慶大野球部・大久保監督が求める「先を読む力」【体育会 就活企画】
――監督さんは慶應のOBで、プロ野球も経験されました。4年間の部活動の中で、学生たちにはどんな資質や能力を身につけてほしいですか。
部員の中でプロ野球選手になれるのはせいぜい数人ですし、社会人野球のチームに入れるのも全体の1割ほど。ほとんどの学生は企業に就職します。だからこそ、部活動を通して社会に出ても生きる資質を身につけてほしいと思ってます。
あいさつや礼儀を身につけるというのは体育会以前の当たり前の話で、部員たちには「その先」を身につけてほしい。具体的には「先を読む力」です。指導や注意をされてから動くのではなく、常に自分がいまできることや、長いスパンで目指していることを考え、率先して動ける人間になってもらいたいですね。
実際、監督としても野球の戦術や技術に関してより、人としてのあり方や立ち居振る舞いについて指導してる時間のほうが長いです。
――慶應の野球部では、学生の自主性を重んじたチーム運営をされているそうですね。
上の命令で動くような組織は目指してません。動くのは学生たち自身。野球部には200人弱の部員がいて、普段はAチーム、Bチーム、Cチームに分かれて練習しますが、練習メニューや時間の管理はほとんど学生たちに任せてます。そういうことを通じて、組織のマネージメントや、慶應大学の理念でもある「独立自尊」の精神を学んでほしいです。
上のチームで活躍できる可能性なんかを考えて、選手からマネージャーなどのサポート役に転身する学生もいます。つらい決断だと思いますが、組織の運営に関わった経験は企業に入ってもそのまま生きるはずです。役割は人それぞれですが、4年間活動して「学んだのは我慢することだけ」というような学生生活だけは送ってほしくないと思ってます。
――就職活動のために練習や試合を抜けざるを得ない学生もいると思いますが、何かルールは決めていらっしゃいますか。
私が就任したころはルールがあいまいでした。「就活があるので休みます」とだけ連絡して1日中練習に来ない部員もいましたよ。でも、面接といっても終日かかるわけではないですよね? いまは時間や場所、企業名を事前に報告させるようにしています。
中には練習にあまり出ずに就活をして、いくつも内定をもらっている者もいました。一方でレギュラーの選手は就活を最小限にせざるをえないし、大事な試合と重なったために銀行の最終面接を泣く泣く辞退したという三塁コーチャーもいました。これではチームとして不公平ですよね。
学生たちには手当たり次第に受けるんじゃなく、きちんと企業を絞り込みなさい、とは伝えてます。就活はもちろん大切ですが、後輩たちから見て恥ずかしくない行動をしないと。少しずつチームも変わってきて、この春に卒業する4年生の代には私の考え方がかなり浸透したという手応えはあります。
――監督さんから見て、企業から内定がとれる学生にはどんな傾向がありますか。
第一印象としてハキハキしてて輝いてる学生というのは、話をさせても簡潔に要点を言えるケースが多いですね。そういうことは、選手としての力量とは別問題だと思います。下のチームにいてもグラウンドに早く出てきて常にチームを鼓舞しているような部員については、就活も心配してませんし、実際に内定をもらってきますよね。
逆に、上のチームにいて選手として優れていても、おとなしすぎたり我が強すぎたりという部員もいますし、練習も休みがちでチーム内で存在感のない部員もいる。大丈夫かな? と思っていると、たいてい就活でも苦労してます。
――これから就活に臨む体育会学生に、メッセージをお願いします。
体育会で頑張った経験は必ず社会でも生きますが、体育会で体験したことが世の中で全部通じるとは思わないほうがいい。学生時代は勉強して知識を広げ、多くの人と出会うことも大切です。広い視野をもって、就活を乗り切ってください。
大久保秀昭(おおくぼ・ひであき)
1969年、神奈川県生まれ。捕手、外野手。桐蔭学園高、慶大を経て日本石油(現新日本石油ENEOS)時代にはアトランタ五輪で銀メダルを獲得。96年のドラフト6位指名でプロ野球近鉄バファローズに入団。01年に現役引退後、05年から新日本石油ENEOSの監督となり都市対抗野球を3度制覇。大リーグ選手の田沢純一などを育てた。2015年から慶大野球部監督。
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