湘南ベルマーレ・水谷社長「競技以外に得意分野を!!」【体育会 就活企画】
企業側が体育会系の人材に求める資質とは、いったい何なのか。本当に採用したいのはどんな学生なのか。サッカーJリーグ1部の湘南ベルマーレ社長で、スポーツビジネスの最前線で活躍してきた水谷尚人さん(52)にインタビューしました。
――水谷さんは早大ア式蹴球部(サッカー部)出身で、卒業後はリクルートに就職。その後、日本サッカー協会やNPO法人湘南ベルマーレスポーツクラブの理事長などを経験した後、2015年から現職に就かれています。これまでのご経験をふまえて、体育会出身者の強みは、どんなところにあるとお考えですか?
スポーツの世界には「勝った、負けた」があって、どんなに頑張っても結果が出ない時もある。それでも現実を受け入れて、さらに努力を続けないといけませんよね。でもそれって、世の中に出たらしょっちゅうあること。どれだけ努力しても契約を勝ちとれなかったり、どれだけ営業成績を上げても出世できなかったり。理不尽なことばかりです。
そういうことを学生時代から身をもって体験してきたのは、強みになると思います。「リバウンドメンタリティー」という言葉があって、何かに失敗したとき、そこから立ち直ったり、乗り越えたりする気持ちの強さのことを言います。スポーツ選手である以上、ずっと勝ち続けるというのはほぼないわけで、誰しも敗北や挫折を乗り越えてきた経験があるはず。そうした経験はきっと、社会に出ても生きてきますよ。
――ご自身も体育会出身ですが、就職活動と部活動は両立できましたか? それから学生時代のうちに「やっておくべきこと」をあげるとすれば何でしょうか?
私がリクルートに入社したのは1989年。当時の日本はバブル景気真っ盛りだったので、正直、就活にはあまり苦労しませんでした。あっという間に内定が決まってしまって、部活にも影響はなかった。だから、私の就活は今の学生たちには参考になりません(笑い)。
ただ、私の場合は就職したあとで「もっと勉強しておけばよかった」と、強く後悔しました。営業に回っていても、社会についての知識があったほうが顧客との話もふくらむし、信用も得られます。
もっと苦労したのは語学です。2002年ワールドカップでは組織委員会に所属していたのですが、外国の人たちともコミュニケーションをとる必要がありました。「学生の時から英語を勉強していれば……」と、心から悔やみましたね。
――とはいえ、部活の練習でクタクタになって勉強に身が入らない、という学生はいまでも多そうです。
体育会にいると時間がないと言う人がいますが、私はその言葉をあまり信用してません。雑用を含めて覚えることが多い1年生ならともかく、上級生になると余裕も出てくるはず。勉強できない理由にはならないと思います。そもそも社会人になると、もっと時間がなくなります。あとから取り戻そうとしても、時間は戻ってきませんよ。
――ところで、企業の経営者として採用したいと思うのはどんな学生ですか?
シンプルだけど、第一印象で明るくて健康な人かな。体育会出身かどうかは、私は気にしません。
ベルマーレの場合、元Jリーガーやサッカー部出身者も何人かいますが、サッカー出身者だからいいわけではなくて、本当に必要なのは「ベルマーレを好きな人」だと思ってます。ベルマーレは1999年にスポンサーが撤退してから、「サッカーを通じて地域を元気にする」を旗印に、地域の人たちと一緒に運営するチームとしてやってきました。だから「チーム愛」と「地域愛」は絶対に必要です。そうした熱意が感じられる人がいいですね。
あとは、何かちょっと特徴のある人がいいと思います。「マーケティングが大好き」とか、「営業が大好き」とか、「何カ国語話せます」とか。プロのサッカー選手の場合でも、競技という一芸にプラスアルファして何か得意分野があると、引退後のセカンドキャリアも苦労しないかもしれない。体育会の学生も同じで、自分の競技以外の得意なことを何か身に着けておくと強いのではないでしょうか。
――ところで、体育会の「人脈」は、就活で役に立つと思いますか。
人によるとは思いますが、生かせるものなら、うまく生かしたほうがいいと思います。私の場合、就活では大学の人脈は関係ありませんでしたが、転職したサッカー協会で関わるのは大学の先輩ばかりでした。やはり、同じ釜の飯を食った仲間というのはよくも悪くも話が早くて、ことが円滑に進む。ずいぶん助かりました。
最近の学生でちょっと心配なのは、おとなしくてコミュニケーションが苦手な印象があることです。たとえば大学のサッカー部員は、試合のチケットもさばかないといけない。それで毎年、私のところに学生が訪ねてきて「試合のチケットを買ってください」と頼まれていたんですが、あるときから前置きも何もなく、チケットを郵送してくるようになった。チケットを持って来てくれて、顔を見て話したら仲よくもなれるし、人も紹介できるのに……。もったいないなあと思いますね。いまの学生はSNSやメールに頼りがちですが、直接人と会って話すことも大切ですよ。
――これから就活に臨む学生たちに、アドバイスをお願いします。
これはベルマーレのキャッチフレーズでもあるのですが、「たのしめてるか。」と、常に自分に問いかけてみてください。私たちのようにお客さんを楽しませる職業は、まず自分たちが楽しめてないと話にならない。東京ディズニーランドで働いている人たちは、みんな楽しそうにしてるでしょ? 楽しそうにしてる人のほうが、苦しげな人よりパフォーマンスは上だったりします。「どうせやるなら楽しんでやる!!」くらいの気持ちで、就活も乗り越えてください。
水谷尚人(みずたに・なおひと)
1966年、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒。小学校のときにサッカーを始め、早稲田大学ではア式蹴球部(サッカー部)に所属。89年、リクルートに入社。91年には日本サッカー協会に転職し、JAWOC(2002FIFAワールドカップ日本組織委員会)への出向などを経験。NPO法人湘南ベルマーレスポーツクラブ理事長を経て、2015年から株式会社湘南ベルマーレ社長。スポーツマーケティングを支援する「株式会社SEA Global」のCEOも務める。
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