点取り屋の挫折 川崎フロンターレ谷口彰悟・1
輝かしい舞台で躍動するプロアスリートの中には、大学での4years.を経て花開いた人たちがいます。ここに現役のプロ選手が大学時代を中心に振り返る連載「プロが語る4years.」をスタートします。シリーズ第一弾はサッカーJリーグ1部、川崎フロンターレのDF谷口彰悟さん(27)です。全4話中の1話目は、ディフェンダーのイメージが強い谷口選手がFWだったころについてです。
得点パターンを持つ小学生
2017、18年シーズンとJ1を連覇。かつてことごとくタイトルに嫌われ、“シルバーコレクター”と揶揄されていた川崎フロンターレはいま、黄金期を迎えている。
クラブの草創期から攻撃が売りだった。ただ、殴った分だけ殴り返された。サッカーファンにはおなじみの姿が、この2年で変わった。破壊力のある攻撃はそのままに、堅守ぶりが際立つようになったのだ。その守備陣の中心でプレーするのが谷口彰悟。日本代表経験もあるプロ6年目のDFだ。
高校まではふるさと熊本ですごし、筑波大学へ進んだ。大学ナンバーワンDFとして名をはせ、卒業後の2014年に川崎入り。プロ1年目からレギュラーとしてプレーし、いまでは替えのきかない守備のリーダーとして奮闘する。
爽やかなルックスで女性人気が高い。もちろんクレバーな守備と攻撃のセンスも兼ね備えたプレーぶりは、コアなサッカーファンからの評価も高い。老若男女に愛される選手とは、彼のような人を言うのだろう。
サッカーを始めたのは、幼稚園のころと早かった。
「プロの選手でも小学生から始めた人も多いので、僕は比較的幼いころにサッカーと出会ったんだと思います。兄と一緒に通っていた幼稚園の先生がサッカー好きで、チームをつくることになって。兄にひっついてボールを蹴り始めたのがきっかけです」
小学生になると、すぐにクラブチームへと入った。スポーツどころとしても知られる九州。熊本はサッカークラブも多い。「もちろん少年野球に入る友だちもいたけど、サッカーも人気でした。昔から盛んな土地でしたから」と谷口。
冷静な判断で敵のストライカーを止める。いまとは正反対の立場だったのが、小学生時代。「FWでバリバリ点を取ってましたね」。当時を回想して、笑う。
「体はそれほど大きくはなかったんですけど、当時の僕には得点パターンがありました。マークするDFからプルアウェイ(膨らむようなコースをとって相手から離れる動き)をしてからパスを受け、ゴール前に切れ込んでシュート。これでたくさん点を取りました。当時のコーチが海外のサッカーを好きで、映像をもらって、家でよく見てました。マイヒーローはティエリ・アンリ(元フランス代表)。もう完全に攻撃の選手でしたね」
中学では通用しなかった
幼少時代は体格にばらつきがあるため、どうしても大柄な子が有利になる。どこのサッカーチームも、エースは大きくて足が速い選手が多い。
谷口少年は一味違った。当時から動きを工夫し、ゴールを奪った。いまのセンスあふれるプレーの兆しが見て取れる気がする。当の本人は「そんなことないですよ。あのころはそんなにサッカーを俯瞰してなかったし、深く考えてなかったです」と否定する。中学生になると、初めての挫折を味わった。
「それまでのプレーがぜんぜん通用しなくなりました。ドリブルもシュートも。いままでやってきた自分の感覚では、点も取れない。『ここから何をしていけばいいんだろう……』って悩んだというか、考えました。きっと、サッカーで壁にぶつかったのはあれが初めてでした。どんどんポジションも変わっていきました。ボランチやサイドハーフもやりました。もう、FWをやることはなかったですね」
十代半ばにして、厳しい現実を突きつけられた。それでもサッカーへの情熱は冷めなかった。「高校でもサッカーを続けたい。そして選手権に出たい。その気持ちがなくなることはなかったです。だから、自然とあの学校を目指しました」
谷口少年は熊本の強豪、県立大津(おおづ)高校に進学することになった。そして、新たな衝撃に直面することになる。「サッカー選手・谷口彰悟の根本をつくるきっかけになりました」と語る体験が、そこには待っていた。