野球 東洋・梅津晃大、ついに公式戦初勝利
「公式戦未勝利のドラフト1位候補」という不思議な状況に、ついにピリオドを打った。東洋大の梅津晃大(こうだい、4年、仙台育英)が学生最後のシーズンの6試合目の登板で、公式戦初勝利を挙げた。「めちゃくちゃ長かったですけど、野球やっててよかったです」。梅津の笑顔がはじけた。
1人の走者も許さない完全救援
187cmの長身から最速153kmのストレートを投げ込む梅津は、同期の上茶谷大河(かみちゃたに・たいが、京都学園)、甲斐野央(かいの・ひさし、東洋大姫路)とともに、東洋大の誇る「ドラフト1位候補投手トリオ」の一人だ。プロのスカウトからは「メジャーに行けるのは梅津」と、そのポテンシャルを高く評価されてもいる。
この秋最初の3試合は19回3分の2を投げて自責点2だったが、この間の打線の援護はたったの2点。10月11日の駒澤大2回戦では先発して4点のリードをもらいながら、4回に連続タイムリーを浴びて降板。16日の國學院大1回戦でも先発し、6回途中でリードを許してマウンドを降りた。勝てない。白星が遠い。それでも前を向き続ける梅津。この日、ようやく同期の仲間たちがお膳立てをした。
1勝1敗で迎えた國學院大3回戦。東洋大の杉本泰彦監督は、今季初登板となる中田浩貴(4年・大宮東)を先発に抜擢。中田は期待に応えて2回無失点。打線は主将の中川圭太(4年・PL学園)が2ランを放つなど、3回までに5点を奪う。
そして5-0の5回、梅津は3番手の藤井聖(さとる、4年、富士市立)からマウンドを引き継いだ。5点差があったこともあり、梅津は持ち前の剛球で押していった。4イニングを投げて1人の走者も許さない完全救援を果たした。
8-0で迎えた9回は甲斐野がゼロで乗りきり、試合終了。梅津の初勝利が決まった。スタンドへあいさつに向かった後、中川がそっと梅津にウイニングボールを手渡した。プライベートでも仲のいい主将からの祝福に、「自分のことのように喜んでくれてて、泣きそうになりました」。梅津は照れくさそうに振り返った。
大卒で必ずプロ野球選手になる
小学6年のとき、梅津はある大人に言われた。「こんなにきれいな投げ方をする子はいない。大卒で必ずプロ野球選手になる」と。言葉の主は中学野球の強豪・秀光中等教育学校の須江航監督(現・仙台育英高監督)だった。須江のもとへ進学した梅津だが、才能を開花させるまでには多くの時間を要した。中学時代はエースになれず、仙台育英高ではエースとして臨んだ最後の夏に宮城県大会4回戦で破れ、12年ぶりに8強進出を逃した。
その悔しさを糧に「強いところで」と志願してやってきた東洋大では、1年時から登板機会を得た。しかし一方でひとつのミスに厳しい雰囲気が重荷となり、徐々にキャッチボールでも球が抜けるようになった。退部を考えた時期さえあった。そんなとき、両親や仲間たちが励ましてくれた。なんとか踏みとどまった。その後もけがなどでくじけそうになった時期もあったが、学生最後のリーグ戦を、ついに万全の状態で迎えられた。
この日の勝利で、東洋大は次週の亜細亜大戦で連勝して勝ち点を挙げれば4連覇というところまで来た。中川は「アイツに白星がついたことで、さらにチームも勢いに乗れると思います」と力強く話した。梅津の初勝利がもたらしたものは、果てしなく大きい。