野球

特集:慶應野球部女性主務の日記

「明日は明日の風が吹く」慶應野球部 小林由佳

六大学史上初の女性主務となった小林に、ラストシーズンの日々を綴ってもらった(撮影はすべて松嵜未来)

硬式野球の東京六大学秋季リーグ戦は、10月27日から早慶戦が始まる。慶應が勝ち点を挙げれば3連覇。慶應のベンチでは、六大学史上初の女性主務である小林由佳(4年、慶應女子)がスコアを記入しながら仲間の戦いを見守る。4years.編集部は大学ラストシーズンを迎えた小林主務にお願いし、日記の形で思いを綴ってもらってきた。まずは開幕前日から3カード目の法政大3回戦までの日記を紹介する。

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9月7日(金) リーグ戦開幕前日

いよいよ明日から、ラストシーズンとなる秋季リーグ戦が開幕する。
選手のおかげで春の優勝から全日本選手権、台湾遠征と多くの経験をさせてもらった。それを返せるのは今季しかない。連覇はしているものの、すべて厳しい戦いを乗り越えて来たからこそで、ほかの大学は「打倒慶應」でかかって来るだろう。確かに、春より投手の枚数が少なかったりと不安要素もあるが、チーム全員でカバーし合えば3連覇も自ずと見えると思う。
一戦必勝。どの大学よりも最後までグラウンドで野球している姿を見たい。

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9月8日(土) 東京大学1回戦

●東大300000010…4
○慶應02400000×…6

3連覇へ臨む初戦。
昨年秋は初戦で東京大学に負けていることもあり、誰もが初戦の入りを意識していたように感じた。グラウンドに出ると、南風が予想以上に強かった。
試合は初回に本塁打で3点先制を許す展開になった。風の影響で打球が伸びていったように見えて、試合前のミーティングで南風のことを伝えておけばよかったと反省した。
しかし、先制されても逆転できる雰囲気がベンチにはあった。春の試合から長谷川や田中凌馬が声で選手たちを盛り立てていることもあり、3回には逆転に成功。その後1点を返されたが、逃げ切って先勝した。課題の残る試合とはなったが、難しい初戦を勝てたことが大事である。明日に向けてしっかりと準備をして臨みたい。

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9月9日(日) 東京大学2回戦

○慶應001006102…10
●東大001003000…4

今日の先発投手は1年生の森田晃介。フレッシュリーグでは神宮球場で投げていたものの、リーグ戦は初登板の選手だ。昨日とは異なりこちらが先制したものの、反則投球で追いつかれる嫌な流れだった。だが、それを断ち切ったのが6回表の攻撃。一挙に6点を追加し、9回表にも中村の2試合連続本塁打でダメ押し。2連勝で勝ち点を奪取した。2戦を終え、フルスイングで向かってくる東京大学は確実に春より強くなっていると思った。
寮に帰り、作業で残っていた1年生のマネージャーに「森田が勝ち投手でよかったね」と声をかけると「同期が先発なんてなぜか緊張しました」とひとこと。3年前、同期の太田が初先発した時のことを思い出した。そんな彼が今日久しぶりに神宮のマウンドに上がったときは、とてもうれしかった。次は明治戦。厳しい戦いになると思うが、全力で向かっていきたい。

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9月22日(土) 明治大学1回戦

○慶應000001001…2
●明治010000000…1

9月で6勝という目標達成のためには、何としても初戦を取りたい明治戦。私は台湾での世界大学野球で各校の選手を見ていたが、世界一になれたのは明治の選手の活躍があってのことで、どの打者、投手も強敵に違いないと思っていた。
試合前のミーティングで、「勝つなら接戦」と言われていたし、春の試合もなんとか最後に流れを持って来て勝ったので、先制点を取られてもいつも通り慌てず粘れていた。なんといっても8回裏、1死一、三塁で逢澤選手、越智選手を迎えたときは心拍数も上がったが、「冷静にスコアをつけよう」と自分を落ち着かせた。そしてピンチの後にはチャンスが来る。その通りに嶋田が一発。1点差のきつい試合をものにすることができた。
今日はピッチャーを楽にさせてあげられなかったので、明日は野手陣の奮起に期待したい。そして2連勝で、現在首位の法政大学と戦いたいと思う。

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9月23日(日) 明治大学2回戦

○明治320200000…7
●慶應000040000…4

何としても連勝したかった。しかしそう簡単には勝たせてくれなかった。今日の先発は久しぶりのマウンドとなった4年生の菊地。意地を見せてほしかったが、四死球を与え、ワンアウトも取れずにマウンドを譲る。続くのは石井。初回は抑えたものの、2回から苦しい投球となり、4回までに7点のビハインドを負ってしまった。打線は対策を重ねてきた相手先発投手に4回まで無安打と、なかなか流れを持ってこられない。
いつも粘れるのに粘れない、ベンチの雰囲気も徐々に低くなっているように感じた矢先のことだった。相手のエラーから好機を作ると、内田の適時打と中村の3点本塁打で3点差に詰め寄った。5回で3点差、まだまだいける。投手も粘っている。しかし5回以降何もできずに試合が終わってしまった。相手の死に物狂いで向かって来る姿に、勝ちきることができなかった。
ただ、明日は明日の風が吹く。勝ち点を落とせない戦い。絶対に勝つ。

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9月24日(月) 明治大学3回戦

○慶應010042000…7
●明治001002000…3

勝ち点2。これで法政大学と首位対決ができる。
今日も厳しい一戦となった。時間を見ると3時間ゲームだったが、ベンチにいると、そこまで長くは感じない試合だった。先発は1戦目同様に髙橋佑樹、相手は昨日までベンチ入りすらしていなかった伊勢投手。春に完封されている嫌な相手であり、世界大会でも大活躍した、気持ちで向かってくるタイプの選手だ。相手もここ一番の勝負をかけてきたなと思った。
1点を先制した後、追いつかれるも、なんとか粘って5回表、なんと森下投手からホームランを含む4連打で4点をもぎ取って試合を優位に進められた。最後まで相手打線は怖かったが、髙橋コンビの粘り強い継投で勝利を収めることができた。
しかし5日後には、さらなる強敵が待ち受けている。一喜一憂せずに切り替えて、最高の準備をして「9月で6勝」という目の前の目標を達成したい。

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10月1日(月) 法政大学1回戦

●法政100000000…1
○慶應00002000×…2

台風の影響もあり、雨で2日間試合がずれたが、これは先週末も試合のあった慶應にとって恵みの雨となった。
先発は明治戦で好投した髙橋佑樹。立ち上がりに苦しみ1点を許す。相手の先発は1年生ながらここまでチームを引っ張ってきた三浦投手。キャッチャーが受けてからピッチャーに投げ返すのが本当に早く、テンポのよさが目立っているなと感じた。
試合は粘着状態が続いたが、動いたのは5回裏。小原の放った打球が風に乗り、神宮初ホームランで逆転に成功! 守備でとってもいいプレーを連発していたので、何かやってくれそうな気配があった。値千金の一打を放ち、ベンチは驚きでいっぱいとなった。私の近くにいた郡司と顔を合わせ、つい笑ってしまった。その後は連日の髙橋リレーで1安打も許さず、逃げ切って先勝した。
こういう試合をものにできるチームになったのは、本当にいいことだと思う。2戦で終わらせるためにも、最高の準備をしたい。

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10月2日(火) 法政大学2回戦

●慶應100100000…2
○法政10420010×…8

なんとか2戦で終わらせたい今日。しかし、そう簡単には勝たせてくれなかった。
投手陣を楽にしてあげる展開を作りたかったが、序盤に満塁や先頭打者が出塁するチャンスがあってもあと1本が出なかったり、バントミスがあったり。暴投での1点だけに抑えられた。ソロホームランで追いつかれた後、こちらが攻めあぐねているうちに流れが向こうへいくのを感じた。
法政大学さんだって、この試合がリーグ戦の行方を左右するのだから当たり前だ。3回裏に2本のホームランを含む4失点で、一挙に形勢が傾く。4回に1点を返すも、さらに追加点を奪われ、なかなかこちらのリズムをつかめなかった。ただ、同期の前田がリーグ戦初先発にして窮地を抑えたこと、9回表に代打で出場した大平がヒットを放ったこと。そのときは涙が出そうになった。4年生の2人が、諦めずにここまで頑張ってきたからこそ、試合に出てないからこその意地を見せてくれた。
きっと明日も同期はスタメンでは内田しか出場しないが、この2人の姿を見て何かを感じ取ってくれた後輩たちがいるに違いない。いままで部員全員でやってきた掃除や取り組みは絶対にどのチームにも負けない自信があるし、だからこそ負けたくない。
本当の天王山。明日の1試合にすべてを集中させて、絶対に勝つ。

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10月3日(水) 法政大学3回戦

●法政005000100020…8
○慶應121110000021…9
(延長12回サヨナラ)

勝った。ただひとこと。それに尽きるゲームだった。
延長12回、4時間45分。その瞬間はやってきた。代打長谷川のショートへの内野安打でサヨナラ勝ちした瞬間、ベンチには涙ぐむ選手もいた。
今日は初回に幸先よく先制、2回にも中村のホームランで3点のリードを奪った。髙橋佑樹でこの点差なら大丈夫かと思われた矢先、向山に逆転満塁ホームランを浴びてしまう。流れは一気に向こうに傾き、序盤で2点のリードを許す展開となる。ただ振り返ってみれば、春のリーグ戦も3点以上離されなければ逆転勝ちできていたので、選手は誰ひとり諦めていなかった。ジリジリと攻め続け、内田のホームラン、渡部の同点打で追いつく。ベンチもかなり活気づいてきた。すると植田将太のタイムリーで1点を勝ち越す。彼とハイタッチしたとき、勢い余ってスパイクで思いきり踏まれたが、なんのその。痛みすら感じない試合展開が続いた。
意地と意地のぶつかり合い。こちらがサヨナラのチャンスを作れば、相手も満塁の好機を作る。それを、なんとか抑える。
次に試合が動いたのは11回表、ここまで1失点のロングリリーフをしてきた亮吾が2ランを浴びてしまう。その裏、慶應打線はここまで打ち崩せていない菅野投手から、4年の植田清太の安打などで2死満塁。バッターは4年の大平。フルカウントになった。私は同期の1打席に懸ける思いを知っていたし、部員全員が願っていたと思う。ピッチャーの足元を抜けるヒットで同点。首の皮一つ繋いだ。そして12回裏、あの瞬間が生まれた。
4年生の思い、そして諦めない気持ちに、私も涙が出そうになった。それだけでなく12回表、抑えれば負けはなくなるというプレッシャーのかかる中で、2年の木澤が三者凡退で切り抜けてくれた。これも裏のヒーローだと思っている。
六大学野球史上に残る激闘。勝ちきれたのは本当に大きい。
ここからまた大学日本代表級の投手が待ち受ける戦いが続くが、一戦必勝でまずは立教戦。今度こそ連勝で勝ち点を奪取する。それだけだ。

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