ前向きにいけば何かが起こるという好例になった(撮影・小澤達也)

このインタビューにも終始穏やかに応えてくれた篠山だが、これまでの人生でキレたことは一度もないという。

「たぶん、怒鳴ったこともないですね。高校のときもなかったです。下級生のときは理不尽に怒鳴られもしましたけど、僕らが3年生になったときにそういう悪しき伝統をなくしました。ずっと穏やかなんです。反抗期もなかったですね。でも、ちょっと怖いですよね。いつか振り切れる日が来るかもしれない(笑)」

明るく、ポジティブで温厚な人柄の篠山が、日本代表のいい雰囲気を支えているのは間違いないだろう。

W杯のアメリカ戦は怖い、それも活力に変えて

いよいよ8月31日、前述のワールドカップが幕を開ける。日本は予選ラウンドでトルコ、チェコ、そして世界王者のアメリカと同じ組になった。

「ワクワクするというひとことだけでは言い表せない気持ちですね」。大会を前に、篠山は偽らざる胸の内を明かした。

「国を代表して戦いにいくわけですからね。恐怖心もありますし、ボコボコにされたらどうしようという思いもあります」。とりわけ、バスケ大国であるアメリカとの一戦は、日本にとっての試金石となるはずだ。

「世界一の国と、日本という国にどれくらいの距離感があるのかを図るいい物差しになると思います。自分としても、いまは正直、ビビッてますし、怖がってもいますけど、それを活力に変えて、めちゃくちゃ練習しないといけない。でも試合になれば開き直って、なんとかしてやるという気持ちで臨みたいなと思ってます。目標ですか? まずは1勝じゃないですか? そして予選突破ですね。少しずつ、着実に上がっていければと僕自身は思ってます」

試合になれば開き直って、なんかとかしてやるという気持ちで臨みたい(撮影・小澤達也)

長く世界の舞台から遠ざかっていた日本にとって、ワールドカップが特別な大会であることは間違いない。経験がないからこその不安と、だからこその高揚感。その両方の思いを備えて、日本は新たな歴史を刻むための戦いに臨む。 

「これまでの大会とは絶対に違うと思います。世界の舞台に立ったことがないので、どうなるのか分かりません、というのがいまの素直な感想です。未知の世界に飛び込んでいくという不安と楽しみが、入り混じってますね」

やはり穏やかな口調で話したが、言葉からは燃えたぎるような覚悟が伝わってきた。

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